虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「鉢の木」とギリシャ神話:物語の構造一致の例

「鉢の木」とギリシャ神話:物語の構造一致の例


明けましておめでとうございます。↓年賀状です。「五足」という印は、私の雅号です。


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小学生のころ、以下のようなお話を聞かされた人も多いと思います。

ある大雪のふる夕暮れ、佐野の里の外れにあるあばら家に、旅の僧が現れて一夜の宿を求める。住人の武士は、貧しさゆえ接待も致されぬといったん断るが、雪道に悩む僧を見かねて招きいれ、なけなしの粟飯を出し、自分は佐野源左衛門尉常世といい、以前は三十余郷の所領を持つ身分であったが、一族の横領ですべて奪われ、このように落ちぶれたと身の上を語る。噺のうちにいろりの薪が尽きて火が消えかかったが、継ぎ足す薪もろくに無いのであった。常世は松・梅・桜のみごとな三鉢の盆栽を出してきて、栄えた昔に集めた自慢の品だが、今となっては無用のもの、これを薪にして、せめてものお持てなしに致しましょうと折って火にくべた。そして今はすべてを失った身の上だが、あのように鎧となぎなたと馬だけは残してあり、一旦鎌倉より召集があれば、馬に鞭打っていち早く鎌倉に駆け付け、命がけで戦うと決意を語る。


年があけて春になり、突然鎌倉から緊急召集の触れが出た。常世も古鎧に身をかため、錆び薙刀を背負い、痩せ馬に乗って駆けつけるが、鎌倉につくと、常世北条時頼の御前に呼び出された。諸将の居並ぶ中、破れ鎧で平伏した常世に時頼は「あの雪の夜の旅僧は、実はこの自分である。言葉に偽りなく、馳せ参じてきたことをうれしく思う」と語りかけ、失った領地を返した上、あの晩の鉢の木にちなむ三箇所の領地(加賀国梅田庄、越中国桜井庄、上野国松井田庄の領土)を新たに恩賞として与える。常世は感謝して引きさがり、はればれと佐野荘へと帰っていった。

wiki(鉢木)



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鉢の木の一場面(東京都立図書館・蔵)



このお話、アニメ「巨人の星」でも取り上げられ、こっちのほうの逸話で覚えている人も中高年の人には多いでしょう。このお話はもと、能の演目で、世阿弥とも観阿弥とも、かが作ったとも言われます。定かではありません。後に人形浄瑠璃とか義太夫とかに翻案されていて、日本人の心の琴線に触れる話なのです。もっとも、このお話は、明治期以降、戦前・戦中まで、修身(道徳)の教科書に取り上げられ、日本人を「ある意味」歪めることに貢献したとも言えます。北条時頼を「天皇」に置き換えれば、ただちに勤皇の志を想起させ、無償のお勤めを正当化させることになるわけですね。「美談には棘がある。」(私の言葉です)


ところで、「鉢の木」にそっくり過ぎるほどのお話が、ギリシャ神話にあります。ある日、貧しい家を訪れた老人と若者の旅人2人連れ、一夜の宿を懇願します。家の主は、2人も迎えるのは大変だったとは言え、歓待します。この2人は翌朝、好意に感謝して旅立ちます。そして、その後、2人は主の前に本当の姿を現します。この2人は、なんとゼウス(最高神)とヘルメス(伝令神)だったのです。主が神の恩寵を受けたのは、言うまでもありません。


どうでしょうか。「鉢の木」とほぼ同じ筋立てのお話です。このように物語が酷似している場合、説話のアーキタイプ(雛形)として、同じ構造のお話が、別個に作られたと見る立場があります。ロシア・フォルマリズムとか構造主義的アプローチがそれです。ただ、そうではなく、日本にギリシャ神話というものが伝来したのが結構早くて、それを翻案した人が「鉢の木」に置き換えた、とも言えるかと思います。私は、たぶん「鉢の木」の話の下敷きには、ギリシャ神話に出てくるこのお話があったと考えます。後世の創作、その表現が悪かったら、翻案でしょう。いかにも道徳・修身のテキストとして、よく出来ていますね。


参考過去ログ

iirei.hatenablog.com

 :マンガも31通りに分類できる?

iirei.hatenablog.com

 :パンドラの箱ロシア・フォルマリズム

iirei.hatenablog.com

:恋の行方は?:2020年7月4日の易経占いと「物語の構造」




今日のひと言:このギリシャ神話のエピソード、高校生のころか大学生のころか読んだ記憶がありますが、それがどの本に載っていた話だったかは、思い出せません。でも、「鉢の木」のお話と、とっても似ていると思ったものです。


ちょっと考えてみると、この「鉢の木」のお話、日本人の心の琴線に触れる「水戸黄門」と同一パターンですね。水戸黄門も、身分を隠して下々の者たちに接し、悪党をさんざんに懲らしめるというあたり、現象は逆ですが、「鉢の木」と同一構造なわけです。


なお、今回年初に鎌倉幕府・北条氏ゆかりのお話を持ってきたのは、今年2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を意識したものではなく、単なるシンクロニシティです。書いたあとで、今年の大河ドラマの情報が入っただけのことです。大河ドラマ自体、何年か前の『真田丸』を観たっきり見ていませんもの。まあ、脚本が比較的達者なシナリオライター三谷幸喜だというのもこの2作品共通していますが、我が家では、もう大河は観ません。TVの電源を切るのみです。






今日の6句


霜の害
特に近世
多けらし


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 図書館に立ててある詩碑を見て。

 (2021.12.25)



風に揺れ
黒い葉招く
夾竹桃


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キョウチクトウ(猛毒)の巨樹。黒いのは、光の加減。

 (2021.12.25)



頼りなげ
薄雪カズラも
毒を持ち


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この植物も、キョウチクトウ科の灌木です。有毒。

 (2021.12.26)

iirei.hatenablog.com



リュウノヒゲ
身に宝玉
隠し持ち


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日本庭園によく植えられるありふれた草ですが、根に紡錘形の球根がついていて、漢方薬の材料になります。(麦門冬:ばくもんどう)ジャノヒゲも、同じ植物を指します。

 (2021.12.27)



大屏風
谷川連峰
広げたり


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 (2021.12.29)



雑木を
囲いし人は
何思う


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 (2021.12.29)






今日の写真集



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小山のような古墳 (太田市八幡山古墳)(2021.12.28)




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雪を冠した浅間山  他県の人が、なぜここに富士山があるのか、とタクシー運転手に訊いたことがあるそうです。  

(2021.12.29)






@商取引についての比較


12月25日くらいのNHKのニュースを見ていたら、流通に関して正反対とも思える事例が紹介されていました。一つはイギリスで、商品を「量り売り」で売っていて、客は容器持参で店まで行き、マメならマメを自分で計り、値段シールを貼り付け、レジまで行き、清算します。このやり方だと、包装用資材が必要ありません。なんともSDGs的なお買い物。


一方、日本における「ダークストア」というシステムも紹介されていました。(量り売りとダークストアは、別の時間に放映されていました。)このダークストアは、倉庫に商品が積んであり、注文を受けると、AIがもっとも効果的に在庫を回れるよう、スタッフのスマホに「一筆書き」で回るルートを表示し、そのようにスタッフは動き、最終的には注文から10分以内に顧客に届ける、という超絶的な方式です。(お届け地域は、10分以内に届けられるところに限定されます。より広い範囲をカバーしたければ、店舗を増やすことで対応します。)


流通も、ここまで来たか、という感がありますが、私は、人が生きていく上では、「量り売り」に軍配を上げる者です。今回はミニ記事なので、どうして私がそう思うかについては書きません。

 (2021.12.26)










☆☆過去ログから厳選し、英語版のブログをやっています。☆☆


“Diamond cut Diamond--Ultra-Vival”



 https://iirei.hatenadiary.com/



ダイアモンドのほうは、週一回、水曜日か木曜日に更新します。
英語版ブログには、末尾に日本語ブログ文も付記します。記事は
虚虚実実――ウルトラバイバルとはダブりませんので、こぞって
お越しを。