虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「インドへ馬鹿がやって来た」・・・山松ゆうきちの「暴挙」


(5回にわたるマンガ特集、最終回。)

 「インドなら、マンガがないから、インドでマンガを売り出せば大もうけできるのではないか」、と着想し、実際インドに出向き悪戦苦闘すれど、失敗して日本に戻ってくるというお話。


 ちゃんとした市場調査もせず、インドの言語ヒンディー語も、旅行マップ程度の情報を仕入れただけで、インドに赴くという行動派の、漫画家・山松ゆうきち。この本は、「実録・マンガ小説」とでも呼べましょうか。このような本として、吾妻ひでおのルンペン日記「失踪日記」という怪作もあります。(いずれも、もちろんマンガ作品です。)


 当然、インドに行ってみると、宿を探すのに2日はかかるは、日本語⇔ヒンディー語の翻訳できる人を確保するのに悪戦苦闘し、100部の単位で、「なんとかインドで日本のマンガをヒンディー語に移植した」わけだけど(平田弘史・「血だるま剣法」)、それがまた、売れない!!←もともと売れそうもない、日本の武士のお話。


 こんなお話が繰り広げられます。この無謀なマンガ家、西松ゆうきち氏を、私は小学生のころから知っています。それは、彼の作品にはエロティックなものが多く、当時私は工場の敷地のなかに住居があり、従業員用の食堂があり、大人向けの雑誌を置いてあったので、会社が休日の時、行っては妄想に浸っていたわけです。小学生のころ。


 彼の作品は、プロ中のプロを描く「プロフェッショナル列伝」こまったチャンのおばあさんたちをコミカルに描く「くそババの歌」など、人生の深淵に読む人を引きずりこむような傑作ぞろいなのです。すぐれたマンガ家の証として、擬声語、擬態語の巧みさが挙げられますが(たとえば荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」での「ズキューーーン:キスの音」)、山松ゆうきちにも雨の音として「ざかざん ざかざん」という表現をやっています。

あ、ちょっと寄り道しました。続けて・・・


 たとえば「糞餅魂:くそもちだましい」、この作品の主人公は、とおく江戸時代に「退屈でしょうがない」将軍・徳川綱吉が、うんこをまねた餅を作った職人に栄誉を与えて、以後連綿と開業している「弁女堂」の当主です。味も臭いも「うんこ」である「もち」です。


 そうそう売れそうもないですが、なぜかアメリカでよく売れる、アメリカ側からも、この当主をまねくことになり、当主は喜び勇んで訪問しますが、じつは、アメリカ人たちは「無礼講のパイなげといった意味で」糞餅を投げ合っていたのです。落胆した当主は落胆のあまり死んでしまうというお話でした。うーーん、渋い話だ。


今日のひと言:いわゆる成人向けのマンガ本にも、優れた作品は埋もれており、山松ゆうきちかわぐちかいじ能條純一などは、一般のマンガ界に受け入れられた幸運なマンガ家たちです。


山 松

山 松

ニッポン玄人考 (ワイドKC)

ニッポン玄人考 (ワイドKC)





過去ログより、マンガ、アニメに触れた記事(抜粋)



もやしもん

    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080421

静かなるドン

    http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080605

忍風カムイ外伝

   http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080913

MW

   http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080918

デスノート

   http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080923

バビル2世

     http://d.hatena.ne.jp/iirei./20090116

デビルマン

     http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090121

あさりよしとお木星ピケットライン

     http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090401

犬夜叉の最終回

     http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090403

ヘウレーカ

     http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090710

江戸むらさき特急

     http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090715

聖☆おにいさん

     http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090720

お茶にごす。

     http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090725