『今昔物語集』:芥川龍之介が発掘したリアリスティックな説話文学
芥川龍之介は、彼の文壇デビュー作として、『芋粥』(もしくは『鼻』:どっちだったか忘れてしまいました)をものし、この短編は夏目漱石に激賞され、「こんな作品を1ダースも書けば、文壇で類の無い作家になれます」との評を引き出しました。そんな作品として、『羅生門』なども挙げられます。
これらの芥川作品のイマジネーションの元となったのは平安時代後期に成立した『今昔物語集』(こんじゃくものがたりしゅう)です。これはたくさんの短い物語を、一定の配列の意図の本に纏めたリアリスティックな物語集――「説話文学」です。この本のあと、『宇治拾遺物語』、『古今著聞集』、『沙石集』などの説話文学が次々に編纂されるわけです。
芥川龍之介(wiki)
さて、私は、芥川のように原文を読んで意味が取れるのでも、その物語に一定の視線からスパイスを振るほどの文才もありません。多分、岩波文庫などの本格的な訳注付きの本でも読めないでしょう。では、どうするか・・・私は図書館のYA(ヤング・アダルト)コーナーにあるだろうと思い、検索してみましたが、引っかかったのは『今昔物語集』(令丈ヒロ子:著;つだなおこ:挿絵/岩崎書店)でした。この本、実はYAコーナーではなく、児童書のコーナーにあったのです!!
児童書、この本を読んで見ると、大人の私が読んで、理解できるのは当然として、中学生は多分読みこなせて、小学生でも、読める子がいるだろうと思います。難しい古典を難しいままで訳注するより、解りやすくする方が当然難しいわけで、令丈さんは、うまく物語をリライトしていると思います。いわゆる「超訳本」はもとの作品の価値を著しく損ねる場合が多いですが、令丈さんはうまく訳しているのです。
収録された作品は、17話と少なめです。本来の今昔物語集は30巻にも及ぶ大部なものですので、全てを全て取り上げるのは大変だと思います。いくら易しく書いたとしても、人には人のキャパシティがありますから。
『芋粥』。利人(としひと)将軍が五位という(身分の)男に、芋粥をたらふく食わせるというお話ですが、芥川はここに、「憧れていたもの(芋粥)が手に入ると、案外失望する」という解釈を加えていますが、これは現代人式の解釈で、本編ではありがたく頂くことになっています。この訳文、面白いのは話の進行が3名の女性の噂話に拠っていることです。口さがない女性の噂話となっていることが令丈さんの工夫なのでしょう。それで、現代人の私は、芋粥というと、サツマイモとかジャガイモとかの粥を連想しますが、平安時代にはこの舶来品がないため、ヤマイモ、サトイモを粥にするのが、このころの普通の食卓であったと思います。
『安義橋の鬼』。これは怖いお話でした。夜な夜な安義橋に鬼が出て、道行く人を食べるという噂を聞きつけ、腕自慢の武士が肝試しに出向きました。果たして橋には人影があり、近づいてみると、うら若き女性が泣いている。でも、これは鬼かも知れないと、馬を飛ばすと、その女は、一つ目で、三本指をした恐ろしい姿を現すのです。なんとか苦境を抜けた武士でした。ところがある晩、物忌みをして鬼の攻撃をかわすべきだった時、弟が訪ねてきます。さすがに屋敷に通すのでしたが、突然弟は鬼に変身し、取っ組み合いの挙句、鬼は武士の首を噛み切り、殺害し、「やったぜ!!」という乗りで消えます。この時代の鬼は、我々が「棍棒、虎の皮のパンツ、角」とイメージするより変幻自在で、神に近い超自然的な存在であったのか、と思われます。なお、この取っ組み合いの際、武士が「刀をよこせ」と妻に言うのですが、彼女は鬼が弟に化けて夫を襲っていることが理解できずに、「弟となんで戦うのか」と狼狽えるばかりで、みすみす鬼に夫を殺されてしまいます。
今日のひと言:悪鬼が出て来るような怪談話などがあるかと思えば、「わらしべ長者」のように夢のある有名な説話もあり、『今昔物語集』はイマジネーションを刺激する宝石庫であると言えるでしょう。令丈さんは、この大部な作品のサンプル集を作ったのだと思います。
芥川龍之介に関する過去ログ(ほんの一部)
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今日の一品
@野菜のトマト煮(療養食1)
最近(10月17日)病院から退院した弟が作った一品。直腸ガンで腸の一部を切り、縫い合わせたばかりで退院させられ、自分でガイドラインに従って料理を作っています。多すぎる植物繊維、油っぽいものは避けています。
(2019.10.21)
@人参グラッセ(療養食2)
弟作。人参の皮を剥き、乱切りにして、砂糖、少々の塩で煮含めました。刺激は避けるため、シナモンなども入れません。これは私も食べました。
(2019.10.23)
@白ブナシメジとキャベツのナンプラー炒め
キノコの白さを大事にするため、色の濃い調味料は避け、塩、ナンプラー、ネギ油、ラー油を入れ、最後にオレガノを振りました。この料理は私専用。
(2019.10.23)
今日の三句
なまめかし
アワダチソウの
黄花かな
正式名称は、セイタカアワダチソウです。
(2019.10.20)
ドテカボチャ
一株一個
付いてくる
我が家の庭でこぼれ種から生えてくるのです。
(2019.10.20)
榧(かや)の実の
油搾れる
美味そうだ
榧の木は、群馬県、福島県辺りを北限とする針葉樹。実から採れる油は、食用油、工芸品用油に出来ます。
(2019.10.26)