「水は方円の器に従う」〜老子の名言?
老子特集その1(全2回)
私は大学生時代後期のころに、老子に惹かれ、文庫本などで購読していました。諸橋轍次さんの「老子の講義」、小川環樹さん訳注の文庫本「老子」(中公文庫)など。今でも枕頭の書です。そのきっかけには2つあり、一つは自然農法家・福岡正信さんの自然農法(無農薬、無肥料、無除草、不耕起)。福岡さんは「現代の老子」と呼ばれていました。(後になって、彼の農法のウソを教えてもらう機会がありました。)
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090307 自然農法家・福岡正信さんの2つの死
もう一つは今回表題の「水は方円の器に従う」です。この言葉、老子の言葉として紹介されていたのですが、私は、あたかも水には環境のなかで柔軟にその姿を変えるという意志があるように感じたのです。水に人格を見たのですね。
ところが、老子のどこを読んでみても、この成句は出てこず、しばらく忘れていましたが、最近調べてみると、この成句の意味と出どころが解りました。
水は方円の器に従う
(みずはほうえんのうつわにしたがう)
人は環境や人間関係に感化され、よくも悪くもなるということ。固有の形をもたない水は容器の形に従って四角く(方)も丸く(円)もなることから言い、『実語教』に「水は方円の器に随い、人は善悪の友に依る」とあるのによる。孔子は『論語・為政』で「己れに如かざる者(自分よりも劣っている者)を友とすること無かれ」という。
類語:「朱に交われば赤くなる」、「人は善悪の友に依る」、「蓬に交じる麻」
http://thu.sakura.ne.jp/others/proverb/data/mi.htm より
あれー。肯定的ではなく否定的に水を捉えるお話になっていますね。
ここで出て来た「実語教」についてはwikipediaの説明では以下のようになっています。
実語教(じつごきょう)は、平安時代末期から明治初期にかけて普及していた庶民のための教訓を中心とした初等教科書である。『下学集』(文安元年(1444年)成立)の序文に、『童子教』とともに童蒙学習書の筆頭に挙げられている。『図書寮本類聚名義抄』(康和4年(1103年)までに成立)に載っているので、それ以前に成立したとみられる。長門本「平家物語」巻8、無住の「雑談集」に見えるから鎌倉時代には流布していた。著者は不明であるが、その内容から仏教関係者であると推定され、江戸時代、寺子屋で習字本兼修身書として用いられた。
そしてこの本で説かれていた文章の一例として、以下を挙げておきます。
山高故不貴 以有樹為貴 :山高きが故に貴からず。木有るを以て貴しとす。
人肥故不貴 以有智為貴 :人肥えたるが故に貴からず。智有るを以て貴しとす。
富是一生財 身滅即共滅 :富は是一生の財。身滅すれば即ち共に滅す。
智是万代財 命終即随行: 智は是万代の財。命終われば即ち随って行く。
http://www.asahi-net.or.jp/~xn2m-fjst/jitugo.htm より。
案外著名な文章を含んでいますね、特に最初の行。実語教は対句をよく使い、覚え易く編集されているようです。
今日のひと言:老子には、水を讃える表現が頻出します。「水は誰でもが蔑む場所で生きていくのを良しとしている、ゆえに道(道家の根本原理)に近い:第8章」といったぐあいに。同じ水を見ても、儒家と道家では180度違う評価になってしまうのが面白いことです。もっとも、あたかも水に意志があるように捉えるのは、やはり両者とも中国哲学だからでしょうか。
老子に関する過去ログ
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20051231:will(封神演義)
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070808:老子問答その1
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070813 :老子問答その2
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070818 :老子問答その3
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070902:エタノール車と「小国寡民」
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20071126 :老子と「無為自然」
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080320:老子問答その4
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080330:老子問答その5
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20080409:老子問答その6
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20081013 :老子問答その7
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20081023 :老子問答その8
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20081102 :老子問答その9
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090610 :老子の七定理
- 作者: 諸橋轍次
- 出版社/メーカー: 大修館書店
- 発売日: 1989/07/01
- メディア: 単行本
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: 小川環樹,高木智見(解説)
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2005/04/10
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: 小川環樹
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1997/03/01
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 40回
- この商品を含むブログ (44件) を見る