虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「枯野抄の心理」〜ひねくれた芥川龍之介

優れた芸術家、宗教家には弟子が集まります。松尾芭蕉なら「蕉門の十哲」、釈迦なら「釈迦の十大弟子」、孔子なら「孔門の十哲」、キリストなら「キリストの12使徒」といったぐあいで、大体10名前後の弟子を取り上げることが多いようです。まず、面白いので、その弟子たちのリストを挙げてみましょう。


芭蕉の場合:


芭蕉門下の10人のすぐれた俳人。ふつう、榎本其角(えのもときかく)(宝井其角)・服部嵐雪(はっとりらんせつ)・向井去来内藤丈草杉山杉風(すぎやまさんぷう)・志太野坡(しだやば)・越智越人(おちえつじん)・立花北枝森川許六各務支考(かがみしこう)をいうが、異説もある。蕉門十哲

http://kotobank.jp/word/%E8%95%89%E9%96%80%E3%81%AE%E5%8D%81%E5%93%B2より  



釈迦の場合:

傑出した門下生のことを高弟、高足、四傑、四天王、十哲等々と形容しますが、 お釈迦さまのお弟子のなかで、10人の優れた人達のことを指して「釈迦十大弟子」と申します。 彼らは綺羅星のごとく教団内で偉才を放ちます。


いわゆる智慧第一の舎利弗(しゃりほつ)、 神通第一の目連(もくれん)、 頭陀第一の摩訶迦葉(まかかしょう)、 天眼第一の阿那律(あなりつ)、 解空第一の須菩提(しゅぼだい)、 説法第一の富楼那(ふるな)、 論義第一の迦旃延(かせんねん)、 持律第一の優波離(うばり)、 密行第一の羅喉羅(らごら)、 多聞第一の阿難(あなん)の各尊者です。


http://www.shiga-miidera.or.jp/doctrine/be/116.htm より



孔子の場合:

3500人の弟子がおり、特に「身の六芸に通じる者」として七十子がいた。そのうち特に優れた高弟は孔門十哲と呼ばれ、その才能ごとに四科に分けられている。すなわち、徳行に顔回閔子騫冉伯牛・仲弓、言語に宰我・子貢、政事に冉有子路、文学(学問のこと)に子游・子夏である。その他、孝の実践で知られ、『孝経』の作者とされる曾参(曾子)がおり、その弟子には孔子の孫で『中庸』の作者とされる子思がいる。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%94%E5%AD%90 より


キリストの場合:

イエス・キリストに側近の弟子として仕え、原始キリスト教の布教活動を精力的に行った12人の人物を『十二使徒』と呼ぶ。


十二使徒とは、ペテロ・アンデレ・ヤコブヨハネ・ピリポ・パルトロマイ・トマス・マタイ・アルバヨの子ヤコブ・タダイ(ユダ)・シモン・イスカリオテのユダの12人である。
イエス・キリストに随伴する12人の使徒は、全知全能の神が統率する新しい精神的王国の到来を意味すると同時に、イスラエル民族の12部族の歴史を象徴するものでもあった。イエスは、ガリラヤからサマリヤ、ユダヤというように南方に布教した後、北部のフェニキア地方にも足を伸ばして神の教えを説いたが、その宣教の旅路に同伴した12使徒のような弟子もいれば、在家の身でイエスの宗教に帰依し支援する信者もいたという。

http://www5f.biglobe.ne.jp/~mind/vision/es003/christ004.html より


ここに、芥川龍之介の小説に、松尾芭蕉の臨終にあたり弟子たちの心理を書いた「枯野抄」があります。短編ながら、芥川の文学の質を表わすのに十分な作品です。師・松尾芭蕉の死に臨み、弟子たちはいろいろな反応を取りますが、内藤丈草は以下のような感慨を持ちます。


丈草のこの安らかな心もちは、久しく芭蕉の人格的圧力の桎梏に、空しく屈してゐた彼の自由な精神が、その本来の力を以ってようやくく手足を伸ばさうとする、解放の喜びだつたのである。彼はこの恍惚たる悲しい喜びの中に、菩提樹の念珠をつまぐりながら、周囲にすすりなく門弟たちも、眼底を払つて去つた如く、唇頭にかすかな笑みを浮べて、うやうやしく、臨終の芭蕉に礼拝した。――
 

かうして、古今に倫を絶した俳諧の大宗匠芭蕉庵松尾桃青は、「悲歎かぎりなき」門弟たちに囲まれた儘、かうぜんとしてしょくくわうに就いたのである。

青空文庫より(難しい表記をちょっと手直ししました)


丈草は重りであった師・芭蕉が亡くなって、晴々とした気分になったというのです。なんとも利己的な弟子ですね。「悲嘆かぎりなき」という文言が皮肉です。芥川にとっては夏目漱石芭蕉に相当するのでしょう。その心理を丈草に抱かせ、心のバランスを取っていたのかも知れません。現代にきわめて過剰に・昔の話を引き付けた小説です。このような歴史小説を、森鴎外は「歴史ばなれ」と称しました。


参考過去ログ

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090506#1241589137
:時代小説と歴史小説(歴史そのまま・歴史ばなれ)


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090829#1251523673
竹山洋・日本サイテーの脚本家




今日のひと言:芥川龍之介は最晩年の作品として「点鬼簿:てんきぼ」(死んだ人を書き留める文書)という作品を残していますが、彼の人生に自分から絶望して書かれた作品です。この小説に添えられている俳句が、いみじくも内藤丈草の


陽炎や塚より外に住むばかり


になっています。「昆虫のカゲロウは成虫になると寿命は短く、墓に入っていなくても、入っているのと同じことだ」と言った意味です。枯野抄で丈草をあのように書いたことを後悔していたのでしょうか?



【朗読CD】芥川龍之介自伝作品-「追憶」「点鬼簿」「本所両国」他(CD3枚組) (しみじみ朗読文庫)

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森鴎外全集〈14〉歴史其儘と歴史離れ (ちくま文庫)

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今日の料理



コリアンダー入りシチュー






弟作。ニン・タマ・ジャガ+豚肉+ベビーホタテをベースにしたシチューに、仕上げとして、最近茂ったきたコリアンダーの葉を入れてみました。全体の香りは強固だったので、コリアンダーの香りは限定的でした。

 (2015.03.24)





@カジキのカレー粉炒め(ムニエル)






弟作。以前も取り上げたことがあるので3回目。カジキマグロの切り身に塩、カレー粉をまぶして20分置き、片栗粉をまぶしてフライパン。これが案外美味しいのです。

 (2015.03.25)




コリアンダー入りインスタントらーめん






私は案外ジャンクフード的なものが好きなのですが、インスタントらーめんも嫌いではなく、たまに食べます。品目は「昔ながらの中華そば」(東洋水産)。ノンフライ麺で一食319カロリーなのが魅力です。味はまあ正統的な醤油味。ただ私の場合、添加する食材を多めにしています。ネギ、板海苔、キャベツ、ソーセージ、紅ショウガなど。今回は成長著しいコリアンダーパクチー)を多めに入れ、コリアンダー風味にしました。

 (2015.03.26)





@わさび菜のサラダ






わさび菜は、同じアブラナ科の「わさび」と、ぴりっとした風味が似ているのでこう呼ばれます。茹でるとその風味は飛んでしまうので、サラダや漬物にするのが良いようです。今回買ってきたのは山形県置賜産でした。

 (2015.03.27)





今日の一句


イカリソウ
去年枯らして
また芽生え







私の不注意で枯らしたと思っていたイカリソウがそれでも芽吹きました。強い草です。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20130409#1365477983 参照。

 (2015.03.28)