虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

サカキ・ナナオの詩集“Real play”:私の師たる大詩人

サカキ・ナナオの詩集“Real play”:私の師たる大詩人

春風献上!!


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「サカキ・ナナオ」あるいは「ナナオ・サカキ」と言っても、知らない人が多いでしょう。この人は世界を我が庭とみなし、世界中を放浪して世界と対峙する作業を続けた人です。もちろん詩は日本語で書いたのですが、この人、60歳を超えてから英語をマスターし、その語学力を武器に世界を放浪したのです。アメリカの大学で俳句を講義していたとも聞きます。そして、マスコミで有名になるのは好まず、詩は朗読会で披露するだけのことが多かったのですが、野草社という出版社のたっての願いを聞きいれ、一冊だけ詩集『犬も歩けば』というのをマスコミとして刊行しました。英語版として“Real play”という作品集があります。


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私がここに取り上げる3編の詩は、その『犬も歩けば』に収録されている詩をナナオがみずから英訳したものであり、この詩たちを日本語で紹介しようにも私は『犬も歩けば』を手に取ったことがないので、英訳版から私自身で和訳を起すということになります。原詩にどれほど迫れるでしょうか。


WHY

Why climb a mountain?


Look! a mountain there.


I don’t climb mountain.
Mountain climbs me.


Mountain is myself.
I climb on myself.


There is no mountain
nor myself.
Something
Moves up and down
in the air.

January ‘81

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何故


何故山に登る?


見ろ!そこに山がある。

私は山に登らない。
山が私に登るのだ。


山は私自身。
私は自分に登る。


山なんて存在せず
私自身も存在しない。
何かが
動いて登り降りする。
この大気のなかで。
 

      1981年1月


この詩は禅の悟りのような清澄さを感じる詩です。梵我一如とも言えますか。東洋人ならではの感性がこのような境地にナナオを導いたのでしょう。

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FUTURE KNOWS



Thus I heard:


Oakland,California―
To teacher’s question
An eleven-year-old girl answered.
“The ocean is
A huge swimming pool with cement walls.”


On a starry summer night
At a camping ground in Japan
A nine-year-old boy from Tokyo complained.
“Ugly ,too many stars.”


At a department store in Kyoto
One of my friends bought a beetle
For his son, seven years old.


A few hours later
The boy brought his dead bug
To a hardware store, asking
“Change battery please.”

July ’79

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恐ろしい未来


以下のように聞いた:


カリフォルニアのオークランド
教諭の質問に答え
11歳の女の子が
「大洋は巨大なセメントの壁を持った
遊泳用プールよ」と言った。


星の良く見える夕べ
日本のキャンプ場で東京から来た
9歳の男の子が
「醜い、星が多すぎる」と言った。


京都のデパートで
7歳の息子のために
私の友人がカブトムシを買った


数時間後
男の子は死んだカブトムシを
荒物屋に持って行き
「バッテリーを取り換えてください」と言った。

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・・・詩の題名は意訳です。こんな文明に毒された子供たちが大人になったら、どうなるのでしょうか?


PLEASE


Sing a song

or

Laugh

or

Cry

or

Go away.

      January ‘81

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お願いだから


歌を歌って

でなけりゃ

笑って

でなけりゃ

泣いて

でなけりゃ


どこかへ去って

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畳みかけていて、解りやすい詩です。


追加でもう1編。:以下の詩は、『犬も歩けば』(野草社)から引いてきました。(より正確には、別の本に引用されていたものです。)



ナイフを研ぎながら


ナナオよ  ナイフを錆びつかすな
ナナオよ  心を錆びつかすな


海の風は  ナイフに悪いぞよ
海の風は  心に善いぞよ
海の風は  悪くない
ナイフを  研げばよい


海の風は  善くも  悪くもない
海は  心の砥石


磨かれた  ナイフの心
磨かれた  心の海


ナナオよ  
今夜は  ゆったり眠れ


咲きほこる  浜木綿のかげ
サンゴの砂の上
南十字の星を  枕に


 1976.2月  沖縄 西表島

(注:この詩の「ナイフ」とは、人を殺める武器ではなく、森羅万象と対峙する際に要求される「心構え」のことだと思っています。)


iirei.hatenablog.com

 :私が出会った3つの大きな人格:サカキナナオ氏:槌田劭氏:丹下哲夫氏



今日のひと言:私はこの大詩人:ナナオに、おそれもなく自作の詩を献呈しました。彼は私の詩人としての資質に注目してくださり、たくさん詩を書いても、発表出来る詩は一握りのものだ、精進しなさい、と人伝てに激励してくれました。残念にも、彼は10年ほど前、日本の縁者たちのもとで、その生を終えました。(彼は世界標準のハンサムボーイでもあったので、女性たちにモテ、世界中に現地妻と子供がいた、と聞きます。)




犬も歩けば

犬も歩けば

  • 作者:ナナオ サカキ
  • 出版社/メーカー: 野草社
  • 発売日: 2004/05/01
  • メディア: 単行本
亀の島―対訳

亀の島―対訳

ココペリ―人間家族・特別号

ココペリ―人間家族・特別号

  • 作者:ななお さかき
  • 出版社/メーカー: 人間家族編集室
  • 発売日: 1999/04
  • メディア: 単行本

(注:「亀の島:タートル・アイランド」は、ナナオによる日本語訳です。)





今日の一品


@ラム・玉ネギ・オリーブの炒めもの


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弟作。たまに手に入るラム肉を、玉ネギ、オリーブの実とともに、ゴマ・ワサビドレッシングで炒めました。ほかに塩、胡椒。

 (2019.12.27)



ホースラディッシュの葉の塩もみ


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ホースラディッシュ(レホール)は、欧米ではローストビーフの付け合わせに使われるワサビそっくりの風味のハーブ。日本でも、本ワサビが高価すぎるので、その代わりに使われます。本ワサビ100%使用というのは、おおむねウソです。今回は枯れる直前の葉を取ってきて、刻んで塩もみにしました。――さほど辛くありませんでした。

 (2019.12.28)



@姫島 車えびのビスクのスパゲッティ



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パッケージ


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スープスパ



クリスマス・プレゼントとして頂いた、大分県姫島村の特産物:車えびを使ったスープ。スープスパとして食べ、余ったスープはパンに付けて食べました。美味でしたね。

 (2019.12.29)





今日の一首


白き峰
あまたが囲む
この土地で

散歩するとき
心安らぐ


 (2019.12.29)





今日の四句


遥かにぞ
谷川岳
白くある


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 (2019.12.28)



ピラカンサ
既に赤い実
喰われけり


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 (2019.12.28)



寒空に
白きユリ花
笑みにけり


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 (2019.12.28)



街路樹の
シルエット見ゆ
白朧よ


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朝の霧で、地上すれすれに霞む都市施設。樹木も電柱も白い朧(おぼろ)の中。

 (2019.12.31)