この本は、唐代から延々・綿々と伝わる怪奇な事柄を綴った書物です。宋の時代には「剪燈新話:せんとうしんわ」という書物があり、明の時代には、愛欲や怪奇現象を読むのは士大夫がするべきことではないとこの本、禁書扱いされましたが、中国人はもともと愛欲・怪奇が好きなのか、清代に復活したのが聊斎志異だったのです。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20160519#1463653211
:剪燈新話
読書好きだった中学生時代の私、内容、たとえば男女の愛の機微などは解らないまま読んだ記憶があります。それを今、再び読んで見ますに、それぞれの説話の内容が手に取るように玩味できるように思われます。
聊斎志異、著者は蒲松齢(ほしょうれい1640−1715)、私が読んでいる本は訳者が立間祥介氏、出版社は岩波書店(岩波少年文庫 3146)です。
全編、怪奇現象のオンパレードですが、この本に収められた31話から、2つのお話をピックアップしましょう。まず小手調べに「道士と梨の木」。道士とはだいたい仙人のことと思ってもよいようで、ある道士が、農夫が荷車にたくさんの美味しそうな梨を積んで市場に売りにきていた時「その梨を一個恵んでくれ」と頼むのですが、農夫はあげません。そこで、梨を買った人から種を貰うと、なにやら不思議なことに、梨の木がみるみる育ち、たわわに梨が実ります。その実を道士は市場の人びとに分け与えますが、件の農夫が荷車を見るに、一個の梨も無かったというのです。さては、荷車からなんらかの仙術を使って梨を移した(盗んだ)のです。
このお話は、教訓として「ケチはだめよ」と言っているようですが、一面的だと思います。一人に梨を恵んだら、我も我も、と押し寄せるのが人の常です。あげるわけにいかないのです。農夫は生活が掛かっているのです。その意味で道士は「へそ曲がり、意地悪」とも言えるでしょう。このように、「正しい行い」をするであろうと期待される道士は、必ずしもそのような行動を取るわけではない、と言えるようです。
2話目は「化けの皮」。これは記述が恐ろしいです。主人公・太原の王なにがしが歩いていると、なにやらいわくありそうな女に出合います。なんでも嫁ぎ先で苛められていたので、飛び出してきた、という。そこで王は彼の書斎に案内し、匿うのですが、この女は幽鬼で、王の健康を蝕むように祟ります。正体がばれてから、こんな行いをします:
払子を取ってこなごなにし、寝室の戸を打ち壊して入ってくるなり、王が寝ている寝台に上って王の腹をベリベリと引き裂き、心臓をつかみ出して立ち去った。
妻が悲鳴をあげたので、女中がやってきて明かりで照らして見てみると、王はすでに息絶えて、腹の穴からあふれた血であたりは一面血の海、妻は驚きのあまり涙を流すばかりで、声も出せなかった。
P113
じつは、この「化けの皮」は、ハッピーエンドなお話です。妻が尋常ではない覚悟で夫を蘇らせるため、普通では考えられない苦行に耐え、王の心臓を取り戻し、王も蘇生するという結末なのです。このお話の場合、道士が“エクソシスト”のような役割を果たします。引用の初めに出て来る払子(ほっす)は道士が結界として幽鬼を押さえつけていたわけです。怖さにおいては、江戸期の上田秋成の「雨月物語」の一編「吉備津の釜」と比較できると思いますが、さすがの上田秋成でも、殺人シーンをそのまま記載することはないでしょうね。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20120105#1325760340 吉備津の釜
今日のひと言:文学は(だけでなく、人間がやる諸活動は)、やはり時代の制約を受けるものです。聊斎志異の場合も、著者自身も科挙という厳しい文官採用試験に落ちたこともあり、官僚制度の無意味でもある過酷さが、怪奇譚の節々に垣間見えます。なお、以前の拙ブログの「カラス」の項に関連して、id:wattoさんによると、聊斎志異の、人とカラスの結婚(異類婚姻譚)をモチーフとして「竹青」という作品を太宰治が書いているということだったので、読んでみました。たしかに、原作にもカラスとの婚姻の話がありました。なるほど、太宰が創作であるとするように、原文より3倍の分量があり、ハッピーエンドで終わっているのが良いですね。(太宰治アンソロジー 泣ける太宰 笑える太宰 :宝泉薫:彩流社 )
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20160531#1464689876
:カラス・烏・鴉:私は鴉が好き。壁紙に使っている。

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今日の一品
@赤シソの佃煮
先だって、小梅の梅干しを漬けた際に、半分残した赤シソを塩、砂糖とともに佃煮にしました。色を生かすために、醤油は使わなかったわけ。ご飯に乗せると薄く紫色が見えます。ちょっと塩味過多。
(2016.06.12)
@白米ナスのマリネ
弟作。白い米ナスを茹でて、マリネ液に漬けました。パプリカだけでなく、ナス科の野菜は酸味が合うなと思います。
(2016.06.13)
@蕎麦(そば)のカルボナーラ風
卵を消費したくて作ってみた一品。盛りそばにするより短めに茹でた蕎麦に、レンジで40秒チンした卵を乗せました。味は昆布汁(ヤマサ)で。もうすこし卵がとろとろだったら良かったかな。香辛料は山椒の粉。
(2016.06.16)
@玉ネギの芽生え
買ってきて、少々ひねた玉ネギが芽吹いてきたので、鉢に移して栽培することにしました。
葉はネギの代わりにして、はたまた球根は分球するのか、興味津々です。
(2016.06.18)
今日の詩
@蛙合戦(かわずがっせん)
今は夜中。
時ならず、
引水した水田から
聞えてくる大音量――
蛙合戦の
始まりだ。
今よりここは、
蛙の愛欲図となる。
私の詩における師、故・サカキ・ナナオさんもこの題名の詩を書いていました。懐かしいな、と思いながら。
(2016.06.17)
今日の一句
蝶が飛ぶ
私の頭を
貫いて
(2016.06.16)