虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

白川静VS藤堂明保:漢字の語源を巡って


 私は漢字の語源を知るのが好きで、その種の本を読んだり、通信教育で学習したこともあります。その中で、極めて読みにくく、途中で読むのを止めた本が白川静さんの著作でした。一方、めちゃめちゃ面白く読み終わったのが藤堂明保さんの「女へんの漢字」でした。私のなかで極めて評価が変わったという珍しい対比です。そして、この両者は漢字の語源について、お互いの業績を完全否定しあっています。これは何故なのでしょうか?


白川静さんの略歴についてwikiから引いてきますと

1910年4月9日 - 2006年10月30日)は、日本の漢文学者・古代漢字学で著名な東洋学者。学位は文学博士(京都大学)。立命館大学名誉教授、名誉館友。福井県福井市生まれ。


1962年、博士論文「興の研究」で、文学博士号を取得(京都大学)。古代漢字研究の第一人者として知られ、字書三部作『字統』(1984年、各.平凡社)、『字訓』(1987年)、『字通』(1996年)は、白川のライフワークの成果である。


白川は、甲骨文字金文といった草創期の漢字の成り立ちに於いて宗教的、呪術的なものが背景にあったと主張したが、実証が難しいこれらの要素をそのまま学説とすることは、吉川幸次郎藤堂明保を筆頭とする当時の主流の中国学者からは批判され、それを受け継いでいる阿辻哲次も批判的見解を取っている。


しかし、白川によって先鞭がつけられた殷周代社会の呪術的要素の究明は、平勢隆郎ら古代中国史における呪術性を重視する研究者たちに引き継がれ、発展を遂げた。万葉集などの日本古代歌謡の呪術的背景に関しても優れた論考がある。


中国古代学者で東京大学名誉教授の加藤常賢(1894-1978)は、晩年講義で白川の『漢字』を罵倒していたといわれる。

問題は、漢字の成り立ちに宗教的要素、呪術的要素を重視する点にあったのですね。

一方、対する藤堂明保さんの略歴は同じくwikiから

1915年9月20日 - 1985年2月26日)は、日本の中国語学者、中国文学者。


専門は音韻学で、1962年「上古漢語の単語家族の研究」で東京大学から文学博士号を授与される。漢字の意味(語源)の遡及において、字形の異同から共通する意義素を抽出しようとする伝統的な文字学の手法ではなく、字音の異同を重視し、字形が異なっていても字音が同じであれば何らかの意義の共通性があると考える「単語家族説」を提唱した。


1970年に刊行された白川静の『漢字』を全否定し、白川の反論を受けている。日本の漢字改革についても発言したが、「単語家族説」の発想に基づいて、発音と意味の一部を同じくする漢字を統合することにより、字数を削減できると主張した。また、独自の観点に基づく『学研漢和大字典』を編纂し、漢文学の知識をよりわかりやすい形で提供する新しい漢和字典嚆矢となった。

このように並べてみると、同じ漢字学者とは思えないほど、二人の立場が違います。彼らのお互いに対する否定的言辞を挙げますと、

いちいちの字について、このような推測をもちこまれたのでは、たまったものではない。


一つ一つ神様や家廟や、さては呪術にかこつけねば気がすまぬという、強引なあやりかたが全書にわたって現れる。それは主観的であり、個々ばらばらであって、そこには語学で用いるような方法論がない。

これが、藤堂による白川漢字学評。漢字の成り立ちに、いちいち呪術的な解釈を持ち込むことの不可を説いています。

一方、白川による藤堂漢字学評は

これに対し、白川は、同年9月号の「文学」で反論を書く。高島によると、白川は、藤堂が漢字を「音をあらわすだけの記号」としかとらえていない点を批判の中心に据えた。
「漢字がことばの音をしるすだけなら、なぜこれほどの多数の漢字があるのか。単音節語である中国語はもともと百数十の音を持つにすぎず、文字もその数で十分であるはずではないか」(白川)

http://blogs.yahoo.co.jp/soko821/25703327.html  (風船子・迷思記より)


今日のひと言:「告」という漢字一文字でも、「牛」と「口」にそれぞれ呪術的要素を付与して解釈されれば、理解できないこともあり、その点が不満だったので白川静さんの著作から私は離れたのだと思います。二度と手にすることはないでしょう。また、白川流の解釈はかなり恣意的であるように思います。この論争、私は藤堂明保さんに軍配を上げます。私も「単語家族説」にあたる事例を経験していますので。


そして、両者の不仲は、片や「京大閥」、片や「東大閥」の軋轢だったのか、とも思えるのです。(ただ阿辻哲次さんは京大卒ですが)


白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)

白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)

漢字百話 (中公新書 (500))

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  • 作者:白川 静
  • 発売日: 1978/04/25
  • メディア: 新書



今日の料理


@肉のエゴマ巻き


切る前

切った後

巻いたとき

エゴマはシソによく似た草で、英語ではどちらも「peril」と言いますが、シソよりも風味がまろやかなため、肉を巻いて食べるのに向いています。この食べ方は韓国由来で、主に牛肉のカルビなどを巻くのに使われますが、わが家ではいろいろな肉を巻くのに使います。また、エゴマの種は山間部では得難い「青魚」のDHA,EPAなどに化ける油脂成分(ω3脂肪酸)を含むので貴重な作物でした。韓国人は、エゴマの葉をコチュジャンなどを挟み、何枚も保存するのが好きなようです。

 (2013.08.11)



@この植物はなんでしょう?

きわめて小さな植物で、その花は白を基調、花の根本はちょっと青く、蕊のあたりがオレンジ色です。

  (2013.08.10)



今日の一句



我が犬は
健啖なりき
蝉を喰う


午後の散歩に行く前、行動エリアに蝉が羽根だけ散乱していました。なんたる健啖さ加減。もっとも、私は蝉の幼虫をから揚げにして食べたことがあるので(エビのような味わい)、犬を笑えませんが。

 (2013.08.12)