虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

宇井純氏が導入した下水処理技術:酸化溝(オキシデーション・ディッチ)

宇井純氏が導入した下水処理技術:酸化溝(オキシデーション・ディッチ)


今は亡き、公害問題の第一人者、(そして私の先生の一人:東京大学工学部都市工学科助手であった)宇井純氏は多才な人でしたが、彼がオランダ・デルフト市にある下水処理場を見学し、その施設:オキシデーション・ディッチ(日本語に訳すと「酸化溝」)に興味を抱き、数日滞在して、これを観察したそうです。開発した技術者が言うには、「この施設を訪れる日本人は多いが、貴方のように長く滞在して観察する人は他にはいなかったな。」と。


宇井純氏はこのオキシデーション・ディッチの原理を理解し、彼本人も、この技術を日本に広めるべく、彼に理解のある個人・団体の下水処理プラントを建てて、実証実験をしていました。私も一時期、それに加わっていたことがあります。


下水処理技術の根幹は、まず水中の「有機物」の分解です。有機物とは、炭素原子(C)が核になり出来上がった分子のことですが、これの種類は、ほとんど無限にあります。砂糖、醤油、肉汁、糞尿・・・数え挙げれば限がありません。ともかく、空気中の酸素(O)を水中に送り込み、有機物と反応させて、二酸化炭素(CO2)にして、空気中に炭素を帰すという工程です。エアレーション、あるいはオキシデーションと呼ばれます。


この手法は、現在「活性汚泥法」と呼ばれ、土中の元気な微生物を水中に導入し、これら微生物の働きにより、オキシデーションを完遂するわけです。たしかに、この工程で、有機物はかなり良好に分解できます。ただ、下水は、それだけでは中中浄化し切れません。炭素以外の汚染物として、窒素(N)、リン(P)などが挙げられます。これらが難物なのです。有機物を除去して、一見綺麗な水になったとしても、N、Pなどが残っていると、環境中に出て、これらをミネラルとして、藻類などが繁殖して、再び有機物が作られ、水が汚染され、せっかくのオキシデーションが無意味になってしまうのです。


この時、下水処理技術は2つの方向性を示します。ひとつが「連続式」、もうひとつが「回分式」の工程です。連続式というのは、汚水をプラントに留まらず流出させ、つねに新しい汚水を池に流入させる、現在主流の下水処理方式です。そのため、複数の池を設置し、ひとつの池は、「ひとつの機能しか持ちません」。一方、回分式は、ひとつの池で、複数の機能を行います。「流入、撹拌、沈殿、流出」の4機能を兼ねるのです。宇井純さんが選んだのは、この回分式で、オキシデーション・ディッチ(酸化溝)はもちろん回分式です。


Cを除去する工程を(一次処理)と呼ぶのですが、N、Pを除去する工程を、連続式の場合、2番目、3番目の池でNやPに特化した池で処理します(二次、三次処理)。特にNの場合、Oを入れずに処理して、酸化した結果、アンモニア(NH3)から硝酸(HNO3)に変わったNから、活性汚泥がOをHNO3から奪い、NはN2となり、空気中に抜けていきます(脱窒)。これは酸化とは逆に、還元という化学反応になります。Nを除去するには、この2つの反応を繰り返す必要があるのです。ただ、連続式の場合、既に多量にOを入れてエアレーションしているので、それを抜くには、無駄が多く、酸欠状態と酸素過剰状態を繰り返すので、結果的には下水処理のコストが跳ね上がってしまいます。実に、下水処理は金喰い虫なのです。考えても見てください、エアコンが空気を動かしてかかる電力は膨大なものですが、それが水であるなら、下水処理費用はさらに大きいことを。



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脱窒


回分式の場合、運用によっては一、二、三次処理の全てをひとつの池で行なうことができます。エアレーション(撹拌)、沈殿の工程を行うことによって、上述の脱窒が、酸素の濃度を2つの工程にいつでも変われるようなギリギリの酸素濃度に制御することによって、また「溝」というくらい浅い池で行なうため、エアレーションは「ウナギの養殖水車」で行なえます。また、浅いので、子供がはまっても溺れることがありません。回分式の大きな特徴は、流入した汚水と、それに含まれる物質、微生物がだんだん薄まるとは言え、「必ず」池に残るということです。こらは、処理水の安定性といった面から、好ましい特徴です。そして、連続式に対する優位性はここにあります。


Nよりもっと厄介なのはPです。基本的に、空中には飛ばせないPは、これを多く含んだ活性汚泥そのものを一定量、池から取り出して水から分離するのが、もっともベイシックで確実な処理法です。原始的と言えば原始的ですが、汚泥が土に返せるなら、これがベストです。まあ、C、Nについてもそうなのですが。そういった意味では、連続式も回分式も、現在のように下水に有害物質が多く含まれる状況下では機能を充分には果たせませんけどね。土に戻せませんもの。



今日のひと言:C、N、Pはもとはと言えば、植物を育てる肥料なのです。雑排水、糞尿を近代的な下水処理をせずに、農地に返せば、なんの問題も起きないのです。この点、人類の思考はめちゃくちゃアホなのです。


iirei.hatenablog.com






今日の一品


@干しシイタケと油揚げの炒めもの


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干しシイタケは、自分で乾燥させたもの。これをメインディッシュとして供しました。クワの葉・ざく切りと、干しシイを炒め、昆布ダシ(ヤマサ)を加え、少々炒めたあと、油揚げ、クコの実を加え、仕上げに山椒。干しシイの味が濃厚、美味しかったです。

 (2021.05.29)



@ナメコ入り冷やし中華


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この夏、冷やし中華を無性に食べたくなって。キュウリ、卵、生ハム、ミニトマト、そしてナメコ(キノコ)。一気に食べ終えました。

 (2021.05.30)



@大根スプラウトなどのサラダ


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スプラウトの栽培は楽しいです。はやく育って、収量も多い大根が、スプラウトとしてベストなようです。今回は、これに、ワカメ、パセリ、キュウリ、デーツを配し、ポン酢で味付けしました。

 (2021.06.03)





バンクシー小劇場


立夏過ぎ
昆虫たちは
交尾する


テントウムシカメムシなどが庭の随所でエクスタシー。

 (2021.05.29)






今日の三句


干しシイの
香りたつなり
バケツかな


わが家では、台所で出る生活雑排水を、流しの桶に溜めて、バケツに移し、庭の植物たちに、肥料としてあげています。干しシイの戻し液は直接バケツに入れましたがその香りが立ち昇ったのです。

 (2021.05.30)



傘(かさ)のごと
黄色く咲けり
ディルの花


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セリ科の植物の花は、ちょうど傘が開いたように咲きます。ディルはセリ科のハーブ。

 (2021.05.30)



ビロードの
葉を持ちたるか
ナデシコ


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 (2021.05.31)










今日の写真集



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黒に近い赤花のホーリーホックタチアオイ) (2021.05.31)



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空地はモノカルチャー(単一植物相)になりやすい:(ギシギシ)の集団
     (2021.06.01)


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フィーバーフュー(ハーブ:キク科)片頭痛に効果ありとされる
      (2021.06.02)







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“Diamond cut Diamond--Ultra-Vival”



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