現在明治学院大学の教授である熊本一規(くまもと・かずき)氏は東大都市工学科第8回生で、19回生である私の先輩に当たります。私が宇井純氏の主宰する自主講座に出入りしていたころ、熊本氏と出会い、彼が「環境権などどいう法規に定められていない概念で開発事業に挑むというのもいいけど、現在の法規のなかでも、十分戦える」という言葉が印象に残りました。
熊本氏はゴミ問題を切り口に、政府が進めるトンデモない開発計画に対し、したたかな反対運動を展開した人です。(例えばフェニックス計画:臨海部に発達した大都市とその後背地をふくめた広域圏を対象に、複数の自治体が県境を超えて共同で利用する広域処分場を海面に整備し、廃棄物の収集・処理・処分を広域的に行うとともに、埋立跡地に大規模な人工島を造成する計画)(http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=2298)。
私が何年か前、拙著「災害の芽を摘む」を贈呈させていただいたとき「ユニークな思想をお持ちですね」との感想を伺いました。そして今年5月、私のことを覚えていてくださった熊本氏が贈呈してくださったのが、今回取り上げる表題の本です。なお、熊本氏は確かに法規に詳しい人であり、その視点から今回の福島第一原発事故について書かれています。
特に注意喚起された箇所を列挙しますと
1)環境省は、何の役にも立たないこと・・・(都市工学科卒業者としては恥ずかしいかぎりです。)
2)汚染の処理を全国の自治体に任せる愚かさ
3)除染にも、ゼネコンが顔を出し、やりたい放題していること。だから作業の達成を誇示するために帰郷を奨励する理不尽。
4)植物による汚染物質(核廃棄物)の浄化の提言
5)日本より、ロシアのほうが被害者に優しいこと。
6)福島第一原発の4号機の燃料プールの問題・・・これは私も知っていましたが、強調してし過ぎることはないでしょう。
以後、各点について少々。
1)廃棄物を一廃(いっぱんはいきぶつ)、産廃(さんぎょうはいきぶつ)、災廃(さいがいはいきぶつ)と分類しているが、環境省は有効な対策をとれないでいる。役人とは得てしてこういったものですが、いつか都市工学科の同期生に「災害の芽を摘む」を買わないか、と打診した際、厚生労働省のジャイカに勤めていた彼、「俺はジャイカだ、災害なんて関係ない」とのたまわれました。でもその後、ジャイカの活動範囲であるインドネシアで大地震が起きました。彼はそのような会話をしたことなど忘れているのでしょうが、私にはしっかり記憶の底に残っています。想像力のない人は役人になってはいけません。都市工学科・衛生コース(現・環境科学コース)の卒業者には、厚生労働省・環境省に入省する者が多いのです。
2)汚染物質の処理は狭い範囲に集約して行うのが鉄則ですが、現在の広域処理はその原則に反する暴挙です。みすみす放射性物質を全国に拡散させることになるからです。各自治体も好んで受け入れる必要はないのです。(この事業は民主党の仙谷由人官房副長官の肝いりで始められたそうです。)
3)現在の除染は、大手ゼネコン(鹿島建設、大成建設、大林組などなど)が受注し、下請け、孫請けなどに資金が流れます。ゼネコン自体には除染の能力はなく、下請け、孫請けなどの廃棄物処理業者が実際にはこの作業をするのです。途中、ゼネコンが料金をピンハネすることは当然で、せっかくの資金の無駄使いになっています。そして、名ばかりの除染完了地域になんの根拠もないまま住民を帰宅させるという愚を冒しています。除染がうまく行ったというゼネコンの宣言に合わせて。この措置は、決して避難住民のためではありません。(そして、その除染たるや、谷間に回収した土壌を廃棄するようないい加減なものもあったと、今年初めに一般にも報じられました。)「除染」ということはあり得ず、放射性物質については「移染」するしか出来ないのです。
4)アブラナ科植物が放射性物質を吸収する効果を最大限利用する提案がなされています。
5)ロシアの事例
「チェルノブイリ原発事故後、旧ソ連の対応は十分なものではなかったが、1991年、旧ソ連政府は方針を転換し、チェルノブイリ事故による被害を最大限に軽減するための対策についての原則と基準(「チェルノブイリ・コンセプト」と呼ばれる)を採択した。この新しい指針に基づき、1ミリシーベルト/年以上の汚染地域における住民の保護等の方針が確立し、実施されることになった。
この新しい指針では、1ミリシーベルト/年以上の汚染地域について政府に放射線防護措置をとる義務があることを明記し、当該地域の住民は、補償を受けるとともに、住み続けるか他地域に移住するかに関する正確な情報を受け、自己の判断に基づき、いずれかを選択する権利を持つとされている。要するに、住民は「避難の権利」を持つのである。
146P−147P
他にも被害住民の特典がいろいろ定められていて、ロシアの惨事後の措置は、日本より、よっぽどまともです。
6)この事実は、京都大学の小出裕章助教が詳しく指摘しています。もしプールが崩壊したら、チェルノブイリ原発事故のときの85倍もの放射能(セシウム)が放出され、日本もジ・エンドになるという事実。国も東電も、のんびり構え、4号プールのなかの1500本にも及ぶ燃料棒を取り出すのをさぼっているように見えます。
今日のひと言:都市工学的に、ゴミ問題に積極的に発言されてきた熊本氏のこの本、今回の拙ブログではその一端しか取り上げられませんでしたが、原発問題を法的に考えるという視点でも、読む価値がおおいにあります。なお、この本は共同執筆者として辻芳徳さん(元東京都清掃局職員)も執筆しています。緑風出版・2012年初版:本体1900円。
- 作者: 熊本一規,辻芳徳
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今日の料理
@ラムとナスのケチャップ炒め
わが家ではブロック状のラム肉が入手できず、スライスした品のみです。もしブロックがあってもオーブンがないので、自然スライス肉の炒めものになります。通常は玉ねぎと炒めますが、今日はナス(1本)と組み合わせてみました。(他にオクラ1本、ピーマン1本も入れた)炒める途中でクレイジーソルトを加え、最後にケチャップで味を調えました。・・・主役はナスかな・・・いい味出していました。野菜はだいたい短冊切り。
(2013.06.12)