虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「恐るべき子供たち」:魔の4角関係(コクトー作)


恐るべき子供たち その1



原題:Les Enfants Terribles は、ジャン・コクトーがアヘン中毒に陥っていたときに書いた小説です。フランスの文学者には、天才肌を持つ人が多いように思います。コクトーにとっては、天才小説家レイモン・ラディゲが切っても切れない文学環境を共有していましたが、ラディゲは、わずか20歳で腸チフスで亡くなり、その痛手のなかで精神の安定を求めてアヘンに手を出し、入院するに至るまで心身が衰えてしまったと思います。同じようなカップルとして、天才詩人アルチュール・ランボーポール・ヴェルレーヌのような2人が想起できますが、このブログでは詩人コンビについては、これ以上触れません。


さて、この小説には、端役を除いて5人の少年・少女が登場します。かれらはおおむね孤児ですが、金銭的には一人の例外を除き、遺産のおかげで裕福に暮らせます。


ポール(♂)は、ダルジュロス(♂)に憧れていましたが、ダルジュロスの投げた「石入り雪玉」に当たり、重症を負います。友人ジェラール(♂)がポールを家に連れていきますが、待っていたのはポールの姉のエリザベート(♀)。この姉弟にはなにやら不可知ななにかがあるようです。そして、貧しい暮らしをしていたアガート(♀)。


以上の5名を核にしてお話は展開していくのですが、最初から5分の4(80%)くらいは状況の説明に費やされて、さほど面白くはありません。のこり20%で物語は躍動するようです。


ポールは、ダルジュロスを崇拝、あるいは愛していたのですが、目の前に現れたアガートは、ダルジュロスそっくりなのですね。して見ると、ポールがアガートを愛するにはさほどの時間は掛からないですね。そしてアガートもポールを愛するようになります。相思相愛ですね。


その事態はエリザベートにとって予想外のことであり、彼女は苦悩します。そしてエリザベートは非常手段にでます。ポールがアガート宛てに書いた熱愛のラブレターを握りつぶし、アガートには「ポールは貴女を愛していない」と告げ、また、ジェラールには「アガートが貴方を好いている」と伝え、アガートとジェラールを無理やりくっ付けてしまいます。すると4人のうち、2人がくっ付き、姉弟が残ります。


こうなるのはエリザベートの思う壷で、じつは彼女は、弟に「近親相姦」の気持ちを抱いていたのです。だから、弟との暮らしを守ることに策謀を巡らし、まるで魔女のように邪悪な行動をとるのです。普通の姉なら、ポールとアガートがくっ付き、自分とジェラールがくっ付くことで万歳といったところでしょうが、エリザベートは(絶対結婚できない)弟ポールを選ぶのですね。


ところが、話はこれで終わろうハズもありません。再び登場したダルジュロスは、なにやら毒物を持ってきます。(ダルジュロスは、物語の節目節目に重要な役割を持って登場します。)傷心のポールはこの毒を仰ぎ、あの世に行ってしまいます。姉のエリザベートも弟を追います。


以上、「恐るべき子供たち」というタイトルはちょっと過大だな、という印象を受けます。5人の登場人物のなかで「恐るべき」なのはダルジュロスであり、そして誰よりエリザベートなのですから。近親相姦の陥穽に陥った姉。



今日の一言:フランスの小説は、まるでビリヤードのように、計算された緻密な突き方で玉を正確に突くというような特性がありますが、この「恐るべき子供たち」もそんな系譜のお話かもしれません。今回読んだのは「恐るべき子供たち」(中条省平・中条志穂:光文社古典新訳文庫)でした。



恐るべき子供たち (光文社古典新訳文庫)

恐るべき子供たち (光文社古典新訳文庫)

肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)

肉体の悪魔 (光文社古典新訳文庫)

ラディゲの死 (新潮文庫 (み-3-29))

ラディゲの死 (新潮文庫 (み-3-29))

コクトー詩集 (新潮文庫)

コクトー詩集 (新潮文庫)




今日の一品



@鮭ハラスのオーブン焼き・山椒風



私と弟の合作。脂身の多いハラス。あえてオーブンで焼くことにして、その後、塩、山椒の粉で味付けしました。

 (2016.04.08)



@パプリカのマリネ



弟作。赤と黄のパプリカを煮て冷やし、酢・砂糖・醤油・コリアンダーで味付けしました。美味です。

 (2016.04.08)



@セロリのエバラ浅漬けの素・カツオ節風味



弟作。この組合せは初でした。良い具合です。

 (2016.04.09)



@セロリの豚肉巻き



弟作。あらかじめコンソメで煮たセロリを豚肉スライスで巻き、フライパンで炒め、仕上げに塩・ナツメグを掛けました。香りだけならそのまま生のセロリを包めば良いのですが、香りを矯臭することと味を付ける意味でこのようにしたとのこと。

 (2016.04.12)





今日の詩


メデューサ


メデューサ――
その女は髪の毛が蛇で
彼女を見た人は恐怖で石になるとされる。
だがその顔について言及されたことはない。


でも私は彼女が絶世の美女だったと思う。
あまりの美しさに
見る者は時間を奪われ
石と化すのだ。


彼女と戦い仕留めた
英雄ペルセウス
メデューサの美が理解できなかったのだろう。
無粋な男だ。



(注)ギリシャ神話のエピソードです。Inspired by“MIDAS TOUCH ”by Tatsurou Yamashita 

 (2016.04.10)




今日の一句


麦畑
つがいの雀
交尾せり


雀の交尾は初めて見ました。

 (2016.04.09)