虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「青の時代」(三島由紀夫)とホリエモン:東大の金看板

三島由紀夫の「青の時代」は、終戦間もない時期に高利貸しとして名を馳せた現役東大法学部生の栄光と挫折を綴った小説です。もちろんモデルがあり、彼は「光クラブ」の社長をしていましたが、小説の中では「太陽カンパニイ」という会社に名を変えています。


小説における主人公は「川崎誠」という名ですが、彼の前半生は、医師である父との確執がありました。父への反感が、無残な仕事をする高利貸しにかれを向かわしめたのかも知れません。作中に債務者からの取立てが描かれていますが、大変な苛斂誅求を行っています。それと言うのも、太陽カンパニイでは「月利1割5分:これは高い!」という高利回りが設定されていて、債務者にはそれ以上の金利で、金を貸して取り立てるという無慈悲な営為を行っていたわけです。


その誠には、気になる女性がいました。その女性・耀子(ようこ)は気高い感じの美人で、太陽カンパニイの従業員になっていた彼女を、「自分(誠)を愛するように仕向けて、彼女がその手のうちに落ちたら、あっさり捨ててしまう」という企図を誠はいだいていました。そして、誠自身は耀子を決して愛さない、というディシプリンがありました。実際、その機会がやってきて、誠は耀子を「強姦」しますが、耀子はその手に落ちます。


誠は「処女の」彼女を「屈服」させられたようで満足しましたが、耀子は重要書類を持ってトンズラしてしまいます。その出奔先は、税務署の下っ端役人の元。また、彼女はこの役人の子を孕んで3ヶ月だったことも解りました。こう見ると、なんだかんだ言いつつ、誠は耀子を愛しており、耀子は逆に誠を罠にはめる対象と見ていたわけで、こと男と女の関係性では、女のほうが一枚も二枚も上手なのでした。


誠は見事に陥れられたわけですが、彼には彼の奥の手がありました。彼は常に「亜砒酸:あひさん」という猛毒を携行していて(実話では青酸カリ)、以下のような幕引きを考えていました:

「僕は毒薬について一見識もっている。契約不履行を法律的に正当化する力がこいつにはあるんだ。僕がもしこいつを呑む。そうすると契約当事者の一方が死んだことになり、契約は事情変更の原則によって取り消されるんだ。債務がたまってどう仕様もなくなったら、こいつを呑んでこの世におさらばさ。そうすれば、合意は拘束す、という僕の真理は守られることになる。死人には意思表示が失くなるからだ」

(新潮文庫216P)


彼が実際自殺をする段のことは触れられていませんが、最期についてもいかにも論理的な姿が見られると思います。(本当は愛情に飢えていたろうに、です。)


さて、これからは川崎誠とホリエモン堀江貴文)の比較をやっていきます。


@誠は東大法学部に在籍する学生社長。ホリエモンは東大文科3類(ほぼ文学部に進学予定)を中退し、「東大は、卒業することより入学することに意味がある」と言っていて、まあ、本人の実力よりその独特な地位感覚を重視していました。まあ、一般的に言えば、「卒業もできない劣等生」とホリエモンは呼べるかも知れません。昔の全共闘世代のように「学問のあり方に疑問を持ち、自ら退学するような態度」ではなく、そんなことを深く考えもせずに退学したのだと思います。まあ、「東大の金看板」を利用した意味では両者よく似ているのかも知れません。(全共闘の人には酷な物言いでしたね。)


@誠は「高利貸し」、ホリエモンは「IT企業」を活躍の場に選びましたが、どっちも「虚業」であるというソシリを免れません。この辺は共通。ホリエモンライブドア)VS(フジ・産経グループ)の死闘は、記憶に新たです。このとき、一般国民は、いかに株式市場が魑魅魍魎跋扈する世界か、他人事ながら認識しました。もっとも、ライブドアを見込んで同社の株を買い、暴落で大損した人も多いと聞きます。


@対女性的態度。↑に書いたように、誠は女性に関して「うぶ」でしたが、ホリエモンは「金で女性も思う通りに出来る」という態度でした。現代的なホリエモンの対女性的態度が「光ります」。


@どう墓穴を掘ったか。誠は耀子に持ちだされたマル秘資料が税務署に渡ったこと。ホリエモンライブドアの「粉飾決算」がバレタこと。まあ、悪事はいずれ露見するのかも。



今日のひと言:私はこれまで、三島由紀夫の小説は、むしろ彼の人格が嫌いで、高校生のころ、「花ざかりの森・憂国」(新潮文庫)を読んだきりで、「変な小説家だなあ」と思ってきましたが、そのフランス小説風の小説がどんなものか、興味が湧いてきましたので、下に挙げる小説を読んでみたわけです。


三島由紀夫の作品を取り上げた過去ログ

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20160419#1461060722

 :「午後の曳航」(ごごのえいこう:三島由紀夫)〜恐るべき子供たち



青の時代 (新潮文庫)

青の時代 (新潮文庫)

不道徳教育講座 (角川文庫)

不道徳教育講座 (角川文庫)

午後の曳航 (新潮文庫)

午後の曳航 (新潮文庫)

葉隠入門 (新潮文庫)

葉隠入門 (新潮文庫)




今日の一品


カマスのタイム詰め焼き



カマスの腹を割き、ハーブの一種・タイムを一枝入れ、レンジでチン。いくらかタイムの香りが感じられました。

 (2017.01.31)



@豚肉とアボカドのコンソメ



弟作。豚肉(バラ)、アボカド、唐辛子の輪切りをコンソメを溶かした汁に入れ、少々煮込みました。これは美味しいです。

 (2017.01.31)



@鶏手羽元のホワイトシチュー風味



弟作。手羽元を普通に手に入るホワイトシチューの素で煮込み、少々胡椒を振りました。あとでシチューとしてリメイクしました。

 (2017.02.03)



ナスタチウム乗せ焼きうどん



昼食。ハーブであるナスタチウムは、日本伝来以降観賞用として金蓮花と呼ばれてきましたが、その葉や花が「わさび風味」を持つので、ハーブとしても有用です。今回の具は、茹でうどん、豚肉、キャベツ、ハコベ、クコの実、節分の煎り豆、卵などで、オリーブオイル、ブルドッグ中濃ソースで味付けしました。トッピングがナスタチウムの葉。なお、花はいわゆるエディブル・フラワーとしても有名です。

 (2017.02.05)


楽しみエディブルフラワー―食用花

楽しみエディブルフラワー―食用花




今日の一句


悠々と
枯野見下ろす
白根山



関東地方でもっとも高い山(2578m)。日光白根山。同じ白根山の呼称で草津白根山もあります。この写真は群馬県館林市の某所から撮影したもの。日本百名山の一つ。

 (2017.02.04)


日本百名山 (新潮文庫)

日本百名山 (新潮文庫)