これって、悲劇?喜劇?:チェーホフの「桜の園」
何時だったか、三浦一郎さんが書いた「世界史こぼれ話」で、面白いやり取りを読みました。
悲劇作家:ぼくはきみの喜劇を観て、ぜんぜん笑えなかったぞ。
喜劇作家:そうかい、ぼくは君の悲劇を観て、さんざん笑ったけどね。
こんな感じのやり取りです。なんとも奇天烈な会話ですね。この会話の場合、喜劇作家のほうが、より知性的である感じがしますね。一方が「悲しい」という情緒で取り上げた逸話を「バカバカしい」と切って捨てているのですから。
悲劇と喜劇は、相反する物であると普通には理解されますが、この両者の境界は、案外不分明であるということでしょうね。確かシェイクスピアの4大悲劇(ハムレット、マクベス、リア王、オセロなど)を喜劇として観ようではないか、との試みもあると聞きます。
さて、今回は図書館から「桜の園/プロポーズ/熊」(チェーホフ作、浦雅春訳:光文社文庫)を借りてきました。
まずは軽いところから。「プロポーズ」は、一幕物の喜劇です。某女性にプロポーズに来た男性、土地所領のことで紛糾します。(あ。この文庫の中に収められたお話の主人公は必ず地主なのです)それが落着してから、今度は飼い犬の優劣でまたまた話が紛糾します。・・・これではプロポーズしている時間が取れませんね。他愛無いお話だと思います。
次に「熊」。これも一幕の喜劇です。「熊」とは、女主人がお金を借りていた他の地主で、今日までにはお金を返してもらうぞ、とねじ込みますが、女主人「無いものは払えません」とニベも無いのですね。このドラマでは紛糾の末、なんとこの2人に愛が芽生え、抱き合ってキスをするシーンで劇は終わります。いくらか軽妙なお話のように思います。
そして、「桜の園」。チェーホフ最期の作品で、4幕です。立派な桜の木を所領内部に持つ女主人が主役です。彼女は、このままではいけない、と思っていても、あの桜の木を持つ領地を手放したくはないけど、借金のお金も返せない状態であることも充分解かっているのです。
そして、やり手の商人がオークションに掛けられた所領を高い価格で落札し、女主人一行は晴れてパリに旅立つのです。「木を伐る音」を聞きながら。
ハッピーエンドなのでしょうが、チェーホフからこの脚本を任された舞台監督は、「悲しくて、涙が止まらなかった」との感想を述べています。話の終末のひとコマですが、長年召使として尽くしてきたお爺さんをホッポラカシで一族パリに行ってしまうのですから、お爺さんに関しては悲劇とも言えるでしょう。
今日のひと言:解説によると、チェーホフの作品は「家」がテーマになることが多く、私が見た限りでも、「地主」として、いかにも土と家に縛られている人たちかがわかります。また、いわゆる「ボードビル」(流行歌入りの軽喜劇:kotobank より)のような軽く見られる芸術と、いわゆる「本格的な」芸術とに、垣根は設けなかったのがチェーホフだと書かれています。それで半ばおふざけ、半ばマジ、といった作品が書けたのでしょう。

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今日の料理
@サンマかば焼き缶丼
水、タレ少々を入れた小鍋に缶詰めを落とし、卵でとじて・はい完成。それなりに美味しいです。私の昼食用。
(2015.10.15)
@ハンペンのナッツ添え八丁味噌和え
以前もハンペン料理を取り上げましたが、今回はそれにナッツ類(アーモンド、カシューナッツ、クルミ)を刻んで加え、ネギも入れ、ちょっと溶かした八丁味噌で和え、レンジで1分半加熱して出来上がり。
(2015.10.15)
@ヒラスの煮つけ
ヒラス(ヒラマサ)は、スズキ目アジ科の魚。いかにも美味しそう。ムニエルなどにも出来ますが、今回は簡単に煮つけにしました。なお、暖かい海水温の海では、有毒なのもいるらしいです。
(2015.10.16)
@おじや
昼ごはんでたまに食べたくなるおじや。(パック)ご飯を加熱して作るのがおじや、コメから作るのがおかゆ、だそうです。卵を一個落とすので、かなり甘くなるし、「永谷園・お茶づけの素」2袋賞味期限切れになっていたので2つとも使い、ほかにクコの実、クレッソンを混ぜて加熱し、最後にネギを添えました。なお、クレッソンは、生のままだと寄生虫がいることもあるらしいので、必ず加熱します。(クレッソンは、水が流れ出ないようにしたプランターで栽培しています。)
(2015.10.18)
今日の二句
柿の実の
夕日を浴びて
いよよ赤
柿は学名Diospyros kaki 、「神の火・柿」と言った意味です。
(2015.10.15)
ホウキグサ
例年よりも
緋色なり
ホウキグサ、あるいはコキアは、アカザ科で秋に紅葉します。また、種をトンブリの材料にします。さらに、枝を束ねてほうきにできます。それでホウキグサ。
(2015.10.19)