虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「見せる」詩〜山村暮鳥とアポリネール

風景


いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
かすかなるむぎぶえ
いちめんのなのはな


いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
ひばりのおしゃべり  
いちめんのなのはな


いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
いちめんのなのはな
やめるはひるのつき
いちめんのなのはな。



以上挙げた詩は、群馬県出身の詩人・山村暮鳥(やまむら・ぼちょう:1884−1924)の作品です。私生活上恵まれなかった彼は、キリスト教に入信しています。ただ、その詩が異端的だと攻撃されたこともあるのだとか。


 この詩の場合、「いちめんのなのはな」というひらがなによるリフレインによって、菜の花畑の広大さが知れます。そこに文字の上での「無限」を表わすように見えるのは、錯覚ではなく、暮鳥の計算のもとにあるのでしょう。そして、各連8行目には、その刺激からいったん目や耳を解き放つ言葉(やはり・ひらがな)が置かれるのです。


 この詩は、ひらがなの繰り返しによって視覚的に詩を読ませているのですが、フランスにはその分野では大家がいます。ギョーム・アポリネール(1880−1918)です。
下の図(?)をごらん下さい。



ちょっとドギモを抜かれるでしょう?この図は、レッキとした詩であり、「ネクタイと時計」という題名です。ネクタイは煩わしい日常を意味し、時計は生命の喜びと不安を象徴しているそうです。この詩は「カリグラム:美しい線・絵」といった詩集に収められています。文字を象形化して遊んでいるわけですね。他にも、少ない語数で斜めに描き、「雨」というような詩も書いています。


アポリネールは多彩な才能のあった人で、キュービズムの精神を鼓舞し、またシュルレアリスムを告知しているとも言えるそうです。(百科事典アルファの記述より。)



今日のひと言:山村暮鳥アポリネール、生存期間がほぼ重なっていますね。洋の東西で、同じような詩作上の試みがなされていたというのは、興味深いですね。あるいは、山村が「カリグラム」を知っていて、模倣したのかも知れませんし、そうでないかも知れません。


なお、私が「なのはな」の詩を知ったのは、大学生当時およびその後数年間働いていた東大学力増進会(中学生対象の講習会・私は国語科講師:現在は同名の別組織)のテキストに採用されていたからです。


アポリネール動物詩集 (児童図書館・絵本の部屋)

アポリネール動物詩集 (児童図書館・絵本の部屋)

アポリネール詩集 (新潮文庫)

アポリネール詩集 (新潮文庫)

おうい雲よゆうゆうと馬鹿にのんきさうぢやないか

おうい雲よゆうゆうと馬鹿にのんきさうぢやないか


今日の料理


@とうもろこしごはん



http://d.hatena.ne.jp/mikutyan/20130725/1374724131

で紹介されていた料理。ちょっと我流にて作りました。皮を剥いたコーンを包丁でそぎ落とし、昆布つゆを加えて炊き込みました。いい味でした。

 (2013.07.29)



今日の一句


ブラバン
現代音楽
彷彿し


近くの中学校の体育館で、ブラスバンド部が練習していたのを、聞きながら通りすぎたのですが、チューバだとかトランペットだかをてんでんばらばらに練習していて、案外心地よい「不協和音」を奏でていました。

 (2013.07.30)