虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

北原白秋〜〜詩歌の達人


白秋(wiki)→








 時は逝く


時は逝く、赤き蒸汽の船腹の過ぎゆくごとく、
穀倉の夕日のほめき、
黒猫の美しき耳鳴のごと、
時は逝く、何時しらず、柔らかに陰影してぞ
ゆく。
時は逝く、赤き蒸汽の船腹の過ぎゆくごとく。


(「思ひ出」より)
この詩は、私が大学教養課程にいた時に知ったもので、その当時、今となっては「なんだ、詰まらないことに悩んでいたな」、と今になって思えばそうでもあると思える、「青春の悩み」を患っていたころに北原白秋の詩集を味読しました。私の戸籍は四国・松山にあり、東京から祖母を訪ねていく途中、まだ架橋が架けられる前だったので、岡山市の児島から四国の高松までフェリーで行ったのですが、その船の上で読んでいました。


この詩は、ちょうど、舞台が船であることも同じでしたし、「黒猫の美しき耳鳴のごと」という非凡な表現に惹かれていたのです。どんな耳鳴だろう、と夢想したのですね。そんな美しいものも時間とともに逝ってしまうという無常さが潔いのですね。


 さて、北原白秋(1885−1942)は、詩や短歌の名手で、それだけでなく童謡、校歌などあらゆる分野に足跡を残した巨人です。詩集としては「邪宗門」「思ひ出」、歌集としては「桐の花」が有名です。彼は耽美的な詩人としても知られ、案外セクシーな詩も残しています。


あかき林檎


いと紅き林檎の実をば
明日こそはあたえむといふ。
さはあれど、女の友は、
何時もそを持ちてなかりき。
いと紅き林檎の実をば
明日こそはあたえむといふ。


(「思ひ出」より)

林檎(りんご)にはセクシーな意味が付与されているようです。男の子をじらす女の子の情景が想起されます。紅いという字句もハッとさせられます。


つぎに挙げるのは、残酷な美意識を表明したような詩です。

  青いとんぼ


青いとんぼの眼を見れば
緑の、銀の、エメロウド
青いとんぼの薄き翅
燈心草の穂に光る。


青いとんぼの飛びゆくは
魔法つかひの手練かな。
青いとんぼを捕ふれば
女役者の肌ざわり。


青いとんぼの綺麗さは
手に触るすら恐ろしく、
青いとんぼの落ちつきは
眼にねたきまで憎にくし。


青いとんぼをきりきりと
夏の雪駄で踏みつぶす。


(「思ひ出」より)

美しいものを愛し、また恐れ、それをメチャクチャにしてやりたい、というのも、人間がもつ特性の一つでしょう。


ここいらで、詩を離れ、短歌を三つ挙げてみましょう。「いずれも「茴香ウイキョウ:ハーブの一種でフェンネルのこと」にちなんだ歌です。


     茴香さく

わが世さびし 身丈おなじき 茴香も 薄黄に花の 咲きそめにけり


茴香の 花の中ゆき 君の泣く 日のくれどきの ここちこそすれ


    憎きは女、悲しきもまた女

憎悪(にくしみ)の こころ夏より 秋にかけ 茴香の花の 咲くもあはれや


(「桐の花」より)

北原白秋、日本人はあまり好まない香りの茴香フェンネル)が好きなようですね。フランス象徴詩の詩人たち(ランボーなど)は茴香の匂いのある酒・・・アブサンを愛飲していましたが、白秋もこの酒、好きだったのでしょうか?ワームウッドという有毒なヨモギが配合されていたので、毒酒でしたが・・・
(もっとも、現在その毒成分・ツジョンを除去する技術が出来たので、一時期禁止されていた製造が許可されたそうです)


以上、種本は「現代日本文学大系 26  北原白秋石川啄木集」(筑摩書房)でした。


今日のひと言:中学・高校時に教わる「落葉松」という詩は、北原白秋の詩でも有名ですね。私も口ずさんだことがあります。北原は、しかし、性には放逸で、人妻と不倫をして、厳しく咎めらたことがあるそうです。さては沸々と湧き上がる性欲を作品に昇華させていたのだなと思います。そのような例はほかにもあります。ゲーテは70歳を過ぎて10代の女の子に惚れたそうですし。性欲は、けっしてマイナスのものではないようです。


北原白秋詩集 (新潮文庫)

北原白秋詩集 (新潮文庫)

北原白秋歌集 (岩波文庫)

北原白秋歌集 (岩波文庫)


今日の料理



@鶏の水炊きクレイジーソルト風味



わが家では、人用の食糧のうち、犬に肉・魚を分けるように餌をやっています。それは幼犬のころ、ドッグフードに飽きてしまい、仕方なく人用のオカズをあげて以来なのですが、今回の料理も犬に便宜を図ったように分けます。ややもすると犬用のオカズのほうが人間用より多いことがあります。(家計が大変)


そんなわけで、砂糖・醤油で鶏肉を煮ると、それら調味料の使用量がバカにならないし、あとで犬用に塩抜きしなければならないので(二度手間)、水で鶏肉を茹で、犬用はそのまま与え、人用は「クレージーソルト」とか「ゆかり」をかけて食べることにしています。写真、右が人用。


もちろん鶏肉を切るのに使用したまな板、包丁は熱湯消毒しています。



今日の園芸


ナスタチウムの苗・・・夏場に収穫しておいた種を蒔いて発芽したもの。別名ノウゼンハレンインディアン・クレス。ワサビのような葉と花の風味を味わう。:エディブルフラワー。



コリアンダーの芽生え・・・ことしタキイ種苗から種を買った。2日ほど前に芽生えを確認。いろいろ料理に使えそう。別名コエンドロ香菜(シャンサイ)、パクチー



今日の二句


ハっとする
マネキンかかし
ちと怖し



私は寡聞にして、マネキン人形を案山子(かかし)にする例を知りませんでした。

  (2013.09.21)



ヒエ立つ田
「駄農」を模範に
広がれり



毎年、ヒエの除去をさぼる農家がいて(駄農)、イネの収穫期には目立っていましたが、今年はここだけでなくヒエが目立ちます。農家のみんなが歳をとってもうイネの栽培が辛いのか、もしかしたら、この区域に新たな大型店舗が進出する兆候なのか。写真、右側の黒っぽい部分がヒエが優勢な田。

 (2013.09.23)




今日の一首


我が犬の
被毛に光る
白い露


散歩終われば
あとかたもなし


 (2013.09.22)