「ほんわか」と「ひんやり」〜O・ヘンリーとサキ
O・ヘンリー(本名William Sydney Porter:1862−1910)はアメリカの小説家、サキ(本名Hector Hugh Munro:1870−1916)はイギリスの小説家です。この二人は活動時期もほぼ同じで、欧米では極めて有名な小説家であり、「泊り客の枕もとに、O・ヘンリー、あるいはサキ、あるいはその両方をおいていなければ、女主人として完璧とはいえない」ともいわれるそうです。(サキ短編集・中村能三訳・新潮文庫の後書きより)
サキ (wikiより)
O・ヘンリー(wikiより)
どちらも短編小説、なかでも掌編小説を得意としますが、その特徴は正反対です。O・ヘンリーは「ほんわか」心が温まるのに対し、サキが「ひんやり」心が寒くなるのです。数学的に言えば、「符号が逆で絶対値が同じ」ということになりますか。
O・ヘンリーといえば、「最後の一葉」や「賢者の贈り物」を初めとして、読後ある種の暖かさを感じる作りになっています。たとえば「20年後」という作品では、「なにがあっても、20年後ここで会おう」と約束した二人の青年ボブとジミーが意外な形で再会します。当事者の一人であるボブは、アメリカ西部で悪行を重ね、大金持ちになったのですが、約束の時間、その場所に巡回してきた警官とこの約束の話をして、警官は次の巡回先に行きます。
そして現れた別の男・ジミーが約束の相手だとして、ボブは感激しますが、よくよく見てみると、鼻の形が違っていて、それはジミーではない、と見抜きますが、確かにそうで、この男は私服刑事で、本当のジミーからのメモをボブは渡されます。いわく、「自分でボブを逮捕するのは忍びなかったから、私服刑事にその仕事を頼んだのだ」・・・先の警官こそ、ジミーだったという落ちになります。厳しさの中にも暖かさがいくらか混じっている感じです。
サキの場合、「開いた窓」(*)が特に有名ですが、正直言って、サキは日本ではO・ヘンリーほど有名ではないのかも知れません。ここでは「おせっかい」という作品を紹介します。土地の所有権を巡り、不倶戴天だった2人の男が、森の中で対峙します。そのとき嵐がやってきて、2人とも、倒れた樹にしだれかかられ、身動きがとれなくなります。そこで、2人には何か奇妙な友情が芽生えてきて、お互いを認め合い、許しあうようになります。
そして、それぞれの部下たちが駆けつけてくる足音に安堵するのですが、やってきたのは、「狼の群れ」・・・このあと、2人は狼の餌食になってしまうという実感をもって物語は終わります。自然というものはえらくおせっかいだなあ、と言った感じです。ゾクっとする結末です。
(*)開いた窓・・・神経衰弱を患い、某田舎に来た男性、当家の娘に、3年前「バーティ、なんでおまえは跳ねるのだ」という歌を歌いながらシギ猟に出かけた伯父一行が行方不明になったと聞かされますが、実際にはこの歌を歌いたいながら彼らは帰って来て、「亡霊ではないか」との恐怖心に駆られた男性はこの家からそそくさと逃げ出すという具合です。娘が怪訝な顔をする一同に言うには、この男性は、昔イヌからひどい目にあっていた、と伯父たちに説明します。この娘は「口から出まかせ」が得意だったのです。
サキの作品は「奇妙な味」の掌編小説と呼び習わされ、以後のSF小説にも影響を与えたりしています。
Wikipediaより
奇妙な味とは、本来は探偵小説や推理小説のうちの「変格ミステリ」と呼ばれた作品の一部であった。江戸川乱歩の造語で、ミステリともSFとも、また怪奇小説ともつかない特異な作風を指す。論理的な謎解きに主眼を置かず、ストーリー展開及びキャラクターが異様であり、読後に無気味な割り切れなさを残す点に特色があり、短編作品でその本領が発揮されることが多い。
古くは、エドガー・アラン・ポー『盗まれた手紙』、アーサー・コナン・ドイル『赤髪連盟』、ギルバート・キース・チェスタトン『奇妙な足音』、ロード・ダンセイニ『二壜のソース』、ヒュー・ウォルポール『銀の仮面』、ロアルド・ダール『南から来た男』、サキ『開いた窓』などが奇妙な味の古典として挙げられる。
「奇妙な味」の作品を書く作家は、だいたい英米の作家が多いようですね。
今日のひと言:O・ヘンリーは、銀行の預金の横領で逃亡・収監されたことがあり、彼の人情話はこの体験から、「人の優しさ」にいやでも目を向けなくてはならなくなったことから生まれたのでしょうか。またサキは、ビルマ生まれで、生母が早く亡くなったため、イギリス本土に召喚され、2人の伯母に厳しく教育されて、その体験が強迫観念のようにサキを支配したということです。当然、サキの小説作法にも大きく影を落としていたでしょうね。
今回読んだ本:「サキ短編集」(新潮文庫・中村能三 訳)
「オー・ヘンリー傑作選」(岩波文庫・大津栄一郎 訳)
- 作者: サキ,中村能三
- 出版社/メーカー: 新潮社
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- 作者: オー・ヘンリー,大津栄一郎
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今日の料理
@パルミットのヨーグルト和え
パルミットは、主としてブラジルで栽培されるヤシの木の新芽で、ちょうど同じく単子葉植物のタケノコと食感が似ています。日系ブラジル人が多い群馬県太田市や大泉町のスーパーには置いてあることがあります。ガラス瓶に入れて酸っぱくして売られます。おそらくはタケノコとおなじくシュウ酸が多いでしょうから、シュウ酸をマスキングする意味でヨーグルトで和えました。あっさりしたソースにタバスコをかけて食べることもあるそうです。
http://www.latinyamato.com/salada_palmi.htm
:参考HP
(2013.05.15)
@ルッコラの浅漬け
いまや有名な西洋野菜となったルッコラは、ハーブ愛好者が増え始めた20年ほど前には、ロケット・サラダとかエルーカとの異名もありましたが、今ではルッコラと呼ぶことが定着しているようです。生で食べると、なにやらゴマのような風味があります。今回はスーパーで珍しくも見つけたので、「エバラ浅漬けの素」で「安易に」漬けてみました。私はあまり葉の物はサラダで食べないのですが、加熱処理をしてしまうとアブラナ科の植物の場合風味が飛んでしまうので、漬けるのがいいかな、と思って。塩味だけ、あるいは醤油・酢味で漬けるのはまたの機会にします。なお、「エバラ浅漬けの素」は、大根とかキュウリとかの漬物に活躍しています。
(2013.05.17)
今日の一首
長年を
あだに育ちし
スイカズラ
花摘みしとき
桃の香ぞする
スイカズラは、ハーブで言えばハニーサックルのこと。薬効としては咳・カタル・喘息・喘息などに効果あり。サリチル酸を含み、アスピリンが生成される。ティーとして飲めるが多量に飲むと嘔吐することあり。(「ハーブ図鑑110」より。)
ただ、実際ティーにすると、桃の香は飛んじゃうようでした。これまで私は、自分が庭に導入したのに、このハーブは無視していたのです。
(2013.05.18)