虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

クラシック音楽意外史(書評)

 この本は、誰でも抱いているクラシック音楽の有り様について、現在の目で見ることの誤りを正すように書かれたものです。著者の石井宏さんは1930年生まれで東京大学美学科および仏文科を卒業し、音楽評論で鳴らした人のようです。アマチュア・オーケストラ「ユマニテ」を主宰し、本人もクラリネット奏者であるそうです。著書・訳書に「素顔のモーツァルト」(中公文庫)など多数。この本は1990年初版・東京書籍から出版されています。


 初めにど肝を抜かれる(どぎもをぬかれる)のは、ちょうどモーツァルト端境期(はざかいき)であるようですが、18世紀の音楽界では、イタリアの権威が極めて大きく、そこで誕生したオペラとかアリアとかの声楽曲が第一義的に重要な音楽で、器楽曲はその陰の地位でしかなかったことです。例えばヘンデルなどは、イタリア留学をしたことをチャーム・ポイントにして、イギリスで「就職」するのです。


 だから、音楽で食って行きたいと思えば、声楽曲で名を成せばいいということになります。実際、イタリアのロッシーニは、たんまりオペラで稼ぎ、37歳で引退してしまい、悠々自適の生活を送ります。なにしろ、ステーキの焼き方に彼の考案したメニューが残っているくらいです。トゥールヌド・ロッシーニというそうです。


 さて、先ほど、モーツァルトの例を引きましたが、この本では彼についての記述がここに取り上げられた作曲家たちと比べ、圧倒的に多く、モーツァルトが7割、ベートーベンが2割、ショパンが1割といった感じで、シューベルトについても少々取り上げられていますが、ちょっと少ないのが残念ですね。


 そして、石井さんが取り上げるモーツァルトですが、これは、小林秀雄のエッセイ「モオツアルト」ばかりが正しいモーツァルト像ではないことが多々挙げられています。たとえば彼の自筆楽譜は修正のあとひとつなかった、というのはウソで、幾らかはあったというあたり。


 モーツァルトは、早熟の天才で「神童」ともよばれたのは周知の事実で、その点はその通りなのですが、彼でさえ、同時代の作曲家と同様な制約のもとで悪戦苦闘するのですね。当時の音楽家は、掃除夫、調理人とならんで、有力者の下僕でしかなかったのです。


この点、子供のころ、パリに演奏旅行して喝采を受けたモーツァルト、そのときの熱狂が10歳まえの子供が演奏するということにのみ与えられたものだったということがわからなかったようで、ザルツブルグ大司教(実際には領主)と衝突してウィーンに出てきて、「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コシ・ファン・トゥッテ」などのオペラ曲を作曲します。そして、彼の音楽は、声楽的なのだそうです。(実際に歌いやすい。ベートーヴェンの場合は歌いにくいそうで・・・)


 また、「シンフォニー」を72曲書きます。・・・「え、モーツァルトのシンフォニーは41曲までではなかったか?」と考えたひと、もっともです。ただ、彼の時代には、現在の画然とした「シンフォニー交響曲」の概念はなく、ソナタとか協奏曲もシンフォニーにと、ごっちゃに分類されていたということです。


 モーツァルトは、宮廷付音楽家にも僧院付音楽家にもなかなかなれず、諸国を渡り歩きピアノの演奏で日銭を稼ぐ、ということもやっています。18世紀当時の音楽家の地位の低さを物語るお話です。天才としての自己規定が彼を支えていたのではないか、と思います。



今日のひと言:モーツァルトには、現代音楽としか思えないような曲があるそうです。以下に示す楽譜ですが、読めますか?なお、石井さんはあそこここでよく開かれる「コンクール」には否定的です。悪しき商業主義の産物だとか。


クラシック音楽意外史

クラシック音楽意外史


今日の料理


クサギの佃煮
クサギの炒め物


 クサギは、クマツヅラ科の雑木。対生の葉で独特な匂いを持ち、敬遠されそうな木ですが、花とか実は大変美しく、実は茶花として親しまれています。今回挙げるクサギの葉の料理は、以前より「草木灰」で茹でてアク抜きをする」というやり方でやってきましたが、草木灰の粒子がまちまちだったので、灰が取れずにじゃりじゃりした食感になったので食べられませんでした。でも、今回はまりんかさんのブログに書かれていた「よく茹で、数回水を変えて晒し、一晩置いておく」という工程でアクが抜けました。サンキュー。

http://d.hatena.ne.jp/caravan9336/20130430/1367320218




左・佃煮  右・炒め物


 佃煮は砂糖(さとうきび糖)と醤油で煮つめ、炒め物にはクコの実をあしらい、軽く醤油とさとうきび糖ちょっとで炒めました。味はそれぞれ、まずまずでした。(ただし佃煮は腐り易いので、作ってから2週間くらいで食べ終わるのが良いです。保存は冷蔵庫の中で。)

  (2013.05.24)


食べる野草図鑑

食べる野草図鑑


@@whitewitchさんへ・・・

 クコと紛らわしいと私が言っていた植物・「ナンバン」の写真を撮ったので掲載しておきます。食べるべきでない植物として。クコとの大きな違いは、葉の色が濃く(クコは薄く)、花が大きめの白花(クコは小さめの紫花)、実(まだ成ってはいませんが)が「まん丸」(クコはラグビーボール状)。おそらく間違えることはないと思います。



 ナンバン




 クコ

   (2013.05.24)