「僕は友達が少ない」・・・「幸せな」男の子のお話
朝日新聞の広告欄を大きく占めて掲載されていたライトノベル(2011.5.18)・・・この案内に書かれていた女の子(イラスト)が、とても興味深く、買ってみたのがこの「僕は友達が少ない」というライトノベル。ライトノベルとしては「狼と香辛料」に続く2回目の購入。「残念系」の小説です。
一応の主人公は、日本人の父、イギリス人の母(故人)を両親にする高校2年生・羽瀬川小鷹(はせがわ・こだか:♂)。彼はそのような具合で、「中途半端な金髪」であり、「染めた」と大体の人に誤解されます。それで周囲の人には「ヤバイ、こいつと付き合うのは止めたほうが良い」と思われてしまい、友人が少ないのです。たまたま、女性と一緒に歩いていると「さてはこの娘を手篭めにしたな」、と見られたり、図書館で「勉強を教えようか?」と声を掛けた男子生徒がそそくさと逃げ、のちに小鷹は「カツアゲをした」との風評被害を受けるなど、損な外見をしているわけです。でも、父と離れて妹の世話をしながら、家事もこなす、好青年なのです。
舞台はミッション系スクールの聖クロニカ学園。
そのような淋しさを埋め合わせるため、どうすれば友達を得られるかを考えていたところ、窓際の席にいて、虚空に向っていつでもなにやら呟いている美少女・三日月夜空(みかずき・よぞら:♀)に誘われて彼女が発案した「隣人部」に半ば無理やり入部させられます。隣人部は、友達が少なくて淋しい人に開放されるというコンセプトです。
以後、隣人部は複数の入部者を数えるに至りますが、全員「残念な:欠陥のある」部員ばかりです。大体美少女ですが、全員、欠陥をもっているのです。柏崎星奈(かしわざき・せな)、志熊理科(しぐま・りか:♀)、高山マリア(たかやま・まりあ:♀)、羽瀬川小鳩(はせがわ・こばと:♀:小鷹の妹)、楠幸村(くすのき・ゆきむら:♂)・・・ここまで小説に出てきた主なメンツです。(6巻末まで)
特に星奈は、容姿・成績とも申し分なしで、ただ、周りの男子生徒を「シモベ」と見下し女王様気取りな点が「残念」なのです。(あ、星奈もハーフで、金髪、碧眼をしています。また、理事長の娘。)また、星奈と事あるごとに対立する夜空は、長くて緑の黒髪の純・日本美人。夜空は体の豊満な星奈を「肉」ないし「貴様」と呼びます。夜空は、成績はいいが、性格に歪(ひずみ)があります。陰険。
5人の女性の中に男性2人・・・かなり違和感のある部員構成ですが、幸村は5巻で実は女性と解るので、全部員7名中、小鷹だけが男性です。わあーー!これってハーレムじゃん!!
てな感じですね。事実女性部員の大部分は小鷹に惹かれていて、また頼りにされてもいるのですね。
ただ、小鷹はこの小説のなかでは、地の文をしゃべる存在でしかないようで、見所は女子部員たちの変態ぶりを描くところにあります。
特に、部長夜空と、星奈の果て知れぬバトルには驚くべきものがあります。「ギャルゲー」(じつは「エロゲー」)が好きな星奈と、そこで語られる「SEX中のエロいせりふ」がちゃんと星奈が読めるかどうか賭けをした両者、(夜空は「汚れちまった悲しみに」(中原中也)を読めるかどうかを賭けた)とても話しきれずに「夜空の馬鹿〜〜!!」と涙ながらに部室を飛び出す星奈。その悪戦苦闘ぶりをこっそりテープにとっていて、「これ、ユーチューブかニコニコ動画に投稿しようか?」と相談する夜空。「鬼かお前は」と小鷹、「冗談だ」と涼しい顔の夜空。(第1巻)
隣人部の企画で行った遊園地で超こわいジェットコースターに乗った際も、どちらが先に音を上げるかと、何度でも乗り続け、お互いグロッキーになり、ついつい介抱していた小鷹の服を反吐(へど)で汚すは・・・(第5巻)
でも、これほど反発しあうという関係も、一種の友達とも言える気がします。お互いを意識しあい、真正面からいがみ合うとてもディープな関係。隣人部という部の名称に笑えます。さしずめ、犬と猫のように仲が悪いですね、この2人。
主人公にとってはあまり嬉しくないハーレムですね。でも、ボス格の夜空とその対抗勢力・星奈に好かれているのは事実です。さて、小鷹、どうする?
現在7巻まで出ているようです。私は6巻まで読みました。ただし、この作品が面白いのは3巻までである気がします。3巻の終りで、夜空は幼少期、男の子のような振る舞いをしていて、小鷹と遊んでいたのです。その後、家庭の事情で小鷹は転校するのですが。たまたま隣人部の花火大会で髪の毛がちょっと焼けてしまってから、ショート・カットにするのですが、それで小鷹が「あの友達が夜空だった」と気付き、「ソラ?」と当時のニックネームで呼ぶと、夜空はうるうる目になってしまう(もっとも、小鷹に気付いてもらうまでは、夜空は自分から自分の過去のことは話さないのでした。)
・・・このエピソードで私は4巻以降も買いましたが、だらだらと隣人部の行事が続き、マンネリ化しているのですね。その辺、「残念」です。また、星奈のリアクションがワン・パターンです。夜空にいじめられるとすぐに「涙目」になる反応、何回読んだことか。隣人部の他のメンバーもそんな感じです。
今日のひと言:このライトノベルでは、テレビゲームにからむお話が非常に多いです。ゲームは、ここまで若い人の間に浸透しているのか、と、インベーダー・ゲーム以来ずっとゲームをやったことのない私には異次元の世界ですね。ゲームが若者の基軸通貨になっているのか、との印象を受けます。
「僕は友達が少ない」平坂読:原作 ブリキ:イラスト MF文庫J
ただ、このライトノベル、これだけで「世界が解った」と思ってもらっては困ります。正統的な芸術である小説は、ライトノベルとは格が違うことが、この「僕は友達が少ない」を読んで解ったのです。ライトノベルは気楽に読めますが、真の小説は「深刻な物語」だと思うのです。日本の小説でも、夏目漱石の「こころ」、芥川龍之介の「地獄変」、梶井基次郎の「闇の絵巻」、中島敦の「李陵」、安部公房の「砂の女」など、傑作揃いです。
(私は、古い小説を読む機会が多いので、新しい小説についてはよく知りません。念のため。)
今日の一句
相席で
ケータイを打つ
同僚ら
会話もなくひたすらケータイに没頭する姿に半ばあきれ、なかば感心して。
「ラーメン屋なう」とでもやっているのでしょうか。
(2011.11.28)

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