虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

ガルシンと「紅い花」〜これも一人の救世主?

ロシアの短編小説家・ガルシン(Гаршин:1855−1888)は、露土戦争に従軍したときの体験を小説にして、一躍文名を高めた小説家です。(従軍時の怪我がもとで退役しました)ただ、彼は遺伝的に精神疾患を病んでいて、小説家として不動の名声を得るまえに、自ら飛び降りて自殺をしてしまいました。享年33歳。


その彼が残した作品はあまり多くないですが、キラッと光る作品が多くあります。その中でも「紅い花」は名作です。この小説には、ガルシン自らの精神病院への入院体験が色濃く反映されていて、彼の当時の精神病院(癲狂病院と当時は呼ばれましたが)の有様がよく解るようになっています。


錯乱して病院に送られてきた主人公(Gと呼ぶ)は、美しい花々を植えた庭に生える罌粟(芥子:けし)の深紅の花に憎悪を燃やします。・・・この「花」こそが諸悪の根源だと。そこで彼は何とかしてこの花(全部で3輪あった)を根絶やしにして、この世を救うことが自分の義務だと思うに至り、それを実行します。


特に最後の花は、拘束衣をされた状態から、病室を抜け出し、「最後(最期)の戦い」を繰り広げ、朝、看護職員が見に来たところ、Gは花をつかんで死後硬直していたので、「戦利品」の罌粟を手にしたまま葬式に回されます。


無意味な死に見えますがGにとっては、この行為は「全人類を悪から救うための」崇高で不可避なものだったのですね。その意気やよし!ただ、行動の設定が完全に誤っていたわけですね。純粋すぎるGに対する過酷な運命。痛々しいです。


もっとも、Gは罌粟の実からアヘンを採種できることを知っていたらしく、その上で罌粟を毟り取ろうとした点については、合目的的です。皮肉なことに、Gは睡眠不足を解消するように罌粟から採れるモルヒネを処方されていたのですが。


ちょっと視点を変えて、この「紅い花」の主人公・Gのようにあまたの花を育てている精神病院においては、園芸作業自体が治療効果を持つことが知られています。「園芸療法」と呼ばれます。Gにとってはそれが逆効果になってしまったのですね。


ガルシンは、「赤、紅」といった色に親和性があるようです。「信号」という小説では、緊急事態で汽車を停止させなければならなくなった人が、白旗を自分の身体を切って溢れた血で赤旗に染め、汽車を止めるサインを出すという事態が語られますが、私は中学の国語の授業でこの小説を取り上げられた際、血の気が引いて、気分が最悪になったことがあります。私は大学受験で複数の医学部を受け、ほとんど合格しましたが、この出来事と考え合わせると、医学部に行かなくて良かったと、つくづく思います。



今日のひと言:私は、ガルシンについて、中学生のころ、当時は流行っていた「旺文社文庫」で知りました。短編小説が好きだった私は、芥川龍之介、ポーなどと並び、ガルシンも同時に購入したというわけです。「4日間」「信号」と並んで「紅い花」も読んだのですね。ただ、文庫が散逸し、最近は「旺文社文庫」は書店であまり見当たらず、久しぶりにガルシンを読みたくなったので、図書館を調べたら、「百年文庫66 崖」(ドライサー、ノディエ、ガルシンポプラ社)にこの「紅い花」が入っていたので借りてきた次第。このシリーズは、大きな文字で書かれていて、とても読みやすく、短編小説が主として取り上げられているようなので、今後も借りてくるかも知れません。



紅い花 他四篇 (岩波文庫)

紅い花 他四篇 (岩波文庫)

崖 (百年文庫)

崖 (百年文庫)

鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)

鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)





今日の料理


@漬け込み鶏もも肉の竜田揚げ風




弟作。コンソメと昆布だしに2、3時間漬け込んだ鶏もも肉に片栗粉をまぶし、フライパンで焼き、念のため電子レンジに掛けて完成。これは美味でした!

 (2015・11・10)




@牛細切れ肉とネギのヤムウンセン炒め




弟作。どうやらタイ料理に使われる表題のタレ(ナンプラー、リンゴ酢が主成分)で一品作りました。肉の香りが良い意味で鮮明になるように思いました。

 (2015.11.12)




今日のロシア・フォルマリズム


「中国人は日本人の5倍は酢を食べている」(や☆や)


・・・だから中国人は日本人より優れているという世迷いごとを平気で垂れ流す、無責任なCM。

 (2015.11.11)