虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

「人間の大地」(サン=テグジュペリ):「工学」の実践

またまた、「夜間飛行」を奨めてくれた同僚の女性に奨められて読んだ小説が「人間の大地」(Terre des Hommes )。「人間の土地」とも。読んだのは「人間の大地」(光文社古典新訳文庫:訳者:渋谷豊)です。これで、サン=テグジュペリ3部作完了です。


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20160829#1472455394

 :サン=テグジュペリの「夜間飛行」:男臭い世界


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20161027#1477495473

:「星の王子様」と「パパラギ」:文明批評の2作品



サン=テグジュペリは根っからの飛行機乗りで、飛行機の歴史とともに歩いて来た人です。その飛行機はどんな道具かと言うに、週刊ビッグコミック・スピリッツに連載されていた六田登の漫画「ヤングマン」では、「比類なき魔物」とされていて、文明の利器は多かれど、これほど「危険」な発明には類例がないとされていました。まあ、空爆にもってこいの凶器であり、もちろん原水爆も落せます。


この小説では、そんな飛行機の軍事利用ではなく、荷物・郵便物の配達業務としての飛行機が語られますが、サン=テグジュペリが同僚とともにサハラ砂漠に不時着して、機体に付く朝露を飲みながら(これが機体のペンキや油と混じって極めて不味い水になったり)、
水のある場所を探したりするというギリギリの生命維持活動を行ないます。アラブ人に出あって水を飲ませてもらうまで、「19時間水を摂らないと人は死ぬ真理」のもと、8日間ほとんど露で凌ぐのです。・・・結果、「水の神にも似た偉大さ」を認識するのですね。大地、つまり自然への畏敬を表明し、人間「の」ものではない大地と砂漠の有様について、臨場感をもって書き綴っているのです。サハラ砂漠での遭難に関する描写が、ビビッドで、この小説の白眉なのでしょう。(水と砂は、多くの人が砂漠という言葉で、セットでイメージすることが多いのではないでしょうか。)


このように、サン=テグジュペリは、飛行士の目で大地の上で繰り広げられる人間の活動を観察し、また自分の活動を観察するのです。サハラ砂漠での遭難事故のときの「砂の記憶」は、「星の王子様」を書くときの、イメージの源泉になったように思います。その意味で、「砂漠」はサン=テグジュペリにとって大事なモチーフなのです。なお、サン=テグジュペリは、1939年39歳のとき、この作品を刊行していて、「星の王子様」はその後1943年43歳のときに刊行されています。


さて、私はこの項を書くに、同じ頃、漢字の「貢」という字を漢和辞典で調べていました。
この言葉は「工」と「貝」の会意文字ならびに形声文字で、意味としては「地方で取れた産物を担いで朝廷に収めること」と言った意味で、「みつぐ」というやまと言葉に通じます。「貝」は財宝を意味するとして、「工」は、現代でも「工学部」の名前の由来になっていますが、この漢字は上の一本棒が「天」、下の一本棒が「地」、縦線が「人」を意味する指事文字です。天や地が偉大であり、その間で動く人間もそれらに習い、偉大だという意味が込められているのが「工」という字です。人は天と地を貫くのですね。(だから「貢」は、卑しい人々(地)が高貴な宮廷(天)に物品を献上する(↑:縦に)、という意味になるわけです。)まあ、この稿では、「工」の字の意味について重視します。


こう考えると、サン=テグジュペリの生き方は、まさしく「工」たる生き方を実践していたと言えるでしょう。かれは飛行士として、大地に根を張り、天空を突き操縦し、天地を貫く行為をやっていたのです。天と地の間で、下は大地、上は天空、その間を上がったり降りたり自由に行き来し、その両極の間で、活動したのですね。「工」の実践です。
 


今日のひと言:それにしても、飛行機は工学の粋を集めた傑作発明の一つですが、今回書いたように、多くの人間の命を奪う軍事的な媒体となったり、あるいは商業用に多くの人 に恩恵を与えたりという相反的な属性を持っています。それは工学という営みの持つ属性でもあるのです。



人間の大地 (光文社古典新訳文庫)

人間の大地 (光文社古典新訳文庫)

人間の土地 (新潮文庫)

人間の土地 (新潮文庫)

ヤングマン 1巻

ヤングマン 1巻

ストーリー工学: 物語を創る

ストーリー工学: 物語を創る




今日の一品



@キクイモの煮物



とっておいたキクイモ半分、乱切りにして、醤油、ヤマサの昆布汁、羅帝(激辛唐辛子)などで煮ました。できあがり、通常の芋のようなホクホクした食感がありました。

 (2016.11.20)



@牛細切れ肉の粒マスタード和え



弟作。炒めた牛肉に既成の調味料を掛けました。マスタードの風味が良いです。

 (2016.11.21)



@ディル風味味噌汁



ディルは、フェンネルに似たハーブで、北欧の人はピクルスの香り付けに使います。風味はフェンネルが温とすればディルは涼。味噌汁では控えめにネギの代わりに使いました。ちゃんと風味が足されていました。

 (2016.11.22)



@ボイルド・ムール貝の刺身



スーパーに置いてあったので、購入。ちょっと生臭いけれど、香辛料(ワサビや唐辛子)と食べると美味しかったです。なお、ムール貝には、似たり貝という別名があります。その意味は内緒です。

 (2016.11.23)





今日の二首


今朝ははた
霧の帳(とばり)が
降りにけり


視界おおよそ
100m



 (2016.11.20)




雪被る
田に群れ集う
スズメたち


食べ物なきと
見るにあれども

 (2016.11.24)