虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

『君の膵臓をたべたい』:自己完結型だった「僕」が変身するまで

表題の本は2015年に出版され、累計150万部売れたという「住野よる」のベストセラー。実写版で公開されていて、アニメ映画でも取り上げられるらしいです。そもそも「膵臓:すいぞう」というのは、極めて重要な臓器で、ここがガンになると、最悪5年生存率が1割にも満たない怖い病気です。表題を見ただけで、この部位の病気に冒された「君」は、過酷な運命を背負った人だと想像できます。


主人公の「僕」は、あるとき病院で、ある日記を目にします。この手書きの日記を思わず手にとって読んでいると、この日記の所有者、山内桜良(やまうちさくら:「僕」のクラスメイト)が現れます。本来他人の僕に、自分と家族しか知らないことを書いたこの日記を見たことを口実とし、桜良は「僕」をいろいろなことにつき合わせます。(この日記は「闘病日記」とは名付けられず、「共病日記」とされていて、彼女がともに病魔と付き合ってもらえる人との共同作業の記録であるように思います。)


最初の「デート」はなんと焼肉屋。「僕」はあんまり焼肉に詳しくなく、また桜良のオゴリということで、いろいろな部位、いわゆるホルモンですがミノセンマイシビレなどを2人で食べます。とくに「シビレ」とは膵臓のことで、幾分か無気味さを感じます。(このあたりに物語の伏線、題名の『君の膵臓をたべたい』のパッションに繋がるポイントが入っているようです。)でも、初デートが焼肉屋とはいかにもディープです。たぶん普通のカップルなら、常識的には喫茶店で無難なデートを楽しむのでしょうね。桜良はそれほど「僕」が好きだったのでしょうか?


以後、甘味処などにも二人で行きますが、極めつけは身内に一切秘密の、2人ぼっちの旅行、途中新幹線も使うりっぱな旅行です。桜良はどんなつもりなのか、「僕」は受動的な性格をしていて、彼女と行動をともにするわけですが、私は男女の駆け引きといったものに思いを馳せます。私の大学時代の女友達は「高校生から大学初年度のころまでは男の子より女の子のほうがIQが高い」と言っていました。この発言に少々手を入れると、「IQは性別によらない、EQなら彼女の言うとおりだろう」と。もちろんIQは知能指数であり、感情表現と受容の指標、EQなら確かに女性のほうが上回るだろうと。


桜良はベッドで「僕」をハグします。「僕」は女性には出せない力で桜良をハグ仕返します。この事態は桜良の想定外で、泣いてしまいます。ここいらから、受動的だった「僕」が、桜良と会話の上でも対等になってきたように思えます。EQではまだ及ばないにせよ、「僕」にはとうとう桜良という恋人が誕生したといえるでしょう。


では「僕」とは誰?彼は人間関係の埒外にあって、自己完結型の生活を送っていました。友人も、恋人も、交遊的には必要としないのでした。【仲のいいクラスメイト】くん、【根暗そうなクラスメイト】くん、【秘密を知ってるクラスメイト】くん、【?????】くん・・・等等、とも桜良に揶揄半分で言われていました。でも、愛の力が「僕」を動かし、桜良に「君の膵臓をたべたい」と、究極的なラブコールのメールを送ったとき、桜良は膵臓病とは違う理由でこの世を去りました。(もっとも、この言葉は、最初に会ったとき桜良が「僕」に発したものでしたが。)


桜良の家を訪ねた「僕」、桜良の母に初めて(読者にとってか)フルネームを告げます。「志賀春樹」。彼は桜良の遺作である共病文庫の扱いを、桜良の母に託されます。


ある意味、悲愴悲惨な話でありますが、読後感は良いですね。



今日のひと言:この作品は“イラストがほぼ必ず付随し、イラストの巧拙によって売上が左右されるライトノベル”とは少々異なり、イラストとしての挿絵はなく小説として上出来なものだと思います。それにしても、この小説における2人の男女の恋愛の在り方は特異ではありますが、あってもおかしくないと思われます。特に自己完結型だった「僕」=志賀春樹の成長ぶりには目を見張りますね。短命だったけれど、桜良はその人生で、ひとりの男性を人生に開眼させたのです。


まあ、私も大学生初期まで「僕」のように自己完結型でしたが、その硬い鎧(よろい)を打ち破ったのは、やはり異性である女性(肉食系女子)でした。恋は個人の自己完結性を打ち破るパワーを秘めています。「僕」も私も草食系男子から肉食系男子に変貌したわけです。


『君の膵臓をたべたい』(きみのすいぞうをたべたい)は、住野よるによる日本の青春小説。略称は「キミスイ」。住野よるの作品が初めて出版された本でもある。実写版映画が2017年7月28日に公開された。

(wiki:『君の膵臓をたべたい』)  ちなみに「住野よる」は男性です。



か「」く「」し「」ご「」と「

か「」く「」し「」ご「」と「

少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集

少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)

桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)




今日の一品


@モーカ鍋



なにぶん我が家は貧乏なので、アンコウ鍋などは出来ません。そこで、魚介類は、牡蠣は必須、魚にタラなどを入れますが、魚でもう一品、安価なモーカ(鮫肉)を入れてみました。それなりに美味しかったです。
(2018.02.24)



@鶏モモ肉の「クラッシュト・炒り豆」散らし



切り揃えた鶏モモ肉に塩麹をまぶし4時間ほど置いて、180℃、15分オーブントースター。皿に取り、オレガノ、包丁の背でくだいた節分の豆を散らします。

 (2018.02.25)



@チャービル入り味噌汁


以前も取りあげましたが、とくにフランス人に愛されるハーブ:チャービルを摘んでそのまま味噌汁に入れました。風味はフェンネルに似ていますが、ちょっと重たく、独自です。味噌汁には面白い味を添えたようです。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20171226#1514231501 参照。

 (2018.02.26)



@イナゴの佃煮


これはゴキブリではありません。(バッタの一種)イナゴの佃煮です。我が家ではこの商品を好み、機会をみて、値引きになった商品を目ざとく見つけ、買ってきます。味も良いですが栄養価も高く、高タンパクであることは実証されています。とくに亜鉛(Zn)の含有量は特筆もので、男性に嬉しい成分です。

 (2018.02.27)



@ピンク・とろろいも


群馬県太田市尾島地区は、粘りの強いヤマトイモの産地です。今回はすりおろした芋に、ケチャップ、テーブルソルトで味と色を付けました。ピンクと色いうよりオレンジ色だったかも。

 (2018.02.28)





今日の四句 :春先には、四季を通じもっとも句が捻れるのです。
                                                                                                                                                 

カラスらが
憩う電線
撓い(しない)けり



カラスが20羽くらい屯(たむろ)していました。私はカラスが好きです。

 (2018.02.24)




川べりに
しがみつくなり
クレッソン



 (2018.02.24)




白梅の
密かに咲くや
裏の道


 (2018.02.25)




垣根巻く
造花のごとき
ツタの葉や


冬でも青々として、人工の葉でないか、と思われる次第。

 (2018.02.25)