剪燈新話(剪灯新話:せんとうしんわ):中国のしゃれて・お色気たっぷりな怪談集
いまの若者にはピンと来ないかも知れませんが、夏になると、ぞっとさせることによって涼を取らせる目的で、怪談がよくテレビで放送されたものです。そのなかでも、スタンダードなのが「牡丹灯篭:ぼたんどうろう」です。日本で初めて話題にしたのは、江戸時代から明治時代にかけて活躍して名人と言われた落語家の三遊亭圓朝(さんゆうてい・えんちょう)で、いわゆる鳴り物入りで(楽器も奏でながら)こわーーい噺を披露したのですね。さて、そのネタ本になったのが「剪灯新話:せんとうしんわ」なのです。この本について wiki から
剪灯新話(せんとう しんわ)は、中国の明代に著された怪異小説集である。撰者は、瞿佑(zh:瞿佑:くゆう)。旧題では剪灯録(せんとうろく)と称し、40巻あったとされるが、現存するのは4巻のみ。全21篇を収めている。1378年(洪武11年)ごろの成立とされる。
各時代の怪異譚を記しているが、唐代の伝奇小説の影響を強く受ける。中でも艶情を記すのに優れ、幽玄なさまを流麗な筆致で描写している。また末尾には四六駢儷文で判決文を記す。
「三言二拍」や明代の戯曲に影響を与え、清の初めの『聊斎志異』にも影響した。また、朝鮮を経由して日本にも伝来し、江戸時代の文学に多大な影響を与えた。とりわけ、浅井了意の『伽婢子:おとぎぼうこ』や、「牡丹灯記」に基づく三遊亭圓朝の「牡丹灯籠」は、本書の翻案として著名である。
また本書は、中国では、士大夫の教養とは認められず、禁書の措置を受け、清代には断片しか伝わらなくなってしまった。日本には慶長(1596年 - 1615年)中の刊本が伝世していたため、1917年になって、董康によって翻刻され、中国に逆輸入されることとなった。
お話自体は、短編の小説ばかりで、一話10分もあれば読みきれます。どのお話も完成度が高く、特に男女の儚い恋のお話においては、なかなか素晴らしい出来の作品が多いです。今回読んだ本は「剪燈新話」(飯塚朗 訳:平凡社東洋文庫48:1965年初版)です。
私はまず20話のうち目に付いた作品「愛卿のものがたり」(愛卿伝)を読んで見ましたが、芸妓(遊女)の身の上で、詩を詠むのに巧みな賢い女性、愛卿(あいけい)が身請けされ、某人物の妻になりますが、その旦那が長期赴任をしていたとき、蛮族が攻め込んできて、愛卿の貞操も奪おうとします。このとき、愛卿はそれを良しとせず、首を括って自決してしまいます。この悲劇のあとに国に帰ってこられた夫は、いつもどおり、愛卿に迎えられます。そして一夜を共にするのですが、朝起きてみると愛卿の身に悲劇が襲ったのだと知ります。
ここで興味深いのは、見ず知らずの男に体を預ける・遊女であった愛卿が、夫への操を守り、凌辱の辱めを受けないために自死したことです。遊女という身分であったからには、凌辱されて命を長らえることが簡単なのに、愛卿は死ぬのです。これは身請けしてくれた夫に対する感謝の気持ちの発露だったのでしょう。よほどの貞操観念です。
そう考える事例の一つとして、備中和紙を漉(す)かれていた丹下哲夫さん、山奥で紙漉きをやっておられたのですが、ダム建設のあおりで、移住をしなくてはならなくなり、ほかの紙漉き屋さんが廃業したのに対し、「養子として嘱望されてこの道に入ったのに、自分の代で廃業しては先祖に申し訳がたたない」と下流の倉敷市内に移住して紙漉きを続けたとのこと。遊女と紙漉き屋さんの養子の違いはあれど、恩義に感じる点では同じです。むしろ、カタギの妻、また実子より、身請けされた妻、養子のほうがスジを通すのですね。丹下さんのお話を聞くまでは、養子になった人の実感は想像もできませんでした・・・
こう読んできて、私はふっと思いました。「このお話は日本の怪談作家・上田秋成の「雨月物語」に出て来る「浅茅が宿」に似ているな、」と。このお話も、亭主が他の地に長期滞在していたときに戦乱に巻き込まれて死んだ妻が、一夜のお相手をするお話だったのです。この本の解説を読むと、どうも私の推察が当たっていたようです。また、同じく雨月物語の「吉備津の釜」は、話の組み立て方は「牡丹燈記」(牡丹灯記)に似ているという記述も、解説にあります。(もちろん、牡丹燈記は牡丹燈篭の元になったお話です。)
参考過去ログ: 雨月物語:上田秋成は江戸期の「水木しげる」だ。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20120105#1325760340
今日のひと言:中国の物語は、長大なものあり、短くても印象的なものあり、実に面白い読書体験をもたらしてくれるものです。
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今日の一品
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弟作。たまにつくるお好み焼き風味の料理を、今回はニラをフンダンにいれて固めに焼きました。
(2016.05.14)
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(2016.05.17)
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何故か(なにゆえか)
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鮮血の
ごとく赫けり(あかけり)
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くずおれる
徴(しるし)は満ちて
廃屋や
(2016.05.16)