虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

フリッツ・ハーバー〜不運な愛国者


化学者特集 その3(全3話・完結)



 フリッツ・ハーバーFritz Haber, 1868年12月9日 – 1934年1月29日)はドイツ(現在のポーランドヴロツワフ)出身の物理化学者、電気化学者。ユダヤ人から改宗したプロテスタントである。第一次世界大戦時に塩素を始めとする各種毒ガス使用の指導的立場にあったことから「化学兵器の父」と呼ばれることもある。 
Wikipedia  より


この人は、ラボアジエが純粋に理学系の化学者だったことと好対照に、工学系の化学者だったと思われます。化学工学。ハーバーは1918年のノーベル化学賞を受賞していますが、そのテーマは「高温・高圧条件下における、鉄触媒を使い、窒素(N)と水素(H)を結合させたアンモニア(NH3)の合成」。これはある意味スゴイ技術で、自然界ではマメ科植物が根粒細菌と共同でほそぼそとしていた空中窒素固定を人為的にできるようにしたのですから。(ハーバー・ボッシュ法


 この技術を応用して、肥料が、また(アンモニアを硝石にして)爆弾が作れ、第一次世界大戦で、ドイツの降伏は、この技術がなければ半年早まったろうと言われます。前にも書きましたが、2010年ノーベル化学賞賞受賞者・根岸英一さんが自信満々に語っていた人為的「光合成」にも匹敵する技術なのですね。触媒を使うだろう点も共通しています。それがあっさり出来るようにした・・・これがハーバーの業績の一つです。ほかにも、おびただしい業績があります。


 そして、先に挙げたように、ハーバーは殺人兵器・・・毒ガスの開発にも手を染めます。このような行為は、彼がユダヤ教を棄てて、プロテスタントになり、軍のために毒ガスを作るほどの愛国者だったのだ、と言えると思います。


1912年にはベルリン大学物理化学科の名誉教授となった。第一次世界大戦中は毒ガス開発に携わる。自身も科学者であった妻クララは夫が毒ガス兵器の開発に携わることに反対し、初めてそれが実戦で使われた(1915年4月22日)のち、5月2日に自ら命を絶った。その頃ハーバーはこの塩素ガス作戦の指揮を執っていた。そのため、終戦後は激しい非難に晒され、戦争犯罪人の候補に挙げられた。

再びwikipedia  より


でも、狂人アドルフ・ヒトラーによりハーバーの運命は大きく変えられます。実際、ユダヤ教を棄てたものは「ユダヤ人とは呼ばない」のに、ヒトラーは、ハーバーにも危害を加えようとします。ドイツ国外に逃げるハーバー・・・悲惨です。祖国の為に身命を捧げたハーバーに、冷たい仕打ちをたたみかけるのです。共同研究者だったボッシュは「こんな迫害をしていると、優秀なユダヤ人科学者はドイツを出て行ってしまう」とヒトラー諌めるのですが、この狂人は聞く耳を持たないのでした。ボッシュの言葉通り、アインシュタインをはじめとする科学者たちが亡命します。そして、ハーバーはスイスのバーゼル客死します。


 これは、毒ガスを作り出したことへの、神の罰?・・・罰であるとすれば「どの神の」罰??


今日のひと言:化学(科学も)は諸刃の剣。「科学の唯一の目的は人間精神の栄誉のためにある」とするヤコービのような理学的な行きかたならGOODなのだと思いますが、実生活上で利用するという工学的行き方は行き詰っていると思います。(ヤコービについては「ラボアジエ」の項参照。) 「現代は、理学より工学の時代」のような気がするのです。「いい物質を発見したり、合成したりして、生活に取り入れる」・・・このようなある意味「さもしい根性現代社会は成り立っているのではないかと思います。」(ラボアジエの項参照。 http://d.hatena.ne.jp/iirei/20110714


 現に、ハーバーは毒ガス兵器を作り、アインシュタインの理論は原子爆弾の成功に寄与しています。いずれも理論の、工学的な、現実世界への応用なのですね。



ところで、 東京大学総長は、私の知る限り、工学部出身の人は何人もいて、戦前の、軍艦を設計する造船学の平賀譲さんと、戦後原子力を推進する立場にあった向坊隆さんなどが代表的です。きな臭いです。工学が生臭くも、お金になることの例証ですね。向坊さんは、私が東大に入学したときの東大総長であり、日本武道館での入学式で祝辞を述べられました。


参考文献:東大の学部ランキング http://mimizun.com/log/2ch/joke/1098395921/


毒ガス開発の父ハーバー 愛国心を裏切られた科学者 (朝日選書 834)

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ぼくは毒ガスの村で生まれた。―あなたが戦争の落とし物に出あったら

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今日の一句


♪品川美容刑事(デカ)〜〜


警視庁の元刑事が、がさ入れの時・所を当該美容外科に漏えいしていたことにあきれた自由律俳句。私の弟の発案。