虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

サン=テグジュペリの「夜間飛行」:男臭い世界

「星の王子様」で名高いサン=テグジュペリ( Antoine de Saint‐Exup´ery)。「夜間飛行」という作品もあるのは知っていましたが、この作品については同名の香水があるように、女性向けの作品かと思っていました。ところで、同僚の女性に「弟子中島敦)」と「伊勢物語」をオススメして、彼女が読んでくれたことへのお返しとして、「何か推薦の本はありますか?」とお聞きしたところ、「夜間飛行」をオススメします、ということだったので、早速図書館から二木麻里訳、光文社古典新訳文庫 を借りて読んでみました。


そこで考えたのは、この作品は、決して香水が主たるモチーフではない、むしろ男の汗臭い作品だな、ということです。サン=テグジュペリは軍用機、民間機のパイロットを歴任し、「空を飛ぶ」ということになみなみならぬ執着を持った人だと思います。この「パイロット」という仕事、敵機を撃墜したり、悪天候で人や物を運んだりする、臨機応変な操縦が必要で、そのような才においては男性が女性より優れているだろうと思います。同じパイロット出身の、フレデリック・フォーサイスが超・男性的な「ジャッカルの日」を物せたのも、同じ理由からだと思われます。


ただ、このような営為は、「不安定」で、実はパイロットたる男性の弱み、脆弱性だと思います。女性のように打たれ強いというより、脆いのですね。(この話題は後の文につながります。)


ところで、この小説の主要な登場人物は、3人であると思います。パイロットのファビアン、その妻(新婚6か月!)、航空機会社社長のリヴィエール。会社は、南米大陸で夢を追いかけ、荒涼たるパタゴニアから、ブエノスアイレス、またブエノスアイレスからヨーロッパに荷物を運ぶことを主たる業務としていました。そのキャッチ・フレーズが、夜間でも荷物を運びます・・・夜間飛行というわけです。


さて、文中で、仲睦まじい夫婦が登場して、これから過酷な業務に旅立つ夫を精一杯気遣う妻のお話が出てきますが、この逸話には「固有名詞」が登場しません。恐らくはファビアンと妻の有様を描いているのでしょうが、健忘したように「ありません」。・・・これは忘れたのではなく、「世間一般の夫婦」の様子を挿入したのかも知れません。話の枠を広める効果を狙ったのかも知れません。ほかにもこんな事例があるのだと。


そして案の定、ファビアンが飛行しているとき、パタゴニアの嵐に巻き込まれ、飛行機は乱気流の中を綱渡りのように航空し続けるのです。勿論、ファビアンは、ベストを尽くしてこの難局を切り抜けようとします。異変を察したファビアンの妻は、リヴィエールに電話したり、会社に来たりしますが、その有様を見たリヴィエールは、男と女の平凡だけれど安定した関係に比べ、自分たちの「企業という営為」は「カスのようなもの」だと考えるに至ります。結局、男の仕事なんて、みんな「児戯に類するものであるということですね。「男の児戯」より大切な生命の根幹は、女にある・・・


さて、時間ばかり経過して、もはやファビアンはほぼ絶望的だと解ったとき、リヴィエールは、「代理の飛行機」を召集し、請け負った仕事を完遂します。非情ですが、会社の経営者としては、妥当な選択だったのでしょう。翌日に、大々的にファビアンの捜索をやれれば、まあ、会社の社長としては及第でしょうね。



今日のひと言:女性が作る、安定した家庭、男性がおこなう不安定で児戯のような仕事、男性は有史以来、このような営為を繰り返し、世の中を悪くしてきました。たとえば以前もとりあげたドイツの化学者:フリッツ・ハーバーは、「愛国心」ゆえに「毒ガス」を発明し、その妻はハーバーに抗議して自殺したそうです。


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20110724#1311503102

  :フリッツ・ハーバー〜不運な愛国者



夜間飛行 (新潮文庫)

夜間飛行 (新潮文庫)

星の王子さま (新潮文庫)

星の王子さま (新潮文庫)

ジャッカルの日 (角川文庫)

ジャッカルの日 (角川文庫)

戦争の犬たち (上) (角川文庫)

戦争の犬たち (上) (角川文庫)





今日の一品


@焼きビーフ



たまに食べている健民の焼きビーフン、具材とともにフライパンで、油を敷き加熱して、180ccの水を加え、フタをして3分でOK。豆由来の春雨より、コメ由来のこの製品のほうが、胸にもたれにくいようです。


 (2016.08.24)



@ヒジキの炒め煮



ヒジキが豊富にもつ脂溶性ビタミンを吸収しやすくするため、ゴマ油とナタネ油を使って炒めたあと、醤油+砂糖で煮ました。ほかの材料はクコの実、油揚げ。


 (2016.08.25)



@ウルメイワシのマリネ



すでに3枚おろしのウルメイワシをレンジでチンし、秘伝のマリネ液に4、5時間漬け、取り出します。マリネ液は酢・醤油・砂糖を使うので、腐りにくく(とくに酢のおかげで)、繰り返し使います。たまにこれらの調味料(酢・醤油・砂糖)を足します。(付記:今回は香辛料として粉末コリアンダーを加えました:2016.08.31)


 (2016.08.26)



@エンツァイ炒め




南方で栽培されるエンツァイは、サツマイモの仲間(ヒルガオ科)。別名・空芯菜アサガオ菜などがあり、炒めて美味です。今回はゴマ油ナンプラーで炒めました。加熱後、色が悪くなるという欠点がありますが、味は落ちません。


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090903#1251957783  参照。


 (2016.08.28)




今日の詩(2編)


@稲と稗(いねとひえ)


稗は稲と同じ環境で成育する雑草。
見分けが難しく、稲より遅く成育を始めるが
稲より背が高いので、結実する頃には―


稲を覆うようになる。
農家の実力が試されるのはこの頃で、
コマメに稗を除草する農家は素晴らしい。


でも高齢化のもとではこの中腰作業は苦役だ。
稲を育てていると言うより稗を栽培している農家を笑えない。
でも稗は雑穀米の構成品なので、初めからこれを育てるのも可。


 (2016.08.23)




ポケモンGO


朝のタエコ(犬)の散歩時、
じっとして赤城山スマホを向ける
若者を発見


このような不自然なポーズを取る
者には、タエコは唸りつける。
おそらくこの若者はポケモンGOをやっていたのだろう


でも、タエコがイヌではなくモンスターなら、この若者、
後ろからハイパー・タエコに襲われ命はないだろう。
本人がハンティングされる、ということ。


 (2016.08.24)




今日の一句


稲の葉の
先で光るは
夜露なり


 (2016.08.24)