ここに言う「チューニョ」とは、ジャガイモの原産国、ペルーの中央アンデス地方に認められるジャガイモの毒抜き法です。
原産地では、通常我々が食べるジャガイモの原種が数多く存在していて、毒成分も多くジャガイモは含んでいました。その通常なら手に余るジャガイモの毒抜き法、あるいはその処理をしたジャガイモを「チューニョ」と呼ぶそうです。
その方法は、昼と夜の大きな寒暖差を利用して夜野外に放置しておいたジャガイモを昼に踏み潰し・・・というのを繰り返し、細胞内にあるソラニンという水溶性毒成分を洗い流すとのこと。その処理をしたジャガイモは保存性も増し、有効な食糧になるといった具合です。(ジャガイモは水分80%だから、保存性、運搬性に欠けます。だから後世、ヨーロッパでデンプンを取り出すという利用手法が確立されます。)
原産地ではジャガイモの染色体数で2、4、3,5倍体と多くの品種があるのです。
アンデスの人たちは、数千年かけてこれら屋外にあり、比較的手なずけやすかったジャガイモの原種を多数持っていたのですね。
そして、それは現代でも、高低差で1000mもの農地にジャガイモの特性に合わせて植えつけているのです。それは、かならずしも多収穫を目指したのではなく、安定した収穫を目指したものでした。ただ、このような自給自足的な農法が廃れ始めており、ペルーの首都リマに人口が流れているとか。
ヨーロッパには16世紀にスペイン人によって紹介されますが「聖書にない植物である」という理由で、なかなか食用にされませんでした。穀物に比べイモは軽く見られたこともあったかも知れません。
「ジャガイモ大好き」だったのはアイルランド人でした。ただ、ヨーロッパに伝わったジャガイモは全て同じような特徴を持っていたので、おなじような病気に罹りやすかったのです。(日本で言えば男爵、メイクイーンほどの違いに過ぎず、この2種は、同族のジャガイモであり、多様性は原産地には劣ります。)
そのアイルランドを襲ったのが史上名高い「ジャガイモ飢饉」。高収穫性のジャガイモ一種だけ植えたため、すべてのジャガイモは病原体への対抗性がなく、全滅したのです。
さて、そうなると、穀物はイングランドに持っていかれるアイルランドは、飢饉に陥らざるを得なかったのです。ある旅行者の日記に「ここでは1年のうち、10ヶ月ジャガイモとミルクだけで過ごし、残りの2ヶ月はジャガイモと塩だけ食べている」
1754年に320万人だった人口が1845年には820万人になっていたが、飢饉中1851年下火となって100万人餓死、150万人がアイルランドを捨てました。
アイルランドではいまでもこの飢饉の影響下にありますが、世界に飛び散ったアイルランド人は7000万人に増えているそうです。なかでもケネディ大統領が成功例です。:
過去ログ
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20081202 ジャガイモ飢饉とケネディ大統領
他の地域では、ネパールのようにアンデスと同じような地域とか、日本における普及の歴史などが紹介されます。
以上、つらつらとジャガイモにまつわるお話が紹介されます。
今日のひと言:ところでこの本の著者・山本紀夫さんは民族学、民族植物学、山岳人類学専攻の学者です。(農学博士)かれこれ40年、ジャガイモに関するフィールドワークには頭が下がります。
確かに、ジャガイモを首座にすえた研究をするのに、農学者であるという資質は大いに役立ったことでしょうね。山本氏はたんたんと、でも興味深いと読者に期待させるような書き方をしています。こういった研究は、何ヶ月も何年も現地に駐留することが多いから、相当いらいら感(ストレス)を感じることもあろうか、と思われます。この種の分野では、女性研究者の活躍する余地もあると思いますね。衣食住にまつわる話題がそれを保証しますからね。生活を実感するのは、女性の得意分野だからです。
私には民族学と文化人類学の区別がつかないのですが、だれか明確にその違いを教えてくれませんか。
「ジャガイモのきた道:山本紀夫:岩波新書1134」
2008年5月20日:初版
なお、ナショナルジオグラフィックの記事によれば、2008.08.01付けで
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=2008100203&expand
ジャガイモの発祥地アンデス地方では、地球温暖化のあおりを受け、世界平均の倍の早さで温暖化が進み、ジャガイモの病気が蔓延して、現地の人達の食糧が逼迫しているとのことです。この病気は、アイルランドのジャガイモ飢饉と同じ病原体であるとのこと。
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