シンドバッド→
この人の抽象的な絵は、意味不明のため、国語とか美術の教科書の表紙をかざることが多く、私もそういった教科書を使った一人です。
ただ、美術の教科書に載った彼の絵を見ると、人の顔の絵がラフに描いてあるだけで、「手抜き」か、この画家!!と思ったものです。それは野菊を描いた「セネキオ」という作品で、第一印象はとても悪かったです。「パウル・クレー=手抜きの画家」といった具合です。
ところが、我が家に張ってあった、「海」をテーマとしたカレンダーで、「イロイロな画家の海」を見て、ダントツだったのが「幻想喜歌劇「船乗り」から戦闘の場面」です。私は「船乗りシンドバッドの冒険」として覚えていましたが。もちろん、クレーによる絵。
この絵は、先ほど挙げたクレーの短所が長所に変わっているように思えます。絵は決して手抜きではなく、確乎とした描線が、絵を隅々まで被い、まるで寒天にグラデーションしたように、色彩が微妙に変わっていきます。海全体は青、空は黒と縁取りされ、画面中央にもっとも明るい画面を置き、小船に乗った人物と、3匹の巨大魚が対峙していています。中央には赤い色も使われています。描線と色彩が渾然一体となっています。
次の一瞬、どうなるかは絵が教えてくれます。ちょうど、高波が落ちかかろうとしているのです。その波によって小船は転覆して、この人物(シンドバッドとしておきましょう)は、3匹の巨大魚の餌食となってしまうであろうことが予想できます。
うーーーん、スゴイ絵だ。
↑セネキオ(野菊)
パウル・クレーは、バイオリン奏者になるか、画家になるか、迷ったこともある人で、彼の絵はしばしば音楽に例えられます。彼にとって、絵の基本要素は「描線」と「色彩」です。描線一つにせよ、完璧にマスターするのは大変です。それをやりぬいた彼は、チュニジア旅行をして、色彩とはいかなるものか、脳裏に畳み込んだのです。そのようなことを知ってから作品「セネキオ」も、「花に人格を見たんですね」とクレーに言ってあげたくなるのです。私がもっとも好きな西欧の画家はパウル・クレーです。
彼は前衛芸術のメッカ「バウハウス」教授を務めましたが、ナチスから「頽廃芸術=たいはい芸術:腐った芸術」との烙印をむりやり張られ、故郷のスイスに亡命して、スイスでその一生を終えました。
今日のひと言:頽廃していたのは、画家志望の末挫折したアドルフ・ヒットラーその人でしょうね。彼の描いた絵を見てみたいものです。そこには「頽廃」はないのでしょうから・・・
絵は「パウル・クレー 絵画のたくらみ (とんぼの本)」を参照しました。
過去ログで芸術について触れたもの一覧
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