全世界を笑う〜中村うさぎ
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エッセイ特集 その2
『どうする、うさぎ?このまま逃げるかっ!?そう、それができるなら、逃げて逃げて、地球の果てまで行ってしまいたい気分だぜ。そんでさぁ、北極のイヌイット族と一緒に暮らして、もう一生、シャネルとは縁のない人生を送るんだぁ!氷の家に住み、魚を釣り、素朴な人々と素朴な毎日を・・・・。
「お待たせしましたぁ!」
店員の声が朗らかに響いた瞬間、私とイヌイット族の素朴な生活は、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「72番のワンピース、凄い人気なんです。ご試着を希望されてるお客様がたいへんいらして・・・でも、やっと取ってまいりましたわ。さぁ、どうぞ、ご試着室へ!
「は、はい」
店員の後に従って試着室に向かう私の心境は食肉処理場に向かう仔牛のそれと似ていたかもしれない。我が身の破滅が、もう目の前に迫っている。そして私は、それを止めることができないのだ。ドナドナドーナ、ドーナ〜・・・。
私はうなだれて試着室に入り、72番のワンピースに着替えた。もしも、あまり似合わなかったら、買わずに無事に帰宅できる。それだけが、今の私の、希望の灯火・・・。
「まあ、お似合いですわ!
試着室を出た途端、店員がうっとりと叫んだ。もちろん、こんなの社交辞令だ。ひと目見た瞬間に気絶しそうなほど似合わない客にだって、この人たちはこのセリフを言うことができるのだ。そんなのわかってるけど、でも・・・
このワンピース、かわいいじゃんっ!!!!
その時である。私の中で、何かがキレた。
突然、私はクレオパトラのごとく傲然と頭を上げると、
「じゃあ、これ、いただくわ!」
「ありがとうございます。他にも、お目に止まった物は? 』
以上は、「ああ、恐怖のシャネル受注会(inだって買っちゃったんだもん!):中村うさぎ:角川書店:2000年」の119P−121Pから引用しました。ちょっと長くなりましたが、一連の心理的過程を書く意味であるとお考えください。
中村うさぎは、知る人ぞ知る、で、現在の持ち金(1000円以下でも)にかかわりなく数十万円単位のブランド品を買いまくり、財政破綻したけど、その際の体験談をエッセイにして大当たりした小説家です。ここで取上げた文章も、その頃の経緯を赤裸々に綴ったものです。現在はデリヘリ体験談をエッセイにしているようです。なに、SMだって?
それにしても、躍動感のある文章です。このような書き方は、男性より女性の書き手が得意とするものでしょう。少なくとも私(♂)には書けません。なかでも、さすがにブランド品に手を出すのに罪悪感があるのか、「屠畜される仔牛」に自分をなぞらえていたかと思ったら、「ドナドナドーナ、ドーナ〜」というフレーズが飛び出すあたり、普通じゃあありません。もちろん中学校の音楽でたいてい習う「ドナドナ」を意識しているわけですが、あまりにブッとんでいます。これって、自分自身を茶化していますね。自分自身を笑っています。ブランド品に嵌る自分を、ひいてはその種の人種、ひいては全世界を笑っているように思えてなりません。バカなことをしていても、不動の視点があることを感じます。その意味で、シニカルでヴィヴィッドな世界観を彼女は持っている、と思われます。
恐るべし、中村うさぎ。もちろん、上掲の話の後もブランド品を購入なさいます。ああ、このようにキレるんだな。
今日のひと言:実生活上で中村うさぎの模倣はしないのが賢明ですね。それにしても、うさぎさん、次から次へと、ヤバイことをして、エッセイのネタにするようですけど、危ない綱渡りをしているように思います。いつまで続けることやら・・・飛び跳ねる・う・さ・ぎ。