老子・各章解題〜〜その3(最終回)
中国の古典・「老子」は短い文章の断章・81章(5000余言)からなる全体も短い文献ですが、その意味するところは非常に深いです。これから、3回に分けて、各章のキーワード、要諦を挙げてみようと思います。@1=1章と言う具合に表記します。81÷3=27章づつです。出典は「老子」(小川環樹・訳注:中公文庫)からです。このブログは、私のなかの老子にインデックスを付け、整理整頓する意味があります。ちょっと取っ掛かりにくい人もいると思われるので、一回置きにエントリーします。今回は3回目(最終回)。
(承前)
@55:「赤ちゃんの徳。危険な動物(ヘビ、サソリ、ハチ、猛獣、猛禽など)も攻撃しない。」「生命力が盛んである。」老子は嬰児を讃える。
@56:「知る者は言わず、言う者は知らず。」「和光同塵」(@4)&「聖人は(為政者が)利することも害することも出来ない。毀誉褒貶を超えているからである。」
@57:「国家の統治は「正」をもって臨み、軍事は「奇」をもって臨む。」&「小賢しい技術者が見慣れない物品を生み出す。民はこれを求めて争い、国家は暗くなる。」「我欲をなくせば民は樸となる。」(樸は過去も頻出。@19、@28、@32など。)
@58:「政治がぼんやりしていると、人民は純朴である。政治が目を光らせていると、人民は不満で争いを起す。」&「聖人は人を傷つけない。心のなかに光はあるが、人の目を奪うきらめきはない。」
@59:「君主にとって、物惜しみする態度を取るのが一番良い。」
@60:「大国を治めるのは、「小魚を煮る」行為になぞらえられる。」
あまり手を出してかき回すと、魚はばらばらになってしまう。
@61:「大国は川の下流で、小国は上流である。川が支流から本流に流れるように、小国は養われるのを、大国は養うのを望む。」「偉大な者はきっと低姿勢であることが大事。」
(この部分、歴史上、現実の大国が小国を自分の利益のために無理やり併合する事実からすると矛盾している。「大きな国が望むのは、あらゆる人をみな養おうということだけであり、小さな国が望むのは他国に従属し奉仕すること、それだけである。」(P138)「老子」の中で、私がもっとも不可解とするくだりである。これは老子の願望なのか?小国であるチベットやウイグルが進んで中国の自治区になったのか?そして中国の政策は彼ら独自の文化を消し去り、漢民族化しようとする苛烈なものではないのか。)(@80参照)
@62:「不善の人も聖人は見捨てない。すべては道の働きに帰す。」(@49)
@63:「行動するな、干渉するな。味なき物を味わえ。」&「怨みに対しては徳をもって向え。」
この辺、「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出せ」というキリスト教の教えを彷彿させる。
&「聖人にも難しいことがあるが、最後には克服する。」
@64:「ものごとの兆しのうちに処理せよ。千里の行も足下から始まる。」(「千里の道も一歩から」という格言の元。)
&「聖人はなにもしないから何ものも損なわず、何物にも固執しないからなにも失わない。」&「聖人は、欲せざることを欲す。得難きの貨を貴ばず。」(@3、@12)
@65:「智による政治の否定。」
@66:「低姿勢でいることの徳。」「争わない聖人と、だれも争うことは出来ない。」
@67:「広大な道は愚かに見える。」&「聖人には3つの宝がある。慈愛、倹約、頭にならないこと」
(頭=ヘッド、組織の長)
@68:「不争の徳。」「うまく人を使う人は、へりくだる。」
「争う」という字の旧字は、「二人の手がなにかの一つの物を取り合おうとしている」象形文字である。この場合、「物」が政治的勝利であっても構わない。「物」の指す事象はたくさんある。
@69:「攻撃の主体にならず、一歩引くことが戦争の要諦である。」「哀しみを持つ軍は必ず勝つ。」
@70:「私の言葉は理解しやすく、実践も容易なのに、する人はいない。(だから)聖人は褐を着て玉を懐く(粗末な衣服を着て、宝物を隠す)。」
@71:「知って知らずとするのは良いことだ、知らずに知っていると言うのは欠点だ。」
@72:「人民が災害を恐れないと、大きな災害がやってくる。」
@73:「大胆にやることを恐れないものは殺され、臆病でいることを恐れないものは生き残る。」&「天の網は粗いが、逃すことはない。(天網恢恢、疎而不失)」(この言葉も有名。「天網恢恢、疎而不漏」がより人口に膾炙しているが)
@74:「死を恐れない民をどうやって脅すのか。」「新奇なことをするものを私が殺しても、大いなる執行者のかわりになぜ無傷で殺せるだろう。(それが出来るのは、神だけだ。)」
@75:「民が飢えるのは、支配者が税を取り過ぎるからだ。」&「生のことを少しも気にかけないものこそ、生を尊いとするものより賢明である。」
@76:「人が生まれるときは柔らかで、死ぬときは硬い。硬いものは死の仲間で柔らかいものは生の仲間である。
@77:「天の道は、有り余るものから奪い、足りないものに与える。でも、実際の人間社会は逆である。」
世界を見渡しても、富裕層にますます財力が付き、貧困層からはますますお金が巻き上げられる。小泉純一郎内閣のころから、日本国民の貧富の差を示すジニ係数が上昇している。
@78:「水ほど柔らかいものはない。でもどんなに硬いものでも、水には敵わない。」(水の徳についても言及が多い・・・@8、@43など)
@79:「深い恨みを持つもの同士を和解させても、恨みは残る。これを和解させるのは、聖人のみである。」&「天の道にえこひいきはない。常に善人に与する。」
国は小さく住民は少ない(としよう)。軍隊に要する道具はあったとしても使わせないようにし、人民に命をだいじにさせ、遠くへ移住することがないようにさせるならば、船や車はあったところで、それに乗るまでもなく、甲や武器があったところで、それらを並べて見せる機会もない。もう一度、人びとが結んだ縄を(契約に)用いる(太古の)世と(同じく)し、かれらの(まずい)食物をうまいと思わせ、(そまつな)衣服を心地よく感じさせ、(せまい)すまいにおちつかせ、(素朴な)習慣(の生活)を楽しくすごすようにさせる。(そうなれば)隣の国はすぐ見えるところにあって、鶏や犬の鳴く声が聞こえるほどであっても、人民は老いて死ぬまで、(他国の人と)たがいに行き来することもないであろう。
このあたりの記述が、どうにも@61と矛盾している。老子は果たして小国に人民が住むのがいいとしているのか、大国に住むのがよいとしているのか、判然としない。(大国と小国の区別が相対的なものなのか。)この一点、私は理解に苦しむ。
@81:「信言は美ならず、美言は信ならず。(以下対句がいくつか)」&「なんでも他人に出し尽くして、自分はますます所有物が増える。」&「聖人の道は、行動して争わないものである。」
(「老子・各章解題」了)
参考過去ログ :老子の七定理
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090610#1244587647
- 作者: 老子,蜂屋邦夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/12/16
- メディア: 文庫
- 購入: 9人 クリック: 71回
- この商品を含むブログ (41件) を見る
- 作者: 小川環樹
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1997/03/01
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 40回
- この商品を含むブログ (44件) を見る
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2013/04/30
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
今日の料理
@ナスの七味炒め
よく投稿してくださるレモンバームさんのサジェスチョンから。ナスのへたを取り、ナスを横に切り分け、幅5,6mmくらいに切りそろえ、オリーブオイルを敷いたフライパンでよく炒め、仕上げに醤油、ポン酢を加え、七味唐辛子をかけます。このレシピは、オリジナルが「カボス」を使うものだったのでしたが、カボスが入手困難だったので、ポン酢に変えた次第。また、元のレシピで使っていたネギをミョウガに変更しました。
(2013.09.07)
@金時草のお浸し
金時草(きんじそう:キク科)は、本来奄美大島あたりが原産で、熊本に渡って「水前寺菜」と呼ばれ、日本有数のグルメの町・金沢で盛んに栽培されています。葉の裏のムラサキ色がサツマイモの金時芋を彷彿させるので、金時草と呼ばれるようになったという次第。お酢を利かせたお浸しで、その優れた食感を発揮します。
参考過去ログ
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20091007#1254919782
:金時草はいかがですか?
(2013.09.07)
今日の短歌
以下に掲載するのは、ブログ友達のumryuyanagi104 さんに誘われて書いた和歌たちです。ほぼ1年前の作品です。それぞれお題付き。
闇 明かりとて 一切なくに 山の闇 足を踏み出す 術もなかりき
(詞書)私は以前山で暮らしていましたが、夜になると明かりさえなく、実際私は川に2回落ちました。
柿 神の火と 誰が呼びにし 柿の実よ 秋に実りて 火のごとく映ゆ
(詞書) 柿は学名で「ディオスピュロス・カキ」=「神の火・柿」と呼ぶことを踏まえて。
月 青い月 光を浴びし 君の顔 死にも等しき 神々しさよ
(詞書)ひと月に2回満月になることがあり、あとのほうを「ブルームーン」と呼ぶそうです。)
嵐 わが母の 荒れる嵐の ものすごく 父も私も 耐えるほかなし
(詞書)私の母は精神病に罹り、私に辛くあたったことがありました。
どうでしょうか?私の短歌は、しっとりしていなくて、むしろドライな感触があるものだと考えています。お粗末さま。 (2012.09.04)