虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

齋藤孝の『30代の論語』:読者はサラリーマンだけか?

齋藤孝の『30代の論語』:読者はサラリーマンだけか?


齋藤孝氏は、私と同じ年に東京大学に入学したひとで、国語論、身体論などで有名になり、現在明治大学教授で、マスコミでの露出度マックスで活躍しています。ただ、私から見ると、粗雑な論理構成の書籍を多数出版していて、評判ほどには優れた学者ではない、と思っています。これまで2本のブログで、彼を批判するものを書いています。


iirei.hatenablog.com

齋藤孝の「天才論」に欠けているもの

iirei.hatenablog.com

齋藤孝の限界・「人はなぜ存在するのか」(書評)


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孔子(wiki):論語は弟子たちによって編纂された


・・・・・・・・・・・・・・・・・

17売ろう、売ろう、私はよい値で私を買う人を待つ者だ(子罕第九 十三)

(↑この数字は、論語から100話を紹介した章立ての通し番号です)


@頼まれた仕事は何でもやる


これは孔子の人柄がよく出ている言葉です。イメージとして孔子は聖人君子の偉い先生で、「箱に大切にしまわれている宝」のようですが、ちょっと違います。もちろん偉い先生なのですが、職の面では大勢の弟子を引き連れて就職先を求めて諸国を放浪しているようなもの。「自分を買ってくれる人がいるなら、どんな仕事だってやりますよ」くらいの勢いで勉強をしていたのです。



@上司を顧客と見立てる


漫画家のしりあがり壽さんは「仕事がこないという状態が怖い」ので、オファーがあれば基本的に引き受けるそうです。「一度断ったら、次はないかもしれない」ところで踏ん張って、仕事を次々とこなすなかで自分の技量を上げ、信用を得つつ人脈を広げて、仕事の質を高めていくサイクルを回していく、その辺がフリーの力の強さでしょう。


 この考え方はビジネスパーソンにも応用できます。たとえばドラッカー流に、上司を自分の仕事を買ってくれる顧客に見立てる。それだけで、ちょっと意識が変わります。それによって上司の求めを敏感に察知して動こうとか、叱られてもクレーマーに対処するように「ごもっともです」と謙虚に受け止めて善後策を講じる、あれもこれもと仕事を頼まれても「売らんかな、売らんかな」と引き受けてこなすなど、動き方まで違ってきます。そこに上司は入り込む余地がありません。

『30代の論語』85P―86P


引用の部分を読んで、私は失笑(嘲笑か?)を禁じ得ませんでした。この文章は、孔子その人をサラリーマンと見なし、その言動を狭い枠のなかに閉じ込めるものであろうと思ったのです。(ビジネスパーソンとは、単にサラリーマンのことでしょう?)孔子が「何でもする」と言った場合、志は高く、一国の宰相(総理大臣)のポストに就き、彼の理想主義を実現するための地位を要求する体のものであったことは、齋藤氏がこの本の巻末で勧めている『弟子』(中島敦)を虚心坦懐に読めば解るハズです。齋藤氏はそれをちゃんと読取ったのでしょうか?孔子は、常識の範囲では語りきれない人物ですよ。(齋藤孝氏は、非凡な人を、常識のワクに閉じ込めるのが好きなようです。非凡な人には、多かれ少なかれ異常な側面もありますが、齋藤氏は、そのような見方はしない、と『天才がどんどん生まれてくる組織』で書いていました。)


サラリーマンに勧めるためか、打ってつけのカリスマ経営学者:ピーター・ドラッカーを話に登場させていますが、この人、たぶん100年後には忘れ去られている人だと思います。かれこれ2500年間、有名人でありつづけた孔子とは、「月とすっぽん」ですね。卑近な人を例に挙げ、偉大な人の片鱗に迫ろう、ということなのでしょうが、その試みは失敗していると思います。


この『30代の論語』は大体、サラリーマンのためのお手軽なマニュアル本であろうと思われ、このような発想の本は巷に溢れていますが、それだけのコンセプトなら、わざわざ立ち読みする、ましてや購入するなど必要ない書籍だと思われるのです。齋藤孝さんは、ノウハウ書やマニュアル本をお得意にしていますが。



今日のひと言:学生の私が安田講堂前のクスノキの下で休憩していた時、「君は東大生か?」と声を掛けてくる初老の男性がいて、「そうです」と答えると「私は東大病院の精神科に入院している者だが、良ければ話を聞いてくれないか?」とのことで彼の話を聞いたのですが、いろいろ面白いことを語ってくれ、中でもマルクス(『資本論』の著者)について「マルクスが人間を“労働者”と規定したことが、堕落の元だ」という言説があり、私はこの命題を頭に叩きこみました。齋藤孝さんの場合は“労働者”を“サラリーマン(ビジネスパーソン)”と言い換えているとも言えますね。齋藤孝さん、あなたの『30代の論語』(海竜社:2013年:本体1200円)は、古めかしい『資本論』と同類であるかも知れませんよ。


追記:『30代の論語』(2013年)と同時に『60代の論語』という本も齋藤孝さんは出版しています。これも一瞥しましたが、サラリーマンの上司として、枯れた味を持つ人になるのを奨励しています。話の筋道としては両者、矛盾していません。ただ齋藤さんが50代半ばでこのような60代に「教える」という本を書いたということ、相当に僭越な気もしますが、当の齋藤さんは「孔子の伝令である」と自己弁護しています。・・・伝令にもなっていないと、私は思います。いろいろな経験を重ねた末、豊かな老境に達した孔子から見れば、いかにも薄っぺらな本ですね。以上で、齋藤孝さん関連のブログは、3部作になったので、打ち止めにします。粗雑な論理にばかり付き合っていると、精緻な文章が読めなくなりますから。



30代の論語

30代の論語

  • 作者:齋藤 孝
  • 発売日: 2013/02/01
  • メディア: 新書
60代の論語

60代の論語

  • 作者:齋藤 孝
  • 発売日: 2013/02/01
  • メディア: 単行本
眠れなくなるほど面白い 図解 論語

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  • 発売日: 2019/02/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
土を喰う日々: わが精進十二ヵ月 (新潮文庫)

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  • 作者:勉, 水上
  • 発売日: 1982/08/27
  • メディア: 文庫




今日の一品


@コゴミのマヨネーズ・アオジソドレッシング和え


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コゴミ


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和え物

なんと、たっぷりの1パック100円で入手。あく抜きせずに食べられる珍しい山菜。茹でてドレッシングで和えました。過去、栽培したことがありますが、それに比べて少々苦いです。収穫から調理までの時間による?


参考過去ログ

iirei.hatenablog.com



@タケノコ2品



@1:タケノコとワカメの煮物コチュジャン風味


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砂糖、塩、醤油を入れた水でタケノコを煮込み、ワカメを入れ、コチュジャン、山椒の葉を投入して少々煮てから火から降ろします。ちょっと塩気が強すぎました。


@2:タケノコの炊き込みご飯


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これは定番でしょう。

 (2020.05.02)



@大根の一夜漬け・ディル風味


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塩を振り、一晩漬ける簡素な漬物。水上勉さんがその好著『土を喰う日々』の中で、夏の漬物の中でも、王道だと言っています。ただ彼を手伝いに来る数人の女子大生は、その言葉を無視し、「高級」な料理ばかり作ろうとする、変わった人たちだと、彼は言っています。

 (2020.05.05)



@ふきグラタン


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弟作。先だっての「ネギグラタン」の姉妹品。そろそろ旬が過ぎつつあるフキ(蕗)を、中空なことからマカロニに見立て、ハインツのホワイトソースで、グラタンにしてみました。前処理済みのフキにソースを絡ませ、少々ネギも加えパルメザンチーズを振り、240度15分オーブントースター。ソースが勝り、フキが従属的になりましたが、料理としては美味しかったです。なお、「五蕗六筍」と言い、5月のフキ、6月のタケノコは、すでに旬を過ぎている、というコトワザがあります。

 (2020.05.07)






今日の詩


@愛しのビール


私はビール断ちしている。
美味しいのだが、
飲んだ後、眠くなるのが常だった。
ところが最近睡眠時間が短く
慢性寝不足だった。


今日は何となく
ビールが飲みたくなり、買ってみた。
飲んだらやはり
眠気が襲い、
昼の2、3時間寝入った。


体がビールを求めたと言えるか。
それは無意識の私が
表面に現れた自分を突き動かしたのか。
ビールはサッポロが御贔屓(ごひいき)。
“サッポロ・黒ラベル”、素敵だ。

 (2020.05.04)





今日の三句


雲雀(ヒバリ)啼く
飛行機雲と
協奏し

 (2020.05.02)



ピラカンサ
葉葉もつぼみも
リニューアル


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新緑とつぼみ。今年も魅せる常緑樹:ピラカンサ

 (2020.05.02)



業平(なりひら)の
見しはこの花
杜若(かきつばた)


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伊勢物語』、「東下り」の段より。この植物の群青の花は驚異的に美しいです。

 (2020.05.03)

チャーチルの行動と名言:処世上有益かな?

チャーチルの行動と名言:処世上有益かな?


サー ウィンストン チャーチルは、ヒトラー率いるナチス・ドイツに勝利を収め、一時の世界平和を演出したことで有名ですが、彼についてもっと知りたくて調べてみました。まずは広辞苑(第6版)より。

チャーチル【Winston Churchill】

イギリスの政治家。初め保守党ついで自由党に入り商相・内相を歴任、第一次大戦時の海相・軍需相、戦後陸相・植民相。のち保守党に復帰して蔵相。金本位制に復帰。第二次大戦には首相として指導力を発揮、連合国の勝利に貢献。戦後再び首相。著「世界の危機」「第二次大戦回顧録」など。ノーベル文学賞。(1874~1965)



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チャーチル(wiki)


より詳しく三省堂「コンサイス外国人名事典」では

Sir Winston Leonard Spencer 1874-1965イギリスの政治家。 1)の長男 1895陸軍士官学校卒業後入隊。‘98インドに出征。’99年「モーニング‐ポスト」紙記者として南ア戦争に従軍。1900年保守党下院議員。保護関税政策に反対して‘04自由党に移り、’06以後商相・内相・殖民相を歴任。‘11海相。第1次世界大戦に際して’15ダーダネルス攻撃に失敗して辞任。戦後の労働党進出、自由党後退に伴い、反社会主義の立場から保守党に復帰。蔵相として‘25金本位制を復活。’29以降野にあって、A.N.チェンバリンの対独宥和政策を批判。第2次世界大戦勃発により、‘39海相、’40首相。強力な統率力で国民を指導、F.ローズヴェルトスターリンとともに勝利を導き、戦時期待政治家としての最大の能力を示した。戦後は国際政治の両極化を感知、反ソの先頭に立つ。‘46フルトンで<鉄のカーテン>演説を行い、欧州統合を提唱。’51首相、‘55イーデンに党首を譲り引退。多面的才能に恵まれ、’53「第2次大戦回顧録」(‘48~54)でノーベル文学賞受賞。風景画家でもあった。著:「ランドルフチャーチル伝」1906、「マールバラ公爵伝」(4巻)’33~38)、「わが半生」‘64。

この解説の所要行数は21行でした。宿敵のヒトラーについても行数を数えると19行でした。拮抗していますが、わずかにチャーチルのほうが多いようです。


この記述から読取れるのは、彼も決して万能の人ではなく、戦争でしくじることも結構あったということ。(wikiによれば、幼少期の彼は、むしろ劣等生だったとあります。ハーロー校では、出来が悪かったので外国語を勉強させてもらえず、もっぱら英語のみを勉強させられた、と。でもそれは英語の表現力を磨くのに役立ち、後年のノーベル文学賞受賞に繋がるとも。)一方で政治家としての眼力には確かなものがあります。ドイツ宥和策は、ナチスを増長させるだけだと反対し、厳しい対ナチス戦を勝ち抜き、一時期の世界平和を現出するわけですね。この功績は彼が軍人出身で、犀利な目で、今起きている事態をリアリスティックに分析できたことも一役買っているのでしょう。


そして冷戦を見越し、欧州諸国の団結を構想する、いわばEUを先取りしていたわけです。(泉下の彼には、現在のいわゆるブレグジットはどう写っているでしょう。)なお、チャーチルは反共産主義の最先鋒でした。ここに、イギリス国民の民度の高さが伺える点は、彼らは、ヒトラーという毒薬に対抗する劇薬として、戦争中はチャーチルを首相として仰ぎましたが、戦争が終結すると、チャーチルを首相の座から引きずり下ろしたということです。日本のように、情に甘える国家、国民には出来ない芸当です。


以下、チャーチルの名言の3つを挙げます。

The greatest lesion in life is to know
That even fools are right sometimes.

人生で最大の授業は、愚か者でさえたまには正しいということを
   知ることだ。


I may drunk,Miss,but in the morning I will be sober,
and you still ugly.

確かに私は酔っている、でも朝になればシラフだ。そして貴女はやっぱりブスだ。


The inherent vice of Capitalism is
the unequal sharing of blessing,

The inherent virtue of socialism is

the equal sharing of miseries.

資本主義の不可避な悪徳は、天の恵みを公平に分け合わないことだ。
社会主義の不可避な美徳は、悲惨さを公平に分け合うことだ。



今日のひと言:ここに挙げた英文は https://meigen.club/winston-churchill/
   (44の名言とエピソードで知るウインストン・チャーチル(英語と和訳))

から引いてきました。日本語訳は、もとのHPの猿真似はせずに、私が訳しました。
ただ、2番目の言は、今なら女性蔑視であるとしてつるし上げられるでしょうね。私が言ったのではなく、チャーチルが言ったのです。癖の強い彼らしい発言の好例なので、挙げた次第です。ご勘弁あれ。


BGM:威風堂々第1番(“イギリス第2の国歌”)

https://youtu.be/4gHCWMKSoZ4





ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書)

ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書)

最終戦争論 (中公文庫BIBLIO20世紀)

最終戦争論 (中公文庫BIBLIO20世紀)





今日の一品


空心菜スプラウトのサラダ


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空心菜アサガオ菜、エンサイ)は以前よく栽培していました。スーパーで、この野菜のスプラウトを見つけたので、購入してサラダにしました。スプラウトは癖がなく、食べやすかったです。なお、アサガオは種に毒があり、同類の空心菜については、種を小まめに外しました。

 (2020.04.25)



コンフリーとネギの味噌炒め


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コンフリーはつぼみの付いた穂を収穫。小口切りのネギを炒め、コンフリーを次に入れ、焦げ付かないように水を入れて炒めた後、バジル酢、水で溶いた味噌を入れ、火を通す。案外コンフリーと味噌は合うようです。

 (2020.04.26)



@鮎甘露煮の白和え


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1年前にも作った料理。美味しい鮎(アユ)甘露煮を2本、豆腐1丁。調味料は、塩昆布(2掴み)、砂糖大匙1、すりごま大匙2、ポン酢10ccに加えて、山椒の芽3本。これはとても美味しい料理です。

 (2020.04.30)



@キンメダイ頭の潮汁


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一つ分、150円で買ったキンメダイの頭を使って潮汁(うしおじる)。水から煮始め、甘塩を投入、身を崩して、アクを取り、山椒の葉、すりショウガ、ネギを投入。美味しくできました。しかし、この時期の山椒の葉は万能ですね。

 (2020.05.01)






今日の六句


軒先に
CD吊るす
ツバメ除け


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 (2020.04.26)



橋の上
色香漂う
夕化粧


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この草は、アカバナユウゲショウ(赤花夕化粧)。アカバナ科の、とても野草とは思えない優美なものです。でも、ほとんどの人はこの花の美しさを認めず、雑草として駆除します。

 (2020.04.27)



冠雪の
山の頂
香ばしき


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インスタントコーヒーの粉末の上にクリープを乗せて電子レンジに掛けた直後。

 (2020.04.28)



アジアには
かつて無き花
ルピーナス


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原産地は、地中海地方、南北アメリカ

 (2020.05.01)



陽を浴びて
何より太る
ジャガイモや


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ジャガイモの光合成効率は、ビーツに次いで全作物中第2位です。効率的にデンプンを作るわけ。

 (2020.05.01)



笑み交わし
教わる花の
クレマチス


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散歩のコースにある家の、変わった花のことを主に聞いて。白花のクレマチスは初めて見ました。

 (2020.05.01)