『近代文学の女たち』(『にごりえ』から『武蔵野夫人』まで)前田愛
ここに書く「前田愛:まえだあい」さんは、男性で、文芸評論家です。1931−1987。(同名の女優がいますね)
「国文学者、近世文学、近代文学の独創的研究で知られる。著者独自の身体論、文化記号論を自在に援用して、小説の構造・作家の意図や仕掛けの妙味を読み解いてゆく。女性心理を鍵に、物語世界の真髄を解き明かす名講義が鮮やかによみがえる。」
(↑本の最初と終わりの作品解説の項から)岩波書店同時代ライブラリーの一冊。
「愛」は本名としては「よしみ」と読むそうです。
Wikiでもう少し詳しく彼についての記述を引用しますと、
1950年神奈川県立湘南高等学校卒業、東京大学文科二類に入るが結核を発病して休学、57年同文学部国文科卒業。52年から駒場の演劇サークル「劇研」に参加し演劇活動に参加。65年東大大学院博士課程単位取得満期退学。60年には結核が再発、肋骨を切る手術を受けた。
1962年横山峰子と結婚、翌年までスタンフォード大学日本学研究センター講師、63年清泉女学院中高等学校日本語教師。66年成蹊大学文学部専任講師。70年立教大学文学部助教授、75年教授。76年「毎日新聞」書評委員。77年「読売新聞」書評委員。78-82年「朝日新聞」書評委員。1977年河合隼雄、中村雄二郎、山口昌男らと共に研究会「都市の会」に参加。81年シカゴ大学客員教授。
元々の専攻は日本近世文学だが、幕末・明治期の文学を扱い、次第に近代日本文学に進出。1976年に『成島柳北』で第8回亀井勝一郎賞受賞。1979年に『樋口一葉の世界』を刊行。小学館で一葉全集編纂に参加。テクスト論、記号論など新しく興った文学理論を次々に研究に取り入れていった。都市小説論の集大成として『都市空間のなかの文学』を著した。没後、筑摩書房より『前田愛著作集』が刊行されている。
さて、この本では6つの小説、6人のヒロインが取り上げられています。1984年1月から3月にかけて、新宿の朝日カルチャーセンターで行った6回の講義の速記に手を入れるかたちで出来上がったということです。話は「にごりえ」(樋口一葉)、「金色夜叉」(尾崎紅葉)、「雁」(森鴎外)、「或る女」(有島武郎)、「痴人の愛」(谷崎潤一郎)、「武蔵野夫人」(大岡昇平)の6作品を取り上げています。
私はこのラインアップのなかでは「痴人の愛」と「武蔵野夫人」は既読でした。この2作品については、話のクライマックスが取り上げられていなかったので、ちょっと食い足りなかったです。「にごりえ」については一葉の読み取りにくさを再確認し、「雁」では森鴎外の男女の愛を綴った小説には不向きであることを思いました。「或る女」については著者の評論技法の醍醐味を感じました。
これら6作品の評論のなかで、もっとも興味深く読めたのが「金色夜叉」です。ここで言う「金色」というのは「金」(お金)と「色」(性欲)に分解されるのですね。(夜叉とは妖怪・化け物)有名な熱海の海岸でのお宮・貫一の別れの場面、許婚の貫一より、変化を求めて金持ちを選んだお宮、それに復讐するために高利貸しの道を選んだ一高生の貫一。このような展開になった背景として、日清戦争の賠償金により、日本が潤い、にわか成金が続出した世相も反映したようです。まあ、尾崎紅葉は得てして弟子の泉鏡花が持て囃される傾向が強いですが、紅葉をもっと見直してもいいかな、と思いました。
今日のひと言:私も読んだ作品では「武蔵野夫人」が良かったですね。「人妻が、多摩川の河岸段丘の崖地:「ハケ」というところから湧き出す湧水を見て、従兄弟の復員兵に恋愛感情が湧いてくる」という神秘的で、結末は悲しいお話。私はこの「ハケ」を身近に見られるところに住んでいたことがありましたので、物語世界に没入出来たとも言えます。
このブログは、過去ログで挙げた文献が面白そうなので、図書館から借りて読み、ブログ1篇に仕立てました。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20170605#1496647152
: 興味深い言葉たち:いくつかを開陳!(夫人は女なのに何故おっと)
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今日の一品
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(2018.06.18)
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弟作。これまで作ったことのないチャーシューですが,冷凍庫の奥深くにあったタコ糸で縛った豚肉を使ってみました。豚煮込み用に通常は凍らせている秘伝のタレにいれて、保温調理鍋(内鍋)で煮たってから90分、あとは鍋を保温するため外鍋にセットして冷めるまで。タコ糸を外し、カット。ラーメンにも使えそう?
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今日の二句
素早くも
ケシ田変じて
水田に
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(2018.06.21)
マツバギク
一点紅の
君はだれ?
ピンクのマツバギクの中に咲いた深紅の花。さて、これは何の花?
(2018.06.23)