武者小路実篤の「愛と死」:一つの残酷な悲恋物語
「人生に恋が与えられていることは個人にとって幸福なことか不幸なことか知らない。」(11節冒頭の文)こう書く男がこの小説の主人公、村岡。彼の小説家仲間に野々村という人がいて、野々村を尊敬して通ううちに野々村の妹・夏子と出合い、彼女と相思相愛になるまでには、さほど時間が掛かりませんでした。この子は快活=お転婆で(宙返りもする)、すべてにおいて村岡と相応じるものがあり、二人は結婚の約束を交わします。村岡:「僕は世界一幸せだ」夏子:「あなたは二番目、一番は私」と、のろける場面が面白いです。
そこですぐさま結婚していれば良かったのですが、あいにく村岡には、ヨーロッパの芸術事情を調べるという大仕事が舞い込み、不本意であったけども、出かける村岡でした。その海外出張の間、村岡と夏子はお互いに熱の籠もった手紙をやり取りします。離れていても、お互いの「距離」は狭まったのです。
さあ、村岡が滞在先のパリを離れ、船便で帰国の途に就いたとき、これは物理的な距離もだんだん小さくなっていきますが、手紙のやり取りは続きます。香港にまできたとき、村岡は一通の電報を貰います・・・それは、最愛の夏子がインフルエンザ(スペイン風邪)に罹り、急死したという野々村からの情報でした。
これまで築いてきた愛が、こうも簡単に消え去るのか、と村岡は嘆き、泣きます。とくに恋するときに人の体内に分泌されるホルモン、これが行き場がなくなって、人は嫌が上にも悲嘆にくれるのでしょう。題名は忘れましたが、むかしのドラマ・・・妊娠したことを夫(唐沢寿明)に告げたくて、喜び勇んで、車道に飛び出してしまい轢死した妻(つみきみほ)、悲嘆にくれる夫を慰めようとする夫の部下(江角マキ子)。・・・を思い出します。
この恋の痛手から21年経ったけれども、夏子を忘れられない、という主人公。彼の中では、この事件は一生脳裏から消えないものになっていたのですね。
なお、この中篇小説、地の文は「主人公本人」が語るという形になっていて、一種の「一人称小説」であるように思えます。それにしては饒舌な一人称小説ですが。今回読んだのは「友情・愛と死」(角川文庫)です。
それにしても、武者小路実篤(むしゃのこうじ・さねあつ)という人は面白い。(wikiより)
武者小路 実篤(むしゃのこうじ さねあつ、1885年(明治18年)5月12日 - 1976年(昭和51年)4月9日)は、日本の小説家・詩人・劇作家・画家。貴族院勅選議員。
(中略)
学習院初等科、同中等学科、同高等学科を経て、1906年(明治39年)に東京帝国大学哲学科社会学専修に入学。1907年(明治40年)、学習院の時代から同級生だった志賀直哉や木下利玄らと「十四日会」を組織する。同年、東大を中退。1908年(明治41年)、回覧雑誌『望野』を創刊。1910年(明治43年)には志賀直哉、有島武郎、有島生馬らと文学雑誌『白樺』を創刊。彼らはこれに因んで白樺派と呼ばれた。実篤はトルストイに傾倒したが、その彼はまた白樺派の思想的な支柱だった。1916年(大正5年)には、柳宗悦や志賀直哉が移り住んでいた現在の千葉県我孫子市に移住した。
理想的な調和社会、階級闘争の無い世界という理想郷の実現を目指して、1918年(大正7年)に宮崎県児湯郡木城村に「新しき村」を建設した。しかし同村はダム建設により大半が水没することになったため、1939年(昭和14年)には埼玉県入間郡毛呂山町に新たに「新しき村」を建設した。但し実篤は1924年(大正13年)に離村し、村に居住せずに会費のみを納める村外会員となったため、実際に村民だったのはわずか6年である。
この人の場合、カボチャやナスなどを並べて描き、「仲良きことは美しきかな」と讃を入れた絵は、見た人もあるかも知れません。おっとりしていて、観るほうものんびりほんわかしてきます。
今日のひと言:武者小路実篤の場合、「青空文庫」に入った作品はありません。何故かと言うに、彼は亡くなった年が1976年で、没後50年という規定に外れるからです。もし現行の制度が続けば、2026年になってやっと収録できると言うわけです。

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今日の一品
@タラコスパ・茗荷乗せ
普段のタラコスパゲッティに折から庭で収穫したミョウガをトッピングしました。美味しかったです。和風スパには日本のハーブが合うようです。
(2017.09.03)
@厚揚げ焼き
「厚揚げを焼いてショウガ醤油で食べると美味しい」とid:kotonikoさんに聞き、切り分けた厚揚げに切目を入れてオレガノの葉を挟み、オーブントースターで180度、7分焼いて、ショウガ醤油につけて食べました。2つのハーブの協奏曲が美味しい。
(2017.09.04)
@ブリの照り焼き
弟作。砂糖醤油に2時間ほど漬け込み、オーブントースターで180度、12分焼き、仕上げに粉山椒を振りました。
(2017.09.05)
@豚モツの野菜炒め
市販の調理済みモツをニラ、キャベツと炒めました。モツが柔らかく、食べやすかったです。
(2017.09.07)
今日の三句
川辺にて
笑う深紅の
曼珠沙華
(2017.09.04)
ホウキグサ
茎から先に
紅葉し
周りは鶏頭の花。
(2017.09.07)
白と黒
猫の二頭が
寛げり
某所のフォークリフトのパレットの上。
(2017.09.08)