「かぐや姫の物語」:姫と翁(おきな)の相克
→映画のポスター
遅ればせながら、2015年にレンタルで借りることが可能になった、スタジオ・ジブリの高畑勲さんの監督作品「かぐや姫の物語」を視聴してみました。おなじみの冒頭・いつものように、讃岐の造:さぬきのみやつこ(竹取りの翁)が藪のなかで作業をしていたとき、光る竹を見つけ、その手前で、どんどんのびるタケノコを手にすると、盛装した小人の姫を発見します。
これは、天からの授かりものだと、持って帰り、妻の竹取の媼(オウナ)とともに、大事に育てます。姫は成長が速い特異体質でしたが、それは所与のものとして、この年老いた夫婦は姫に接します。それは、近所の悪ガキたちも同じで、姫を「タケノコ、タケノコ!」と呼び、それでも苛めずに、仲良く遊んでいます。姫は、地上の美しいものに囲まれて成長していくのです。(もっとも、月世界にいたころ、地上にあこがれた姫は、そのために罪があるとされ、地上追放という罰が科せられたというのが真相でした。)
中でも、その悪ガキたちの最年長株の「捨丸」とは、お互い淡い恋愛感情をもっていたようで、これは物語の後半で活きてきます。
さて、翁が竹薮に行くたび、金塊やら、高貴な衣装やらを光輝く竹の中から発見し、悟るところがありました。「これは、天からの贈物であり、天は姫をこの田舎で生を終える存在ではなく、宮中に上がって、高貴な殿方の妻になるのを望んでいる」と。そこで翁は都に大きな屋敷を構え、姫とオウナとともに移住し、姫には英才教育を施します。
教育係に据えた相模という女性からみると、姫はやんちゃで「教え甲斐のある生徒」でした。もっとも、遊び半分で授業を受ける態度を取りましたが、飲み込みは速く、宮中で生活を営むには充分でした。もっとも、姫本人は宮中生活にはうんざりだ、という姿勢を崩しません。
美しいかぐや姫の存在に我を忘れた貴公子5人が求婚しますが、彼らが姫の美しさを手に入れがたいグッズに喩えるのですが、姫は「それを持ってきてください」と返し、3年が経ちましたが、全員アウトで。ただ、一人は、蓮華の花を持ってきて、この一輪の花が持つ美しさは、財宝を超えるもの、と力説したのには姫も心を動かされ、一筋の涙を流します。でもこの男性とも結ばれるに至らず、でした。
そうこうしているうちに、時のミカドがかぐや姫について聞きつけ、半ば強引に姫を連れ帰ろうとします。彼はアントニオ猪木さんのように異常に顎の長い異相をしたミカドでした。姫は拒絶します。さすがに、今回は諦めて帰ろう、というミカドでしたが、姫には、地上を忌み嫌う心が芽ばえてきます。この心を察知した彼女の故郷・月の世界の朝廷から、お迎えの連絡が届くのです。罪と罰の期間は終わったのです。そのお迎えの日は8月15日の十五夜。
この事実をうちあけられた翁・媼は、それぞれ別の対応をします。翁は屋敷の警備を増強して武力で月世界のお迎えたちを迎撃しようとします。オウナは姫を昔なじみの田舎の旧宅につれていくのですが、ここで姫は捨丸に再会します。すでに所帯持ちだった彼も、姫に再会できて、感動し、「二人で空を飛びます」。ここで、姫は「地上こそ美しい」との確信を得るのです。
特異な妙なる音曲を奏で、雲に乗ってやってきた月のお迎えにたいしては、翁の軍備はなんの役にも立たず、放った矢が花になる始末。雲に乗った姫が羽衣を着て、地上のことを全て忘れる前に、同じく雲の端っこに乗せてもらった翁・オウナは、最後の別れを惜しむのでした。
さて、このブログのタイトルは、「姫と翁の相克」でしたが、翁は「姫の幸せは、地位の高い身分になることにある」として、この考え方に固執しました。そのベクトルは、さらにはミカドの権威をも超える月世界の朝廷に姫が迎えられるという事態も、受け入れなければならない体のものでした。
一方、姫は月世界で、「地上に憧れた罰」としてこの地上に流されてきたのです。だから彼女が捨丸と恋愛関係になってもそれは姫の望むところだったのでしょう。翁は、姫の心を読み間違えていたのでしょう。地上をこそ望む姫の心が。むしろ、そんな姫の心に近づけたのは、翁ではなく媼だったのです。
今日のひと言:昔読んだ、仙人に関する本(名前は失念)で、それまで過酷な修行をしていた仙人候補、最終試験として「皿に超大盛に盛られたウンコ」を食べてみろ、と言われ、拒絶したのですが、仙人は「残念、これが食えたら‘天仙’になれたのに、まあ、お前は‘地仙’くらいにはなれるだろうが」・・・私は天仙が必ずしもベストな存在だとは思いません。地仙のように、地上の美しさを忘れずに生きていける存在も、良いものかな、と思うのです。かぐや姫もそうであろうと試みたように。
また、2015年のアカデミー賞を、この作品は逃しましたが、それは、画面に余白の多い映像が、アメリカ人にはいまひとつ受け入れられなかったからかも知れません。なんと言っても、水墨画を見て「この絵を描いた画家は、絵の具が手に入らなかったのか」と真顔で訊く人もいる欧米文化ですもの。画面を絵の具で塗り尽くさなければ気が済まないのです。

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今日の料理
@レンコンと人参のキンピラ
蓮根は縦に切り、穴をなくして、細切りにした人参とあわせて、ゴマ油で炒め、トウキビ糖、ヤマサの昆布だし、醤油を加え、イリゴマを最後に入れました。
(2015.04.13)
@ナッツ乗せ盛りそば
「元祖乱れづくり・木曽御岳そば」は、私がもっとも好きな乾麺の蕎麦ですが、今回は刻みのりだけでなく、ナッツもトッピングして食べました。なかなか美味しい。昼ごはん。
(2015.04.14)
@五蕗六筍(ごふき・ろくたけのこ:ごろ・ろくしゅん)
春の味覚の代表選手である蕗と筍。蕗は4月中のものの味が最上で、筍は5月中のものが最上である譬えです。筍は市販のものを04.16日、庭の蕗を04.17日に料理しました。
筍の煮物には、昆布などのカルシウム源を入れました。シュウ酸のマスキングのため。
(2014.04.17)
今日の一句
緋色たる
名ぞふさわしき
罌粟の花
ここでいう罌粟(けし)は、麻薬を採る種類ではなく、ヒナゲシです。この花の緋色=深い赤は、極めて美しいのです。この句は、罌粟が咲いているさまを思い出しながら捻りました。
(2015.04.13)