プーチン最後の聖戦(北野幸伯):書評
アングロ・サクソン民族とスラブ民族は、昔からライバル関係にありました。たとえば、19世紀・いわゆる中央アジアを巡って、アングロ・サクソンのイギリスとスラブのロシアは激しく敵対していました。この状況のことを「The Great Game」と呼び慣らされています。イギリス自体は弱体化したので、現在はアメリカがロシアと争っています。
国際関係アナリスト・北野幸伯(きたの・よしのり)さんについては:
メルマガ「ロシア政治経済ジャーナル」主宰者。1970年長野県生まれ、松本深志高校卒業後、ロシア(当時ソ連)に渡る。モスクワ国際関係大学を卒業し、某共和国の政治のオブザーバーも経験する。またエリツィン大統領の治世下、2600%ものインフレも体験。
以上のように、さまざまな体験を持つ彼のメルマガは、世界各国の思惑がよく読み取れるようになっている。
(はてなキーワードより)
そして、この本、北野氏の出版した本の5冊目(出版元は集英社)というところですが、ロシア大統領・プーチンに焦点を当てて書かれています。フルネーム:ウラジミール・ウラジーミロヴィッチ・プーチンです。彼は大きくなったら「スパイ」になりたいと言っていた変わった傾向の男でした。願いどおりKGBに奉職し、エリツィン政権下ではFSB長官(旧・KGBの後身)になっていました。
ところでエリツィンは経済音痴で、2600倍のインフレを招くは、新興ユダヤ財閥6名に経済を握られ、ロシアはどん底でした。ユダヤ系だということは、天然ガスや石油をアメリカに廉価で売りさばくことになるでしょう。ロシアの国益にはなりません。
それらユダヤ資本の親玉はベレゾフスキーで、メディアを支配し、石油大手・シブネフチも支配していました。彼はエリツィンとも癒着し、我が世の春を謳歌していました。プーチンも始めのうちはベレゾフスキーに忠誠を誓うかのような行動を取ります。「ベレゾフスキーになりたい」といったような。
プーチンは、ベレゾフスキーの強い引きで大統領になると同時に豹変し、ベレゾフスキーを追放します。また、他のユダヤ系財閥についても、亡命・逮捕などの措置を取ることによって、壊滅させます。ガスプロム、ユコスなどのエネルギー産業をユダヤ人から取り上げました。これで、ロシアの資源は、ロシアのために使うことができるようになったのです。つまりは、ロシア国民の懐が潤うということですね。KGBのスパイ、なかなかの腹芸ですね。
ロシアのこの動きに対し、アメリカは復讐をしようとします。それは元ソ連の国々に革命を起すこと。グルジアの「バラ革命:2003」、ウクライナの「オレンジ革命:2004」、キルギスの「チューリップ革命:2005」など。これらの革命の裏にはアメリカがいます。
アメリカの手法はこうです。
@親米的なNGO、NPOなどに資金をばらまく
@選挙に不正があったとNGOなどが発表する
@そしてデモが起これば、これを鎮圧した独裁者に辞任要求する
@辞任した独裁者に代わり、親米派の大統領が政権につく
これらのアメリカの活動は、いわゆる民主的な選挙手法を道具に使い、ターゲットの国を思いどおりにする常套手段なのです。美辞麗句に隠れてエグイことをする、これがアメリカの手法です。(非アメリカ的な国から見ると、なるほどな脅威なんですね。)これに対してプーチンは、「NGO規制法」(2006年)を制定し、このメカニズムを無効化しました。
これらアメリカの揺さぶりに対して、プーチンロシアも黙っていません。プーチンから見て、アメリカのアキレス腱は、基軸通貨・ドルです。ドルが基軸通貨でいられるから、必要とあれば刷りましすれば、財政赤字になっても貿易赤字になっても、決済できるから、アメリカは没落しませんでした。2002年のイラク戦争の目的の一つは、サダム・フセインが基軸通貨をユーロに替えると宣言したことが開戦の理由の一つです。(元FRB議長・グリーン・スパン氏は「石油」が目的だったとも言っているようです。これがもう一つの理由)
でも、中国やロシアが「自国通貨を基軸通貨にする」と言っても、この両者は大国であるだけに、アメリカも手出しができないのです。そして2008年秋のリーマン・ショックでアメリカの没落は誰の目にも明らかになりました。それでも、アメリカは「イランとの戦争を画策している」と北野さんは言います。イラク戦争と同じように、開戦の口実さえ見つかればいいのですから。そしてイランの石油を確保する・・・アメリカは戦争し続けないと保たない国であると。
なお、これまでの覇権国家であった(NO.1)アメリカと、これからの覇権国家である(NO.2)中国のような関係の場合、完全決着が付くまで争いを止めないという事実が語られています。米中戦争も起きるか?(起きればロシアは当然中国の陣営にまわる)
戦場は日本になる可能性も高いでしょうね。もっとも、戦争自体は起きずに、通貨の争いが続くかも知れません。
この本の最後に、これからプーチンが成し遂げようとしていることが6項目に渡って記載されています。本を読んでみれば納得の推察です。この本、一読の価値があると思います。作家の立花隆さんも絶賛しているそうです。(北野さんの言による)
プーチンというたった一人の特異なキャラクターがいかにロシア、世界に影響を与えてきたか、スゴイものを感じます。もちろん、ユダヤ新興財閥の追放には、KGBの先輩・プリマコフ も一枚噛んでいました。このことを考え合わせても、この男の業績は偉大です。彼はロシアの国益を第一に考えているわけで、アメリカ大統領がアメリカの国益を第一に考えるのと、同じ次元の話なのですね。
なお、覇権争いに敗れたアメリカは、5,6年は低迷しても、安いドルで輸出を増やし、「オイルシェール」という新燃料が国内に莫大にあることから(世界最大量)、資源大国として蘇る・・・という仰天の予測をしています。
今日の一言: それにしても、民族同志の反目は、世紀を超えて持続するものなのですね。これがこの本を読んだ私の感想のひとつです。
私は以前、ブログで北野さんの過去の本を取り上げています。
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20081018
:ロシア政治経済ジャーナル(by北野幸伯)はよく的中する。それはどうして?

プーチン 最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?
- 作者: 北野幸伯
- 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
- 発売日: 2012/04/05
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 1人 クリック: 72回
- この商品を含むブログ (21件) を見る

- 作者: 北野幸伯
- 出版社/メーカー: 風雲舎
- 発売日: 2005/01
- メディア: 単行本
- クリック: 10回
- この商品を含むブログ (16件) を見る

- 作者: 北野幸伯
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2008/09/04
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 14回
- この商品を含むブログ (18件) を見る
青と金
色を競うや
つゆ・いなほ
そろそろ稲穂が目につく季節になってきましたが、この時期でも青く咲くツユクサとの色の兼ね合いが面白かったので、一句詠みました。
(2012.08.23)
以下二句は、8月25−8月26日に資格試験を受けに前橋へ行っていたときに詠んだ句です。
前橋の
いとも淋しき
夜景なり
前橋市は群馬県の県庁所在地なのに、百貨店は閉店するは、駅前に食堂もないほど寂びれています。ライバルの高崎市は元気満満なのに。 (2012.08.25)
寒すぎて
上着着るなり
講義室
試験中、あまりに冷房が効きすぎているため、風邪を引かないようもう一枚羽織りました。この寒さに涼を感じる人が私には信じられません。我が家はここ数年、エアコンなしで済ましていますから・・・ (2012.08.26)