虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

グーテンベルクとルター:破壊的技術

ここに、時事問題を極めて鋭く分析するブログがあります。ひとつ引用すると

ひとつの市場を「蒸発」させてしまうほどの技術革新を「破壊的技術」と呼ぶことがあります。

破壊的技術(はかいてきぎじゅつ、英: disruptive technology)とは、従来の価値基準のもとではむしろ性能を低下させるが、新しい価値基準の下では従来製品よりも優れた特長を持つ新技術のことである。また、破壊的技術がもたらす変化を破壊的イノベーションという。1995年に、クレイトン・M・クリステンセンがJoseph Bowerとの共著論文にて考案した。

http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20111107/1320635083 :(木走日記

アマゾンのキンドルは出版業界に破壊的イノベーションをもたらす尖兵)より


このブログの中で、デジタル・カメラが普及したのに、従来のフィルムにこだわり、会社自体が存亡の危機に立たされた企業として、コダック社があげられています。電子情報で写真が保存、印刷されると、従来のフィルム式のカメラの市場が「蒸発」してしまうわけです。


 現代のように、「紙」に替わる情報媒体が普通になった今、思い返してみると、「紙=活版印刷」も中世における「破壊的技術」であったことがわかります。


 中世ヨーロッパでは、今で言う紙ではなく「羊皮紙」という動物由来の「紙」を使っていましたから、写経をするのも手書きで非能率的でした。中国の蔡倫(さいりん)が西暦105年に紙を発明して、751年のタラスの戦いで中国・唐の捕虜になった紙漉き職人がサラセン帝国に渡り紙の技術を伝え、長い年月を経て1189年、フランスに伝来します。

http://www7.wind.ne.jp/hiraide/basic/history3.html


 そして、ここに中世の「破壊的技術」を行う人物が登場します。ヨハネス・グーテンベルク(1398?−1468)です。活版印刷の技術を開発した彼は1455年、旧・新約聖書を印刷します。当時の人たちは、手書きで写経するのでは、こんなに早く多量に聖書が作れるわけがない、悪魔の仕業だと考えました。(当時、聖書は一文字一文字手書きで書きうつされるものでした。)また、グーテンベルク自身、共同経営者に裏切られ、苦い思いをしますが、印刷=製本の事業は続けます。


 そして、聖書がだれにでも比較的安価で入手できる状況になったとき、宗教改革の機運が高まり、マルティン・ルター(1483−1546)がその声をあげます。(彼が生まれた際には、すでにグーテンベルクの聖書は出回っていました。)中学校の年号語呂合わせで「一語否(1・5・1・7)ルターは叫ぶ、改革を」というのを学んだ人も多いのではないでしょうか。


 以上見てきたように、「紙=活版印刷」は現代のIT革命とよく似ていてパラレルなのですね。もしかしたら、IT革命よりドラスティック(急激な)か同等な「破壊的技術」なのかも知れません。現在の、インターネット上のツイッターフェイスブックなども、アラブの若者を動かし「ジャスミン革命」を演出しました。宗教改革の場合も状況はよく似ています。カトリック教会のような専門職の神職者を必要とせず、各自聖書と向き合えるようになったのですから。多量に印刷=製本できる活版印刷のたまものです。


その後の歴史において、危機感を抱いたカトリック教会派が世界にキリスト教を布教しようとしたのも、プロテスタントとの確執からですし、プロテスタント側も世界進出を目指し、実際世界の大半はヨーロッパ色に染められたわけです。


今日のひと言:技術というものは地味だけど、世の進化には欠かせぬ肥料のようなものです。



今日の詩

コンクリートの地べたで這う
紋のある植物。


雑草ではないようで、
栽培作物と見て
サカタのタネ」の
カタログを見ていたら、


名前が知れた――
ポリゴナム・ビクトリーカーペット」。
タデ科


こんなに草勢が強いと、
庭に植えたら


絨毯(じゅうたん)のように
繁茂して、地を覆い、ほかの
植物を駆逐するだろうな。


それで、勝利のカーペットか。



 (2012.09.05)


グーテンベルクの時代―印刷術が変えた世界

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天涯の戦旗 タラス河畔の戦い

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