虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

苦くて美味しい酒・・・ハーブ・リキュール


アメール・ピコン→


 あなたは、「苦くて美味しい」酒はなにかと問われれば、ビール麦酒)と答えるかもしれません。ビールは、古代エジプト文明の「パン作り」と発祥の時期が同じで、由緒あるお酒です。現在のようにホップ西洋カラハナソウ)が添加物に決まるまでは、ヨモギとかなにかを試して味の良さを追求していたというわけ。

 ホップは、数百種類の化学物質を含み、たった一種でビールに複雑な風味を添えます。これはベスト・カップルですね。

 でも、ビール以外にも「苦くて美味しい」酒があります。3つほど例を挙げましょう。


1)アメール・ピコン・・・フランスの軍人ピコン氏が、アフリカにいた1837年、にがい味の薬用植物「ゲンチアナ(ほぼリンドウのような植物)」に興味を持ち、ほかの数種の薬草と配合して試作したところ、その酒の美味さに兵士が感動し、仮病を使ってこの酒を飲む者が続出したという逸話があります。戦後、ピコン氏は市販して、今に至っているとのこと。苦さの程度はマイルドで、飲みやすく、女性にも受け入れられやすそうです。初級者向き。ビールとのカクテルも美味しいそうです。「アメール」とはフランス語で「苦い」という意味。


2)イエガー・マイスター・・・ドイツの酒。50種類ほどのハーブが配合されていて、これはかなり苦いです。これにもゲンチアナが配合されています。中級者向きです。1935年より市販されました。アメリカで人気があるとのこと。漬け込み材料は「アニスフェンネルカモミールラベンダーリコリスミントゲンチアナシナモンマテ茶サフラン没薬キャロブ」などであるらしい。


3)ウニクム・・・ハンガリーの国民酒。製作者のツヴァックというひとが国王に献上したところ「ユニーク」(ウニクムと同一語源)だと評された酒です。これが名前の由来。46種の成分の内訳はわかりませんが、当然ゲンチアナも配合されていると思います。この酒はものすごく苦く、苦い酒の代表選手です。この酒は上級者向きでしょう。創業は1790年、とても由緒ある酒なのです。

ここに挙げた4つのお酒を苦い順に並べますと

ウニクム>イエガー・マイスター>アメール・ピコン>ビール

となるでしょうか。

 ビールは醸造酒ですが、あとの3つは「リキュール」に分類されます。これは主として「スピリッツなどの蒸留酒に、ハーブ(薬草)、果物、動物などを漬け込み熟成させた酒」のことです。なかでも、今回挙げた3種は薬草系リキュールです。(どれも、私は飲んだことがあります。)まあ、薬草系リキュールハーブ・リキュールと言って差し支えないでしょう。


 中国の陰陽五行論では、味も5つに分類し、「苦さ」を夏、火の味としています。物が苦いのは、アルカロイドを含む場合が多いからで、動物はこの味に警戒するそうです。ちなみに酸っぱい味は「腐敗」を意味する・・・そうすれば、「酸っぱい」のと同様、「苦い」味を賞味できるのは、我々人類だけだということになりますね。ひねくれた動物ですね、人類というのは。


 なお、「恋の味は、どんな味?」と問われれば、私は「恋の味は甘くなく、むしろ苦い」と答えます。


今日のひと言:私は以前、体が「苦いもの」を強烈に欲し、薬局から「センブリ:これもリンドウ科の植物」を購入して、ものすごく苦い煎じ汁を作りそれを飲み、一息ついたことがあります。美味しい一杯でした。
このように、体が苦いものを欲するとき、ウニクムなどが手元にあれば渡りに船ですね。


参考文献:リキュールブック(福西英三柴田書店;本体3000円)

過去ログ:http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070228    
酒2題――ミードとシャルトリューズ・その悦楽