虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

在原業平(ありわらのなりひら)の傑作叙景詩とそれを駄作だとする俵万智(たわらまち)


在原業平の傑作叙景詩とそれを駄作だとする俵万智


伊勢物語についての一話


伊勢物語第87段に、極めて美しい叙景詩が登場します。それは



ぬきみだる
人こそあるらし
白玉の
まなくも散るか
袖のせばきに


これは、今の兵庫県にある名瀑(有名な滝:布引の滝)を何人かで訪れた際、業平が詠んだ歌です。滝の上に人がいて、宝石をつなげたネックレスの紐を切り離し、つながれていた宝石が落ちかかってくる、でもそれらを受け取るには、私の袖は狭すぎて、宝石はむなしく流れ去ってしまう、ということです。



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なんとも見事な風景描写!日本の生んだ詩人たちの幾多の詩と比べても、最高の部類になるであろう詩です。この詩が生まれる前段として、業平の兄、行平が先だって詠んだ以下の歌があります。


わが世をば
今日か明日かと
待つかひの
涙の滝と
いずれ高けむ


これはいけません。自分の官位の上昇が期待できずに、それを怨んで興ざめするような歌です。一座は白けました。そこでさっそく業平が極めて美しい叙景詩を詠み、今度は一座ともども満足した、いった具合のエピソードです。


ところで、歌集『サラダ記念日』で名を挙げた俵万智さん(私の2学年下、元高校教師)の本を読んでいたら、「ええ~!?」という記述が目に飛び込んできました。彼女は、この業平の名歌を、駄作だと断じていたのです。俵さんのプロフィールは、wikiより


大阪府北河内郡門真町(現門真市)生まれ、同四條畷市福井県武生市(現・越前市)育ち。福井県立藤島高等学校に入学し、演劇部に所属した。指定校推薦で早稲田大学第一文学部に入学、日本文学専修に進級した。在学中に心の花を主宰している佐佐木幸綱に師事し短歌の世界に入った。なお、大学時代は「アナウンス研究会」に入っていた(フジテレビアナウンサーの軽部真一は同研究会の同期)。


1985年(昭和60年)に大学を卒業すると、神奈川県立橋本高等学校の国語教員として働きながら発表した『野球ゲーム』で第31回角川短歌賞次席。受賞は米川千嘉子に譲るも、その奔放で斬新な表現が歌壇の話題をさらった。翌年、『八月の朝』で第32回角川短歌賞を受賞。同年の次席は穂村弘であった。1987年(昭和62年)発行の第一歌集『サラダ記念日』は歌集としては異例の大ベストセラーとなって社会現象を引き起こし、ライトヴァースの旗手として口語短歌の裾野を一気に広げた。日常会話で使われるカタカナを巧みに使い、親しみやすい歌風は多くの人々の心を掴んだ。


・・・華々しい経歴ですが、私には彼女による「ぬきみだる・・・」に関する酷評は解せません。一つ思うに彼女の出世作『サラダ記念日』は、間違いなく「恋愛歌」集かと思われます。古い言い方をすれば「相聞歌:そうもんか」であり、この分野について、現代的な発想、技術の熟達があると認めざるをえないでしょう。


では、「羈旅(きりょ)の歌」=「旅の歌」についてはどうでしょう。古来、私は女性歌人にはこの分野の歌には「傑作がない」と思います。そのような歌を詠んだ女性歌人も、思い当たりません。男性なら、柿本人麻呂山部赤人大伴旅人などの名がすらすらと思いだせます。もちろん、当の在原業平も。(もっとも、人麻呂と業平は優れた相聞歌歌人でもあります。)なお、相聞歌で有名な女性歌人としては、額田王小野小町和泉式部、則子内親王などが挙げられますが、情熱的な愛を語っても、ダイナミックな叙景歌を見た記憶がありません。



今日のひと言:なにを言いたいか、というと、「俵万智さん、あなたには“ぬきみだる・・・”について云々するような知見も経験も実力もありませんよ」ということです。和歌は、恋愛歌(相聞歌)だけでは、語り得ません。当然のことです。



参考過去ログ (伊勢物語について)


iirei.hatenablog.com

iirei.hatenablog.com


今日の詩


@日本酒カクテル


カクテルとは、飲む直前に、2種以上の酒を
マリアージュ(結婚:混合)させたもの。
日本酒は、単味で飲むことが多い酒だが
色々なリキュールとマリアージュさせて見た。


その一つが、ミント味のリキュール
GET27だ。かなり人工的な緑の酒。
まあ、見栄えは良いな。
強いミントの香りが日本酒の香りと合う。


ベースの日本酒は、澤乃井奥多摩の地酒)だ。
いろいろなリキュールを抱擁し
洒落た味にする。
とくに麦門冬酒(ばくもんどうしゅ)が合っていた。


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 (2021.09.25)





今日の4句


秋深し
草木を枯らす
殺気かな


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殺気=冬の鎌。草や木を刈り取る死に神

 (2021.09.25)



カラスウリ
巻き付く者なく
咲くらしい


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 (2021,09,26)



照り殺し
草を敷きたる
道路かな


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この処置、もっと早く、種がつく前やるべきだった。

 (2021.09.26)



黄緑の
星が輝く
菊の株


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 (2021,09,26)






今日の写真



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秋の草草 オナモミマルバルコウ (2021,09,26)







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“Diamond cut Diamond--Ultra-Vival”


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