「狂」の時代・・・一枚の写真(天皇とマッカーサー)
嘉永6年(1853年)、アメリカのペリーが指揮する4隻の「黒船」が浦賀沖に出現してから、それまで「太平の眠り」を謳歌していた日本は、混乱の時代になだれ込みました。
ペリーのやり方は、いかにも乱暴に、女性である日本を陵辱するようなものでした。圧倒的な戦力の差を見せ付けられた江戸幕府は、次の年の不平等条約を締結せざるを得ませんでした。
これを受けて、日本国内にも不穏な空気が流れます。吉田松陰が「黒船」に乗せて欲しいと頼んで拒否され、幕府からは罪人とされ、長州の野山獄につながれたあと、私塾「松下村塾」を運営していた際、彼一流のロジックを持って、「尊王攘夷」という言葉を編み出します。当時の日本で求心力がもっともあったのは、言わずともしれる「天皇」でした。幕府では足りない。それで「尊王」、また、欧米諸国から「戦うに足る思想・技術」だけを吸収し、その力を持って「攘夷」とする・・・これは松陰の弟子の高杉晋作が実践したことです。刀で欧米人を斬る、という次元ではないということです。
「おもしろき ことも なき世をおもしろく すみなすものは こころなりけり」
と高杉は辞世を詠みましたが、ここで「おもしろく」と歌われているのは、彼が時代に求めた「精神状態=狂的状態」であるということになるでしょうか。日本を沸騰点の状態に導くと言ってもいいでしょう。そのため、徳川家も加えた雄藩同盟でも足りなかったのでしょう。福沢諭吉などは、「訳知り顔で」評論家のような態度で大村益次郎に語りかけたら、大村が激怒した・・・と言うお話も、「狂」を発してまい進する日本国の肖像といっても良いかも知れません。高杉が結成した「奇兵隊」は、士農工商の区別なく、兵士を募集したことでも、一種の「狂的状態」を招く組織でした。趣旨一貫しています。
そして慶応4年(1868年)明治維新がなり、日本に再び「天皇」が支配する天下が訪れたのです。そして、「富国強兵」のスローガンのもと、日清戦争、日露戦争に勝ち抜いたのです。
そして主としてアメリカを相手にして起きた「太平洋戦争」これこそが嘉永6年の陵辱への復讐戦でした。その結果は完全なるKO負けでした。(1941−1945年)
日本はアメリカを海軍の仮想敵として、軍備を備えてきたのですが、それは嘉永6年に無理やり開国させられたことがトラウマになり、日本国民全体が一種の「狂状態」になってここまできたのだと思います。そのキーワードは「天皇」。
日本が無条件降伏を受け入れるのに際し、日本側がこだわったのは「国体=天皇」を維持できるかというあたりにあったことも「狂」状態のなせる業でしょうね。(be subject toという言葉の訳語について。)
今日の写真、昭和天皇陛下とマッカーサー元帥が並んで写っている、有名なものですが、これを見た国民は、両者の背丈の違いに驚いたことでしょうし、ゆったり構えるマッカーサーと直立不動の天皇陛下の立場の違いが明らかにさせられたことでしょう・・・・これで「狂状態」の時代は終わり、日本はアメリカの保護下で生きていく道を選んだのですね。
私の解釈では、この太平洋戦争が終わるまで、日本は「尊皇攘夷(天皇を仰ぎ、欧米人と戦う)」の姿勢を維持していたのだと思います。
まとめますと、
ペリーの黒船に、無理やり開国をせまられた日本国は、天皇を中心にすえ、狂わんばかりの発展を遂げ、最後に仇敵アメリカと一戦交えますが、完璧に負け、アメリカ軍は昭和天皇がマッカーサーと並んで映っている写真を撮影しました。この時点で、天皇とそれを取り巻く「狂状態」は沈静化してゆき、アメリカの下僕に成り下がったのだと思っています。なお、以上述べた時代の特質は、NHK大河ドラマでも、戦国物とか源平物より解りにくいため、幕末物は人気がないようですね。高杉晋作の登場する「花神」なんか傑作なのに。
今日のひと言:先ごろ終了した「英語でしゃべらナイト」というNHKの番組、対米依存度の高い日本の国民としては、「アメリカの動向に聞き耳を立てる」という意味で、やはりアメリカとの関係をよく物語っているなと思います。他国の言語を学びたがるのは、「被征服民」であると相場が決まっているのです。
参考過去ログ
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20051217 福沢諭吉を嗤う(わらう)
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20070311 高杉晋作の辞世
高杉晋作を歩く―面白きこともなき世に面白く (歩く旅シリーズ歴史・文学)
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