虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

吉田松陰は右翼か?〜〜留魂録

 身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂

         二十一回猛士


・・・これは、安政の大獄で罪に問われ斬首された吉田松陰の辞世の歌です。あまり上手い短歌とは思えませんが、気持ちは伝わります。「二十一回」という言い回しは「杉」(旧姓)と「吉田」の字を分解してこう自ら名付けたということです。


 二十一回、猛士としての活動を祈念していた彼、一回目は友のため脱藩して軟禁されたこと、二回目は黒船に乗ってアメリカに行こうとし、長州野山獄に囚人として収容されたこと、三回目は間部詮勝天誅しようとしたことを、幕臣の前で安易に打明けてしまい、斬首にされたことで終わってしまい、残り18回は、弟子たちに託すことになったのです。


 その、弟子達に残す遺書という目的で書いたのが「留魂録:りゅうこんろく」です。ここでは、弟子たちを勇気付け、アジテート扇動)する文言が並んでいます。死刑の前日までに二部作成し、弟子たちに直接渡す文書と、同室の囚人に託する文書と。弟子たちはおそらく回し読みし、そちらの文書は行方不明になりましたが、囚人に渡したほうは、明治になって世に現れ、いまの我われも読めるようになったのです。


 今私が手にしている本は「吉田松陰 留魂録」(全訳注 古川薫講談社学術文庫)大文字なので読み易い本です。文章の文字数は、「老子」と同じくらいの5000字程度。死を前にした心乱れるなか、この冷静な文章を残すとはさすがです。なお、古川氏は直木賞作家なのだとか。そして、古川氏は山口県下関出身だそうです。ご当地の作家です。


 特に印象にのこる記述を引用します。

・・・しかしながら、人間にもそれにふさわしい春夏秋冬があるといえるだろう。十歳にして死ぬ者には、その十歳の中におのずから四季がある。二十歳にはおのずから二十歳の四季が、三十歳にはおのずから三十歳の四季が、五十、百歳にもおのずからの四季がある。
 

 十歳をもって短いというのは、夏蝉を長生の霊木にしようと願うことだ。百歳をもって長いというのは、霊椿を蝉にしようとするようなことで、いずれも天寿に達することにはならない。


 私は三十歳、四季はすでに備わっており、花を咲かせ、実をつけているはずである。それが単なるモミガラなのか、成熟した粟の実であるのかは私の知るところではない。もし同志の諸君のなかに、私のささやかな真心を憐み、それを受け継いでやろうという人がいるなら、それはまかれた種子が絶えずに、穀物が年々実っていくのと同じで、収穫のあった年に恥じないことになろう。同志よ、このことをよく考えてほしい。

                (P100−P101)

心に沁みる文章です。1977年度のNHK大河ドラマ花神:かしん」で、肺病で余命幾ばくもない高杉晋作が、師・松陰の墓を訪ねて、上に挙げた一節を玩味するという話が出てきます。


さて、吉田松陰右翼でしょうか?はたまた左翼でしょうか?天皇制を復活させたので右翼と考える人もいるでしょうが、wikipediaに明確な区別が載っています。

「左翼 対 右翼」という構図は、範囲が広く、複雑な疑問への説明である。左翼と右翼は、通常は両端の対立勢力である。しかし実際には、個々の個人や政党が1つの事柄を行う立場としても「左」や「右」との用語が使われる。この言葉はフランス革命後の国民議会での座席位置で、革新または急進主義が「左翼」、保守が「右翼」と呼ばれた事が起源である 。


社会の変革を志向するという急進主義であった倒幕運動は、その意味で左翼の活動だったことになります。しかして、国体日本共産党が名付けた「天皇制」とはちょっと違います)がズンと権力の中枢に座ると、それまでの左翼が右翼に様変わりしてしまうわけですね。


今日のひと言:吉田松陰1830−1859  で29歳没(刑死
       高杉晋作1839−1867  で28歳没(病死
       久坂玄瑞1840−1864  で24歳没(戦死

松下村塾の学徒・師は短命な人が多いですね。

同じ長州人で適塾の卒業者
      大村益次郎1824−1869  45歳没(暗殺される)



今日の料理

水菜アボカドシーザーサラダドレッシング和え


 みずみずしい水菜とこってりアボカドを合わせた料理。ドレッシングをかけてよくかき回したため、アボカドとドレッシングが一体化し、なかなか美味しい一品になりました。

 (2013.03.16)



今日の一首


今日もまた
犬の散歩に
行く私


百年(ももとせ)ほどぞ
行きし気がする


それほどしっくり感があるのですね。ただ、地面に近いところをクンクンする犬たちは、3.11の事故による放射能に曝され、短命になるような気がします。だから、今が大事。


 (2013.03.20)



今日の一句


過酷なる
試練にめげず
芽ぶく草


 昨年、ほっぽらかしで枯れたとばかり思っていた2種類の草の芽生えを、今日確認しました。


上がイカリソウ。(メギ科の植物で、可憐な花と独特の草姿を持ちます。漢方では強精剤とされます。)下がギョウジャニンニクユリ科の植物で、寒い地方でよく栽培されます。ニンニクに似た風味と薬理作用があります。別名アイヌネギ

 (2013.03.20)



桜花
三分咲きなり
ここ太田

太田市の市街を貫いて流れる八瀬川。東京が桜満開とのことですが、こちらではまだまだでした。

 (2013.03.22)



吉田松陰 留魂録 (全訳注) (講談社学術文庫)

吉田松陰 留魂録 (全訳注) (講談社学術文庫)

新装版 世に棲む日日 (1) (文春文庫)

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花神〈上〉 (新潮文庫)

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