虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

*海洋と陸地――地政学への招待 その6
ハウスホーファーの世界
 
B:カール・ハウスホーファー(Karl Haushofer 1869−1946)は、ドイツの軍人。「大陸系地政学」の代表的学者だ。地政学というと、ナチス・ドイツのとんでもない政策を裏づけしたいかがわしい理論といった見方が一般的で、地政学のイメージも悪くしている印象を受けるね。もっとも、悪名とは言え、地政学という言葉を広めた功績はあるね。
 A:確かにそうなんだけど、ハウスホーファーの理論自体はおおざっぱとは言え、いかがわしいものではない。ここでは、その理論の中心概念「生活圏(Lebensraum・レーベンスラウム)」について触れる。ゲルマン民族の持つ特性と深くからんでいるよ。
 そもそも、ドイツ(ゲルマン)民族ほど、所有する土地を渇望した民族も珍しい。実際にゲルマン民族が居留している土地は、とても広大だけど、実際の国土はそれに比してとても狭い。(ちょっとわき道に入れば、ロシア王室は伝統的にドイツ王の一家から妃を得るのが普通だったから、ゲルマン民族スラブ民族ともつながりが深いんだ。)だから、ドイツ民族が存続する(lebens)に必要な領域(raum)は、自然と、漠然としたものになり、無制限の陸地の獲得を目指すことになってしまう。この辺は、マッキンダーがもっとも恐れた特質で、ハートランドを獲得するのは、ゲルマン民族かスラヴ民族になる可能性があるわけだ。それにシー・パワーで対抗する、という展開になる。その意味では、両民族はよく似ている。ここで、クリミア戦争(1853−1856)に就いて述べておこう。この戦争は、イェルサレム聖地管理権を巡って、ロシアがトルコと争った戦争だが、実際は、ロシアのランド・パワーと英仏のシー・パワーの激突の側面を持っていた。その結果敗れたロシアは、「最も弱い部分に向かって膨張しよう」という衝動から(この点もゲルマン民族に似ている)、極東に展開しようとし、やはりシー・パワーの日本に「日露戦争」で敗れたんだよ。
 B:結構、明快に世界史的事象が説明できるんだね。
 A:では、問題の「生活圏」とはどのような範囲か、についてはハウスホーファーの協力者シューマッハの類型を挙げてみよう。
  ##近代のドイツは政治意識的にみて
   ①ライン地方一帯
   ②エルベ川の東方
   ③ダニューブ川流域
   ④西北の海岸一帯
  の4つに分断されてきたとみて、これを全体として西よりもむしろ東に向いた旧来の動きを持つ広域の編成をめざす、という基本構想をのべた。そしてその大きな理由は、もともとドイツ民族の発展的体質は大陸的であって、英国のように海洋的ではない、ということだった。## 「地政学入門」P108
B:ある意味、ドイツ民族の特質を突いてはいるね。でもねえ・・・

A:そう、「海洋」・「陸地」・・・どちらの「地政学」の理論が勝ったかは、みんなもご存知だろう。この項最後に書いておきたいのは、ハウスホーファーは、「太平洋」の重要性に着目し、「太平洋地政学」という労作をものしていた。ちゃんとシー・パワーにも注意はしていたんだね。ここでは日本人は「海洋遊牧民」と称され、日中戦争で、日本陸軍が中国奥地に攻め込むことの不可を説いていたのは慧眼だった。だが、この理論は「日・独・伊三国軍事同盟」に力を与える役割も演じた。結局は、この三国を破滅に導く理論だったわけだ。

問い:日本は本来、シー・パワーの立場の国であった。一方、ドイツはランド・パワーの立場である。そしてシー・パワーはランド・パワーへの拮抗勢力であったはずであった。ランド・パワーが極限に達すると、「世界島」、すなわち「世界」を支配する、というのがマッキンダーの理論だったからだ。日本がドイツと軍事的に組んだことの是非を、この理論に照らして考察せよ。(200字程度)


                       (つづく)

今日のひと言:ホリエモンの墓:打ち上げに成功して、地球の周りでぐるぐる回る墓。こ    
       れを「宇宙葬」と呼ぶ。マンガ「ジョジョの奇妙な冒険」に出てきた超生
       物・カーズも「宇宙葬」だった。寒いなんてもんじゃない。