虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

水曜日に会いましょう

*海洋と陸地――地政学への招待 その5
マッキンダーの理論(ハートランド理論

A:  サー・ハートフォードマッキンダー(Sir Hartford Mackin−der,1861−1947)は、イギリス保守党の政治家で、下院議員も務めている。海洋に拠って発展したイギリスの立場を代弁する「海洋地政学」の権威だ。彼の主著「デモクラシーの理想と現実」に地政学では有名な次の命題が述べられている。

  #Who rules East Europe commands the 
                     Heartland:
   Who rules the Heartland commands
                   the World−Island:
   Who rules the World−Island commands
                     the World.#

問い:上の英文を和訳せよ。




A:この問いでは、難しい綴りではないが、独特な専門用語が使われている。その説明をしよう。「the World−Island」は、「世界島」とでも訳すしかないが、具体的には、ユーラシア大陸とアフリカ大陸をあわせた巨大な陸地を指す。この場合、その結節点であるアラビア半島は、極めて重要な位置を占める。「the Heartland」とは、それらの内陸地帯を指す。
B:そうすると、何かい?世界第一と第二の大陸をあわせても、「島」でしかないわけ?
A:そうなんだ。すると、南北アメリカ大陸、オーストラリア大陸だって、当然「島」であるに過ぎないことになる。考えてみたら、地球表面の7割を占めるのは海洋なのだから、海洋から見れば、別に「大陸」を「島」と呼んでも、何の不思議もない。これが、この章の冒頭にあげた「アメリカ島国論」がなんら突飛ではない根拠だ。
 先の命題に従うかぎり、「世界島」を支配する国が、そのまま「世界」を制覇することになる。マッキンダーは、具体的にはそれを「ドイツ」であると睨んでいたらしい。これは「大陸勢力(ランド・パワー)」と呼ばれ、それに対し、島国、半島国など、海に縁の深い「海洋勢力(シー・パワー)」が拮抗するという図式だ。具体的にはイギリス、カナダ、アメリカ合衆国、ブラジル、オーストラリア、ニュージーランド、日本、フランス、イタリアなどが含まれる。一般的には大陸的といわれるフランスも入っているのが面白い。
B:ちょっと、「半島」にこだわるけど、考えてみたら、「ヨーロッパ大陸」というけど、確かにドイツはともかく、フランス以西は、「ヨーロッパ半島」と言ってもいいよね。ユーラシア大陸全体から見れば。
A:そう、「半島国」だから、フランスはイギリスに伍して、世界に海洋経由で版図を広められたんだね。だから、その分、大陸国家とは言い難いわけだ。「シー・パワー」が有効に機能するためには、「平時、戦時を通じて海上交通を維持し、また保護する機能のことであって、そのなかにはむろん軍事力もふくまれるが、ただそれだけではない。ことに重要視されるのは、基地や寄港地を整備し維持できる物理的ならびに外交的な能力の存在」が要請される。(「地政学入門」(P36−37)最大のメリットは移動が比較的容易であり、多くの物資が運べることだ。一方の「ランド・パワー」は、いろいろな交通手段が取れるが、地形の大きな制約を受け、運べる物資は少ない。とは言え、鉄道の建設と運用は、「ランド・パワー」の力を大きくする。

A:次に、マッキンダーの有名な概念図の話をしよう。ロシア中央部を中心に、世界を3つの同心円に分けるのだと考えると解かり易い。
① 完全に大陸的な地域・・・すなわちハートランド  ロシアなど。
② なかば大陸的、なかば海洋的な地域・・・フランス、中国など。
③ 完全に海洋的な地域・・・日本、アメリカ合衆国など。
 (のちに、スパイクマンが、②、③をRimlands(リムランズ・周辺地域)と呼んだ。)
マッキンダー地政学は、やや類型的過ぎる印象を受けるが、以後の地政学の歴史に与えた影響は大きい。最後に、ハートランドの思想の背景になにがあったか、考えてみよう。

 ##それでマッキンダーは一般にシー・パワーと呼ばれるものの、特に西欧のそれについて、きわめて背景の広い考察を行なっている。そしてそこに出てきたのが、西欧世界とその文明の発達は、とどのつまり内陸アジアからの衝撃ないし圧力に負うものであった、という結論である。これは、従来の西欧文明がアジアを征服するという通念とくらべれば、まさにコペルニクス的な転回のようなもので、歴史的事実に照らせばまったく正しい見方であるにもかかわらず、当時の西欧人の自己中心的な意識からすれば、すぐにはピンと来なかったわけである。##(「地政学入門」P40)

問い:西欧への、内陸アジアからの衝撃、圧力の例を挙げよ。



B:なるほど、こう見てくると、西欧、なかでもイギリスのマッキンダーが「ハートランド」に警戒感を抱いたのもよく解かるし、「海洋に拠った地政学」を組み立てたのも理解できるね。
A:補足だけど、「日本地政学」では、物資、人員を動かすには海上交通がもっとも効率的であるとの根拠から、世界を4つの「環海洋地域」に分けるのを提唱している。それは、①環大西洋地域 ②環太平洋地域 ③環インド洋地域 ④環北極海地域  だ。大きな国の場合は地域が重複することもある。「日本地政学」の著者の河野氏は、これらの地域内の国々が相争うのではなく、協調することを前提に論を立てているが、その是非は置いておき、海を考察の中心に据えている点、マッキンダーに一脈通じるな、と思われる。
                   (つづく)

今日のひと言:細木数子六星占術は、正式な占星術(占星学:石川源晃氏の「実習・占星学入門」(平河出版社)参照)から見ると、「児戯」(ガキの遊び)に等しい。その根拠は、6*2=12(木星人+なんたらという分類)、これは占星術系の数字であり、巷に流布している「太陽占星術」といういい加減なものよりさらに粗雑だからである。
今をときめく「片山さつき」女史も、あと10年もすれば細木さんくらいの風格が出るであろう。なお、「斎藤孝」氏、「村上世彰」氏、「片山さつき」女史は、私と同じ頃、東大のキャンパスを歩いていたはずだから、学生食堂で合ったことがかならずあるはずである。みんな立派になっちゃって!!私も鼻が高い。