虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

海洋と陸地――地政学への招待 その7

iirei2005-12-14

  *海洋と陸地――地政学への招待 その7
アメリカ――地政学モンロー主義
(7回シリーズの「地政学」も、残すところ今回のみになりました。友人との教科書共同執筆計画が破綻して、「水子の原稿」になるところでしたが、活かすことが出来て、うれしいです。なお、次回と次々回は息抜きのブログをアップする予定です。明日はハーブの話題です。お楽しみに!)
A:いよいよ、この章最後のエピソードだよ。モンロー主義から入ろう。
B:ああ、モンロー主義というのは世界史では必ず出てくる言葉だね。手元に「世界史用語集」(山川出版社)があるので、引用してみるね。(受験生諸君にはなじみのある出版社だね。)
 ##モンロー宣言 (Monroe Doctrin)1823  神聖同盟によるラテン=アメリカ諸国への干渉と、ロシアの太平洋岸への南下政策に反対し、ヨーロッパ諸国とアメリカ諸国との相互不干渉を主張。議会への年次教書の中での声明。ウイーン体制諸国のラテン=アメリカ独立への干渉を排除した。##
 ##モンロー主義  モンロー宣言で確立されたヨーロッパ諸国との相互不干渉の外交政策で、のち孤立主義外交路線に発展する。ただし、モンロー宣言ではアジア諸国は対象となっていない。##
A:比較的穏健な政策方針に見えるけれど、実はそうではない。実に自分にとって都合のいい政策方針だった。もともと、アメリカ合衆国は、「海洋地政学」の見地を持っており、それを確実に実行するためのものだったとも言えるかな。先の引用からも読み取れるように、大西洋と太平洋、両睨みの政策方針だった。南北アメリカ大陸(西半球)は、アメリカ合衆国のものであり、ヨーロッパ諸国は口を出すな、との宣言であると同時に、平和主義どころか、戦争は絶えなかった、というか、戦争の口実にもなった。たとえば1846−1848年にメキシコと戦争して、ニューメキシコカリフォルニア州を獲得しているし、1898年にはスペインと戦争(米西戦争)、キューバを独立させたり、プエルトリコ、グアム、フィリピンを獲得している。もう、この時点で、アジアへの野心は垣間見える。なかでも、フィリピンといえば、マッカーサー元帥の「I shall return」の言葉とともに、太平洋戦争の重要な係争地だったと記憶されている。そして、極めつけ、海洋国家であるアメリカ合衆国にとって、大西洋と太平洋を繋ぐもの・・・「運河」は不可欠だった。そのため、英仏の影響は慎重に排除しつつ、なんと、1903年、運河建設に反対するコロンビアから、パナマを独立させ、パナマ運河を建設する!
B:そう言えば、何年かまえ、アメリカはパナマの独裁者ノリエガを捕らえ、アメリカの国内法で裁こうとしたことがあったね。どうなったかは知らないが。パナマアメリカの領土なんだねえ。

問い:パナマ運河の建設史を調べ、400字程度にまとめよ。


A:もうひとつ、心に留めておきたい海域がある。カリブ海だ。これは南北アメリカ大陸の地中海と言ってもいい。本来の地中海も、いろいろな国の権利が入り乱れて、歴史を動かしてきた海域だ。アメリカ合衆国の理解には、カリブ海は欠かせない。実際、ここを戦場にアメリカが仕掛けた紛争、戦争の例にはこと欠かない。
 さて、今度はもう少し広い範囲における西半球防衛構想を見てみよう。これまでもしばしば登場したエール大学の学者スパイクマン(N.J.Spykman、1833−1943)の考察「世界政治におけるアメリカの戦略」(1942年)。
 まず、スパイクマンは防衛上の要請で西半球を3つに分けた。
北米大陸
カリブ海周辺(パナマを含む)
南米大陸   以上3つに対する、太平洋側と大西洋側双方からの攻撃の可能性を探った。
a.太平洋側  もちろん日本が仮想敵だ。ただ、スパイクマンは、地政学的考察から、日本からの王手はありえない、と結論づけている。例えば、日本からアメリカへの最短経路は霧の発生が多く、航海が困難であるとか、南北アメリカは南に行くほど日本から距離的に離れることなどを考慮している。そして、慧眼といえるのは、日本との戦争が終結後、直ちに同盟を組むことまで主張している。日本では、当時海軍中将だった井上成美(しげよし)が同様な考察の結果、対米戦争の不可を訴えていたけど、大本営には無視された。
b.大西洋側  北米はヨーロッパ、南米はアフリカとの間の2正面作戦が起きる可能性があり、太平洋側より複雑。その際、カリブ海を仮想敵(ドイツ、イタリア)に抑えられては分断され身動きできなくなるので要注意。スパイクマンは、マッキンダーハウスホーファーから多くのことを学んだようだね。

 以後の経過は、歴史の教科書で教わっただろう。アメリカは、自国がシー・パワーの国であることを最大限意識し、スパイクマン言うところのRimlands(リムランズ)との提携を心がけつつ、ハートランドを支配しようという勢力と拮抗し、モンロー主義を貫徹した。この立場は、米ソ冷戦期を通じても続いた。今もモンロー主義は生きていると言えるのではないか。今、世界の命運を握っているのは、アメリカ合衆国だ。

なお、具体的な考察をキルギスに行ったブログがあるので、紹介しておきます。
http://d.hatena.ne.jp/USSHISSHI/20050327
         (「海洋と陸地――地政学への招待」終わり)

今日のひと言:「村上ファンド」の株ないし資産を、自分で買占め、立ち行かなくなり、自
       殺する村上世彰。これを資本主義の自殺という。



   *北斗七星(散文詩)     森下礼

ある朝、家の近くのゴミ回収スポットで、落ち葉の入ったゴミ袋を探した。落ち葉を庭に撒き、冬眠中の動植物の掛け布団にするためである。そして、いずれ落ち葉は肥料として土に帰る。
 作業後の袋を別の袋に入れようとしたら、その袋の中に、煌煌と赤い柿の実が30個以上ビニール袋にいれて捨ててあった・・・私は涙が出た。「かわいそうに・・・」。
 すぐそれを拾った私は、一晩穢れを除くため置いておいた。翌日、7個を選び、剥いてヘタにヒモを通そうとした。干し柿にするのだ。だが通らない。ヘタがヘタっていたのだ。辛うじて2個だけヒモが通り、軒下で乾かそうとベランダに行ったところ、引っ掛ける突起がない。昔の民家と違い、なんて不便なんだ、現代の住宅は?
 つるせれば「北斗七星」と呼ぼうと思っていたけど、あてが外れた。また明日考えよう。


そして今日、「魚干し網」があることを思いだした。魚を干す網で柿を干してなにが悪かろう。北斗31星だ。      (05.12.14)