『古事記』:肉親の確執の記録~石ノ森章太郎の慧眼(随想録―73)
中央公論新社「マンガ日本の古典」シリーズ、第1巻である。『古事記』『日本書紀』などというと、毛嫌いする人も多いと思う。戦前・戦中の暗い時代のバックボーンとなった文芸作品であるから、さもありなむ。ただ、『サイボーグ009』などのSFマンガの第一人者の石ノ森にすれば、『古事記』上中下巻のうち、上巻は、それ自体がマンガに見えたという。だから、歴史の正確さへの配慮はさておき、思うようにマンガ化できたそうだ。(中・下巻は上梓するつもりもないらしい。)
この文献の最初に現れる夫婦神、イザナギ・イザナミ両神は、不幸な別れ方をしている。火の神を産んで火傷で死んだイザナミを連れ戻すために黄泉の国に行き、自らのミスからそれに失敗し、ために怨霊と化したイザナミが「私は一日に1000人、地上の人を殺す」と宣言し、イザナギが「では、私は一日に1500人、人を生もう」と返す。
なんたる凄惨さ。この精神世界は、2人の子である姉:アマテラスオオミカミと弟:スサノオノミコトにも引き継がれる。スサノオの乱暴狼藉に怒って天の岩戸に隠れたアマテラス、スサノオは追放されて出雲に赴き、ヤマタノオロチ退治でむしろ名を上げる。そして、スサノオの娘:スセリビメを正妻としたオオクニヌシのもとで、国(葦原の中国:あしはらのなかつくに)は隆盛を極める。
面白くないのはアマテラスである。彼女は陰謀を参謀神と図り、出雲を乗っ取ろうとする。2度直系を送って征伐を試みるが、豊かな出雲の国に馴化してしまい、失敗に帰す。最後にタケミカヅチノオノカミ(刀剣の神)を派遣して、受動的で優柔不断なオオクニヌシをタケミカヅチが脅しつけ、いわゆる「国譲り」に成功する。アマテラスの野望は、ここに至って完遂されたわけだ。
ただ、アマテラスの直系にはろくなのがいない。長男はそもそも出雲に行く気概もない腰抜けで、子供だけは作っていたので、アマテラスはその子(彼女にとっては孫)「ニニギノミコト」を「天孫」と称し、自分の跡取りとして、下界に遣わした。これが天皇家の祖先である。この人も、人を見る目がなく、嫁を迎えるに当たり、親神の忠告に従わず、美人の妹だけを妻とし、醜女の姉は娶らず、一時期だけの命しか、以後の人は持てなくなったという。
注意したいのは、以後ヤマトは、異民族を攻撃し、征服するのを、無上の喜びとするようになったこと。「肉親の確執」・「国譲り」の神話は、かくも罪深い。
(2022.12.31)
今日の7句
ここだけは
トロピカルなり
タチアオイ
冬に似合わぬ派手な色。
(2022.12.17)
ネコジャラシ
ひっくり返して
駆除しけり
(2022.12.17)
龍の髭(リュウノヒゲ)
地下に宝を
隠しけり
龍の髭(蛇の髭)は、根かいを「麦門冬」と呼び、漢方薬にされます。
(2022.12.18)
(2022.12.18)
咲き始め
マッソニアの花
魁偉なり
マッソニア・ロンギペス(ヒガンバナ科)の変わった花。
(2022.12.18)
浮きしコケ
枯れずに生きる
知恵なりき
コケは、冬の寒さを、体の水分を抜くことで耐えます。
(2022.12.18)
この整枝
欧風なりし
技巧的
(2022.12.18)