倉多江美の『エスの解放』:恐るべき心理劇(マンガ)
倉多江美の『エスの解放』:恐るべき心理劇(マンガ)
私が東大マンガクラブにいた頃は、少女マンガの全盛期で、少年マンガを読む者は、除け者扱いされる雰囲気がありました。実際、梶原一騎に代表されるスポ根マンガは嘲笑の対象になったものです。私もその例に漏れず、少女マンガを読み漁りました。最も好きな少女マンガ家と言えば、倉多江美(くらた・えみ)さんにトドメをさします。1950年生まれ。
神奈川県鎌倉市に生まれ、幼稚園の頃に大阪へ移る。高校卒業後、河原デザインスクールに1年間通った後、漫画を描き始めた。1974年に『雨の日は魔法』(少女コミック増刊1月号)でデビュー。以後、同誌を中心に短編作品を数多く発表。針金のような独特の描線と、乾いたユーモアが特色で、時には哲学的なテーマも交えた作風は、少女漫画ファンのみならず、幅広い層の人気を集めた。後年は『エスの解放』『静粛に、天才只今勉強中!』などの長編作品も手がけている。
その他の代表作に『ジョジョの詩』『一万十秒物語』など。 日本テレビのドラマ「ちょっとマイウェイ」のオープニングのイラストを担当していた。
彼女のマンガの描線は硬質で、モノクロームなマンガであると言えるでしょうか。色彩豊かな他の少女マンガ家とは相当に異質です。なかでも、ホラーを得意とし、『パラノイア』(コミック『五十子さんの日』所載)、『かくの如き・・・!!!』(コミック『ドーバー越えて』所載)などは、精神病を主題とし、両者とも身の毛もよだつ作品です。
そのような作品の一つに表題の『エスの解放』があります。この「エス」とはドイツ語の“es”、つまり無意識、集合無意識など、フロイトやユングの精神分析の用語を踏まえているのでしょう。(この単語は英語の“it”とほぼ同じ、天候や神などの言及を避けたい超越者を示すのでしょう。)この精神分析の用語をたどるように『エスの解放』は描かれています。
『エスの解放』の表紙(アマゾンのカタログから)
ある女子高校生「河端未知子」が校舎の屋上から飛び降り自殺します。本編の主人公:“樫山めい”は、その場に居合わせ、女子高校生の自殺を目撃してしまいます。それから彼女に異変が・・・
悪夢、幻覚などを頻繁に体験するに至ります。特に「シャボン玉の中に赤ちゃんがたくさん浮かんでいる」といった夢を見たと母親に打ち明けますが、母も思い当たることがあるらしく、青くなります。ここいらはまさにミステリーと言える展開で、謎を孕んだまま話は後半に突入します。
樫山のことを気に掛ける同級生の柄谷(男子高校生)は、彼女の恐怖を取り除いてやりたいと親身に接します。だがここで決定的な事実が入ります。「樫山めい」は双子で、妹は“脳がない状態”で生まれてきて、3日後に死んだというのです。ここで樫山は過剰な反応をするのです。いわく「私は妹の脳を取りあげちゃった」。刃物で頭を抉ろうともしたりして、未遂に終わります。
めいが迷いこんだ出口のない迷宮・・・特に彼女は他人の痛み、不幸を自分に引き寄せて、自分の痛みにしてしまうという因果な(ある意味優しい)性格をしているのです。柄谷は、その怜悧な論理で、彼女を“es”から引き離そうとします。さて、その必死の説得は功を奏しますでしょうか?・・・これ以上のネタバレは控えます。(もっとも、粗筋は開示してしまいましたが・・・)
今日のひと言:このマンガの冒頭で、ある女生徒「河端未知子」が自殺したと書きましたが、この女生徒がなぜ自殺をしたのかについては語られません。実は、「物語の冒頭で男子生徒が自殺して、その謎を巡って話が進行するのは、特に同性愛がしばしば取り上げられる少女マンガの常套手段」ですが、倉多江美はその常道に従いません。ラブコメを描いた作品でも、一味違うものを描きます。『ぼさつ日記』では、男1人と女2人の「ラブコメ」が描かれますが、これは優男で頼りない男が、人間の女とも思えない2人に「脅かされる日常」が提示されています。
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今日の一品
@シイタケうどん
昼食。生シイタケを少々陽に当てて、カルシウムの吸収を助けるビタミンDを増やしてうどんの具にしました。陽に当てるのは、少しの時間でも良いらしいです。(ビタミンDの前駆物質「エルゴステリン」が、シイタケ、マイタケなどに多く含まれ、陽に当てるとビタミンDに変化するのです。)
(2019.11.09)
@ふろふき大根
有名な料理ですが、初めて作ってみました。まず、大根を3cm厚さくらいに輪切りにし、皮を剥き、十字に隠し包丁を入れ、ラップにくるんで冷凍。翌日解凍し、水に醤油、昆布だし、オイスターソース、ナンプラーを入れて煮汁とし、保温調理鍋で30分、保温セット後2時間くらいで取り出し、ユズを散らしました。(冷凍するのは、煮汁が浸み込むのを促進するため。)
(2019.11.09)
@ウコン酒の漬け込み
ほぼ毎年、ターメリック(ウコン)を栽培しては葉だけをアルコール漬け(リキュール)にしてきましたが、今年は根のほうを漬けてみました。飲み頃になるのは半年後ですが、すでに液が黄色くなってきています。
(2019.11.10)
キャベツのサラダに、セリフォン(中国からし菜)のスプラウト(もやし)を加え、辛さを満喫しました。
(2019.11.11)
今日の四句
散歩道
いつもの景色
懐かしく
一種のデジャビュ感でしょうか。
(2019.11.09)
赤いバラ
季節外れの
豪放さ
(2019.11.09)
ツタの葉の
壁に食い込む
寒さかな
(2019.11.10)
冬の日に
ピンク咲かせる
サボテン花
マニアはサボテンではなくカクタスと呼びます。これは棘がなく、ウロコに覆われたような特殊なカクタス。花は一日花です。
(2019.11.10)