虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

上田敏と海潮音〜近代の西欧詩の名解説者

上田敏と彼の訳詩集「海潮音:かいちょうおん」は、日本に西欧の詩を紹介したことでよく知られています。この人と海潮音について、wikiから引いてきますと


上田敏

上田 敏(うえだ びん、1874年(明治7年)10月30日 - 1916年(大正5年)7月9日)は、文学者、評論家、啓蒙家、翻訳家。多くの外国語に通じて名訳を残した。号で、「上田柳村」とも呼ばれる。「山のあなたの空遠く 『幸』(さひはひ)住むと人の言ふ」(カール・ブッセの「山のあなた」)や、「秋の日の ヴィオロンの ためいきの 身にしみて ひたぶるに うら悲し」(ポール・ヴェルレーヌの「落葉」、一般には「秋の歌」)などの訳詞は、今なお、広く知られている。


海潮音

海潮音』は、29人の詩人の57篇の訳詞をまとめている。ときに上田敏は37歳、東大の講師だった。イタリア語・プロヴァンス語の詩は、英訳からの重訳という。


彼は、一高の学生だった1895年(明治28年)から、西欧詩壇の現状を『帝国文学』誌などに報じて、日本の文人が主にヴィクトリア朝時代の古い詩に目を向けているのを、警告した。また、新体詩についても1899年、体裁ばかりで真情がないと批判した。そしてこのような状態の改善のため、新しい詩を訳して紹介すべきと思い至ったと、説明されている。


海潮音』中の訳詩の初出は、1902年12月から1905年9月までの『明星』、『万年青』、『白百合』ほかの雑誌で、初期には古い時代の詩もあったが、上記の事情から次第に高踏派・象徴派の密度が増え、出版直前の1905年6月 - 9月には、高踏派の4篇・象徴派の15篇を、たたみ込むように『明星』誌上に訳出し、以前の分を加え、高踏派の詩6篇・象徴派の詩22篇を巻中に納めている。


私が今回読んだのは、「海潮音」(ほるぷ出版:1985年初版)でした。この本の中から、気に入った詩を2編挙げてみましょう。


高踏詩については、私自身、どう評価したら解らないので、もっぱらフランス象徴詩を。まず、象徴詩の始祖であるシャルル・ボードレールから。


信天翁(おきのたいふ:あほうどり)


波路遥けき徒然の慰草と船人は、
八重の潮路の海鳥の沖の太夫を生け捕りぬ、
楫(かじ)の枕のよき友よ心閑けき飛鳥かな、
奥津潮騒すべりゆく舷(ふなばた)近くむれ集う。


ただ甲板にすゑぬればげにや笑止の極みなる。
この青雲の帝王も、足どりふらふら、拙くも、
あはれ、真白き双翼は、ただ徒に広ごりて、
今は身の仇、益も無き二つの櫂と曳きぬらむ。


天飛ぶ鳥も、降りては、やつれ醜き瘠姿(やせすがた)、
昨日の羽のたかぶりも、今はただ鈍(おぞ)に痛はしく、
煙管に嘴をつつかれて、心無には嘲られ、
しどろの足を模ねされて、飛行の空に憧がるる、


雲居の君のこのさまよ、世の歌人に似たらずや、
暴風雨を笑い、風凌ぎ猟男の弓をあざみしも、
土の下界にやらはれて、勢子の叫びに煩へば、
太き双の羽根さへも起居妨ぐ足まとひ。

 (「悪の華」より)


この詩は自身詩人であるボードレールと、大空を飛ぶアホウドリアルバトロス)が、同じように空から引きずり降ろされると、なす術もなく地上の者の慰みものになってしまうという悲哀を歌っています。この場合、ボードレールアホウドリなのでしょう。とくに第2連にその二重写しの描写が際立ちます。



次はオオバネルの短詩。


海のあなたの


海のあなたの遥けき国へ
いつも夢路の旅枕、
波の枕のなくなくぞ、
こがれ憧れわたるかな、
海のあなたの遥けき国へ。


短い詩ですが、海を越えた異郷への憧れを歌いきっています。この詩人は南仏プロヴァンス地方出身で、彼の同僚であるミストラルという詩人は、ノーベル文学賞を受賞しているそうです。この詩は、マラルメの「海の微風」のダイジェスト版かとも思えます。

フランス象徴詩については以前も取り上げています。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20071027

  :ボードレールフランス象徴詩の祖――世界一のフランス象徴詩


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20071022

  :マラルメヴァレリー  海に寄せる師弟の詩


平たく言えば、「我と他者との神秘的な出会い」を歌った詩がフランス象徴詩なのだと思えばいいと思います。



今日のひと言:「海潮音」とか後続の「月下の一群」(堀口大學)などの訳詩集では、なぜかランボーを取り上げていません・・・あの天才詩人を?ランボーが詩を捨てたことが効いているのでしょうか?悪友のヴェルレーヌは幾編も取り上げられているのに。




海潮音―上田敏訳詩集 (新潮文庫)

海潮音―上田敏訳詩集 (新潮文庫)

月下の一群 (講談社文芸文庫)

月下の一群 (講談社文芸文庫)




今日の一品


@炒り豆入り切り干し大根



たまに作る切り干し大根、だいたいクコの実、油揚げが入りますが、今回は油揚げの代わりに炒り豆を加えました。汁気があるうちに入れるので、豆も柔らかくなります。

 (2017.01.12)



ガラム・マサラ



平たく言えばカレーですが、本場インドではガラム・マサラ(辛い・香辛料)と言い、香辛料の配合が家ごとに違う複合香辛料です。今回は13種のスパイスを混ぜ、オリーブオイルを敷いた手鍋で加熱しました。ラインアップは、ショウガ、クミン、ターメリック、カイエンペパー、コリアンダーナツメグクローブ、カルダモン、シナモン、ブラックペパー、キャラウェイシード、アジョワンシードフェヌグリーク


出来上がりは、大変辛かったですが、ご飯と混ぜ、ドライカレーのようにしたら、クセなくて、グッドでした。

 (2017.02.13)



@ラムニラ炒め



弟作。強い匂いの2品、ラム肉とニラを合わせてみました。もともとラム肉の匂いは嫌いではないのですが、ニラと合わせて万全でした。なお、補助的に「ねぎ味噌ラー油きのこ」(交和物産株式会社)も使用しました。

 (2017.02.14)



@ベルギーチョコレート




ヴァレンタイン・デイのこの日、ベルギーのチョコレートメーカー「Trefin:トレファン」の「Crispy truffle 」を頂きました。真ん丸で、内部のチョコレートは生チョコのような風味がありました。美味です。

 (2017.02.14)





今日の詩


@タエコの食性


タエコ(飼い犬)は色々な物を口にする
一年前には口を血だらけにして割り箸を食べた!
散歩しているときは空腹感から、そうするらしい
変わったところでは、キャベツ、大根などのアブラナ科植物が特に好きだ
憑りつかれたようにむしゃむしゃ食べる


アブラナ科植物の辛さは硫黄分から来るが
同じく硫黄分を含むユリ科植物は
犬や猫の血球を溶かすので与えるのは危険。
うまくしたことに、タエコは匂いを嗅ぐだけで
ユリ科植物を食べることはない。



http://d.hatena.ne.jp/iirei/20151204#1449179316 の詩のコーナー:「瀕死のタエコ」参照


 (2017.02.16)





今日の一句


稀に見る
フキノトウ
妖艶に



市役所の山野草コーナーにあった逸品。珍しい。

 (2017.02.15)


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