石垣りん〜生活の詩
かつて、私が東大学力増進会(現役東大生、OB、東大中退者などの共済のために存在していた、中学生対象の、夏季とか受験間際などの時期に講習会をする組織)の国語科講師だったとき(理科系なのに国語科に採用されたというわけですが)、以下の詩が教材になっていて、大変にインパクトを受けました。
夜中に目をさました。
ゆうべ買ったシジミたちが
台所のすみで
口をあけて生きていた。
「夜が明けたら
ドレモコレモ
ミンナクッテヤル」
鬼ババの笑いを
私は笑った。
それから先は
うっすら口をあけて
寝るよりほかに私の夜はなかった。
この詩は、人間が殺生をしつつ生きていることの恐ろしさを詠った詩だと思いますが、ごく普通の食生活の奥に潜む恐怖というものをよく捉えていると思います。皮肉なのは、この詩の第11連「うっすら口をあけて」という言い回し、明日の朝にはシジミ汁になるシジミたちと同様に、詩人が「口をあけて寝る」という有様がオーバーラップして、シジミに起こる惨状が、詩人にも降り注ぐ可能性がある・・・理不尽な出来事に巻き込まれ死亡するという事態も想定されるのです。食物連鎖の頂点に人間はいますが、それを超えた存在には、人間もシジミと同じ物である、と言った具合に。その意味でも恐ろしい詩だと思います。その辺、詩人も覚悟しているのだと考えます。
石垣りん(1920年−2004年)は、戦前の教育を受けたひとで、日本の敗戦まで、日本国の正義を信じて疑わなかった人ですが、いざ戦争が終わってみると、それまでの教育の「ウソ」に愕然とし、その辺りをモチベーションとして詩の世界に入った女性です。その詩は、女性に特有な生活実感に基づき、鋭い視点で世の中を切り取っていくのです。
もう一つ詩を挙げます。
子供が立っている
むこうに煙突が立っている
子供が息をする
煙突が火を吐く
空はたったひとつ
ひるも
よるも
息をする子供
オレンジ色の火を吐く煙突
どっちが勝ちのこる?
石垣さんは三重県・四日市市に在住だったようにも思え(彼女の資料をみてもはっきりとは解らないです、もしかしたら神奈川県・川崎市のことだったかも知れないし、想像で書いた詩であったかも知れません)公害を撒き散らす工業施設に、生活者としてきわめて深刻な事態を見出しています。今現在では、公害の対策技術が発展し、高度経済成長のころの公害は影を潜めていますが、その公害は例えば中国に飛び火し、この詩で述べられている事態は、中国国民を苦しめていますし、その余波としての危険なPM2.5のような飛散物が日本にもやってくるのです。
過去ログ http://d.hatena.ne.jp/iirei/20140315#1394828574
:PM2.5の実態〜黄砂との相乗効果
参考ブログ:http://d.hatena.ne.jp/mikutyan/20140605
mikuちゃんの日記 ランドセル
(私の今回ブログともまた違った視点で書かれています。)
今日のひと言:今回のブログは「現代詩文庫46 石垣りん:思潮社」を参考にしました。それにしても、簡単な言葉で複雑な事柄を述べるのは、なかなかに至難の業ですね。彼女の詩は、「生きること」の「根源」を問う体(てい)のものだと思います。
- 出版社/メーカー: 思潮社
- 発売日: 2005/05
- メディア: 単行本
- クリック: 9回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
- 作者: 石垣りん
- 出版社/メーカー: 童話屋
- 発売日: 2000/10
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
今日の料理
@甘海老の頭のおじや
前日にたべた甘海老の頭を取って置き、昼におじや(雑炊)にして食べました。丼のなかで頭のエッセンスを絞り、このままでは「生臭い」ので、ショウガを摺って入れ、水で増量してパックごはんをいれて煮たて、丼に戻して「永谷園のお茶漬け海苔」を加えて完成。生臭みは消えていました。
(2014.07.09)
@カスベの煮つけ
北海道など寒い地方で獲れるエイの仲間のヒレの料理。現地出身の人によれば「下魚」だそうですが、この軟骨が豊富なヒレの食感は、こりこりしていて、美味しいのです。高価なので食べたことはない「フカヒレ」もこんな感じだろう、と思っています。
(2014.07.09)
@セミドライもやしの炒めもの
以前に取り上げた干物料理で、http://d.hatena.ne.jp/iirei/20140702#1404295835
id:takitakitakitakiさんから、もやしを袋からだしてしばらく置いておくといい、という話を聞き、レンジでもやしを2分チンして炒めものにしました。ほかに入れたには、クコの実、ピーマン、シーフードミックス。味付けはオイスターソースと醤油。特には違いが判らなかったですが・・・
(2014.07.11)
今日の三句
兜海老(カブトエビ)
水田(みずた)に泳ぐ
のどかなり
兜海老(カブトエビ)は太古の昔から地球上に生息していた甲殻類です。水田をやる時期に地面から「湧いてきて」思いっきり泳ぐのです。水田の管理者には、ホウネンエビとともに出てくるのが豊饒の証しだと歓迎されます。
カブトエビの姿については
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100630#1277961978
を参照してください。
(2014.07.08)
畔豆の
農家夢見る
ビアの友
昔から、水田の畔(あぜ) には、大豆を植え、自家用に収穫する風習がありました。この農家は伝統に忠実なのですね。ビアとはビールのことです。
(2014.07.12)
何のため
栽培するか
イネ科草
主に、ネギを育て終わった畑に、ネギの裏作として栽培することがありますが、とくに種は取らずに苅り倒し、土に鋤き込みます。なんかネギの生育・収穫に良いことがあるのでしょうか?
(2014.07.12)