筒井康隆の私説博物誌・SFとドタバタ
日本の3大SF作家と言えば、小松左京さん、星新一さん、そして筒井康隆さんです。そのうち2名が他界した今では、筒井康隆さんが気を吐いています。最近は文芸批評にも手を染め、ユニークな活動をされています。
さて、前回挙げたルナールの博物誌を意識してからか、筒井さんも「私説博物誌」を上梓しています。昭和55年新潮社から発行されたこの本は、筒井ワールドを垣間見えるものとして興味深いものです。もちろん、本家ルナールの練れた文章とまではいかず、文芸的な価値は相当落ちるけれども、それなりに味わい深いものです。
ルナールの「博物誌」が身近な動物を対象にしているのに対し、「私説博物誌」では珍獣、植物、動物とも植物ともつかないもの、SF上の生き物などが対象です。
中でも光るのはSF上の生き物で、SF作家である筒井さんの面目躍如たるものがあります。その中のひとつ「シリコニイ」は、SFの大御所・アイザック・アシモフが創造した動物で、「もの言う石:The talking stone」という作品に出てくる動物です。このシリコニイは地球の動物が炭素を体の構成元素であるのに対し、同族元素で岩の構成元素・ケイ素(シリコン)を構成元素にする岩石状の生き物だったというわけ。ちなみにアシモフは生化学を専攻する学者でもあり、想像力の翼でこの動物を考案したというわけです。
あるいは、「トリフィド」。この植物はイギリスの作家ジョン・ウインダムが書いた「トリフィドの日」に登場する食肉植物です。一連の生物学的交配によって偶然発生したとされ(今なら遺伝子操作によるという説明がつくと思いますが)、3本の足で歩行する植物で、最初は無害だと思われていたのですが、実は人間も殺して食べてしまうほど危険な生物であることが判明するというのです。
以上、述べたように、SFという文芸ジャンルは、確かな科学的裏づけを以って、「あり得るお話」と読む人を唸らせる作品のことなのです。だから、「誰かが突然空から落ちてきて・・・」「タイムスリップ」云々というお話は、SFでもなんでもありません。たんなる出来損ないの文章なのです。SFには「センス・オブ・ワンダー:Sense of wonder」という「驚き」が必要であり、それがないSFは、SFではないのです。
さて、次は動物とも植物ともつかない生命体・・・「テングノムギメシ」について。これは実在します。この生命体は、「日本独特のもので、本州中部の火山地帯、戸隠山とか黒姫山とか、飯縄山とか浅間山とかいった高山の、ササなどが密生した地面に発生している、ねばねばした粒状のものの塊」ということらしいです。そしてこれは食べられるそうです。
この奇怪な生命体は、「無機的栄養を成分として取り入れている特殊なバクテリアであろう」ということが記述されています。これらがコロニーをつくる、との専門家の話です。
さて、ここからが筒井康隆さんらしく、「コロニー」という話をきっかけに、「テングノムギメシ」とはなんら関係のない「ゲゼルシャフト」「ゲマインシャフト」に話が飛んでしまうのです。筒井さんの特徴というか(ある意味欠点なのだと思いますが)、このような脱線・ドタバタに話が収れんしてしまうのが残念です。
今日のひと言:近年の筒井さんの傑作に「文学部唯野教授」というのがありますが、いろいろな文芸批評理論をみごとに紹介しながらも、やはりドタバタになる点が彼らしいです。

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今日の料理
@タケノコと鶏肉のカシューナッツ炒め
http://homare-temujin.hatenablog.com/entry/2014/04/21/204225 にほぼ準拠
変更点は1)卵白を使わなかったこと、2)筍と鶏肉の比率が逆。
「タケノコ、鶏肉、カシューナッツ」が三位一体でうま味を醸し出します。
(2014.04.29)
@ツルナのお浸し
ツルナはよく海岸で見つけられるハマミズナ科の野草です。ただ扱いは野菜に準じます。ホイト菜(乞食が食べる草)とも言われます。軽く湯がいて、15分ほど冷水に晒します。シュウ酸を除去するため。今回は醤油とオイスターソースで味付けしました。シュウ酸が気になる人はカツオ節をまぶしてください。
(2014.05.01)
@コシアブラの揚げ物
この植物は、美味しい山菜の多いウコギ科植物のなかでも、抜群に美味しいです。「山菜の王」タラも超えます。ただし衣をつけて揚げませんでした。油をおおく含むことになるので、素揚げにしたのです。
1パック380円なり。
(2014.05.02)
今日の一句
同じ場所に5月4日にいったら、罌粟が満開でした。
赤と青
罌粟(けし)と矢車
咲き誇る
矢車とは矢車草のことです。また、罌粟といっても、ヒナゲシのことです。麻薬を採る罌粟ではありません。
(2014.04.30)