数学の長い歴史の中で、ライバル関係になった数学者同士が複数います。古いところでは三次方程式の解の公式をめぐってあらそったタルターリア(1499?−1557)とカルダーノ(1501−1576)、微分・積分法の発見をめぐってあらそったニュートン(1643−1727)とライプニッツ(1646−1716)・・・今日取り上げるのも、その中に分類されるお話です。
微分法においては、「無限小」という概念が用いられますが、「無限」という概念は、そのあまりの化け物さから、数学者たちは無視していました。ところがここに、「無限」というものに真正面から取り組む数学者が現れました。ゲオルク・カントール(1845−1918)です。
カントールは、フーリエ級数の三角関数の分類から「集合論」を着想し、この概念を使って「無限」に切り込んでいきます。
その武器は「一対一対応」。例えば、自然数 1,2,3,4・・・と偶数 2,4,6・・・
は、どちらが多い?と聞かれたとします。「偶数は自然数から奇数を除いたものだから、自然数のほうが多い」・・・と考えるのが普通でしょうが、カントールの答えは違います。偶数2は1番目、偶数4は2番目・・・といった具合に自然数と偶数は、すべて一対一対応にできるので、「自然数と偶数は、同じ数だけある」ということになるのです。
こんな具合で、分数(=有理数)も、自然数とおなじだけあるという結論が得られます。
では、無理数はどうか?――ここで非常に興味深い証明が行われます。目指すは「無理数は自然数より多い」という背理法による結論です。
もし、自然数と一対一対応できたとして、それら無理数を小数表示して(有理数は循環小数になおし)すべてを並べてリスト(一覧表)を作ります。
ここで、リスト第一番の数とは小数点以下一桁目が異なり、リスト第二番の数とは二桁目が違うような数字を持ってくる・・・以下同様のようにすると、この手続きで得られる数は、リストの中にはない!!・・・背理法による矛盾が導けました。無理数は自然数より多い無限。見事な証明で、これは対角線論法と言われます。
(ちなみに、それほど多くある無理数ですが、はっきりと名がわかるものは少ないです。√2・・・大体1.4142とか円周率π・・・大体3.1415とか自然対数の底e・・・大体2.7182などです。)
さて、こんなカントールの偉業に待ったをかけたのが、レオポルト・クロネッカー(1823−1891)です。この人はかなり偏屈な人で、「自然数は神が創り給うた、他の数は全て人間の創ったものである」と公言し、分数さえ数と認めないおじさんでした。もっとも、この人、いろいろ高度な数学をやってもいるのですが・・・てか、クロネッカーとしては全ての数学を自然数を基に築きなおすという野心を持っていたようです。
そこに、自然数より無理数が多いなんて、トンデモな結論をもたらす奴・・・カントールが憎くて仕方なかったのでしょう。クロネッカーはことある毎にカントールを迫害します。学会でも、数学専門誌でも。カントールはそのイジメのためもあってか、精神を患い、精神病院を出たり入ったりする後半生をおくりました。
今日のひと言:カントールの集合論は現代数学のバックボーンの一つになっています。こうなるとクロネッカーの独善性が目立ちますね。もっともこの2人とも、同じユダヤ人だったそうで、カントールは集合論の記号として「アレフ:ヘブライ語でエー:Aのこと」を数学に導入しましたが、クロネッカーは「ドイツ的でない」といってこれにも噛み付いたようですね。もし、クロネッカーが後のナチスによるユダヤ人の大虐殺を見たとして、「ドイツ的だ」なんて抜かせるでしょうかね。
参考文献 数学10大論争:ハル・ヘルマン(紀伊国屋書店2400円+税)
今日の二句
主なき
庭に咲きける
白茨
なんとまあ
細き葉っぱや
髪の毛草
この名称は、本名が解らないから私が命名しました。
(2011.10.27)
この花↓、なんて名前でしょう。わかる人は教えてください。黄色の4弁花、ギザギザな葉っぱ、道ばたに生える・・・なんとなく「ケシ科」の植物のように思えます。帰化植物?
*この植物は、某さんの情報により「コマツヨイグサ」(アカバナ科)であると解りました。ありがとうございます。(2011.11.07)
カントールの対角線論法―ミーたんとコウちんは闇の数学講座で無限の正体を見た (PARADE BOOKS)
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