ヴァレリーの詩とポトラッチ:現代の未開文化(カッコイイ!)
ヴァレリーの詩とポトラッチ:現代の未開文化(カッコイイ!)
ポトラッチ2(2/2)
失われた酒 ポール・ヴァレリー
いつだったか、私は大海に
(どんな空の下だったかは覚えていない)
少々の高貴な酒を投げた。
まるで「虚無への供物」のように。・・・
おお、酒よ、誰がお前を捨てようか?
神の意志に従ったのか?
心の寂しさからなのか
血に飢えて、酒を投げたのか?
少々バラの香りがしたあと
海はまた透明になり
静けさを取り戻した・・・
酒は投げた、波が酔った!・・・
私は見た、苦い大気の中
この上なく深いものの姿を・・・・
これは、私自身による訳です。この詩は、かつて読んだ詩のなかで、「最高位」に位置する作品でもあります。海に高価な酒を投げ入れるという行為、無意味でしょうが、ヴァレリーは、その酒で「酔う海」に出会ったわけなのです。「海」はもちろん「虚無」、それへの「お供え物=供物」は、有効だったのです。
この詩は、「20世紀最高の知性」と称されたヴァレリー(詩人:アインシュタインの相対性理論も完全に理解したそうです)の未開文化との近似性を物語るものだと思いますが、その未開文化には、往々にして「ポトラッチ」という習慣が存在しています(いました)。広辞苑第6版によると
ポトラッチ【potlatch】
北アメリカの北西海岸先住民の社会で、自己の社会的威信を高めたり称号を獲得したりするために、客を招き、競い合って贈与・消費する饗宴の習俗。ふるまわれた客は、自分の名誉のために、それ以上の返礼をすることが求められる。
・・・と、なっています。補足すると、贈与→受容→返礼の3行為からなる活動のことで、そうすることの裏には、自然や人知を超えた存在への畏敬の念が横たわっており、それらへの負い目を解消するための行為なのだそう。(社会学者:マルセル・モースの『贈与論』に詳しく、のちに文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースが議論を精密化したと『経済学の犯罪』(佐伯啓思)で触れられています。)もっとも、ポトラッチの当事者は、そのような理屈は露とも思っておらず、ただポトラッチを行うだけであるそうです。
ヴァレリーに戻って、現代的知性の代表格である彼が、「失われた酒」を、ここで述べたポトラッチ的な視点で書いたということに、私は大きな意義を認めます。
今日のひと言:私は大学時代、フランスの文化にあこがれ、フランス象徴詩もかじりましたが、「失われた酒」にはたいそう感銘を受けました。そこには原初の視点があったとすれば、それはそれは楽しいことです。それにしても、ヴァレリーと言い、モースと言い、レヴィ=ストロースと言い、ソシュール(記号論)と言い、フランス人、ないしフランス語圏の人たちが多くこの種の議論に参加するのは、偶然ではないかも知れません。
余談ですが、この「失われた酒」は、ひろく自然とのSEXをも意味しているように私は感じます。もちろん、人間の男女のそれも、です。ちなみに、以下のフランス語の文字列が、原詩です。
LE VIN PERDU
J’ai, quelque jour, dans l’Océan,
(Mais je ne sais plus sous quels cieux),
Jeté, comme offrande au néant,
Tout un peu de vin précieux…
Qui voulut ta perte, ô liqueur ?
J’obéis peut-être au devin ?
Peut-être au souci de mon cœur,
Songeant au sang, versant le vin,
Sa transparence accoutumée
Après une rose fumée
Reprit aussi pure la mer…
Perdu ce vin, ivres les ondes !…
J’ai vu bondir dans l’air amer
Les figures les plus profondes…
https://fr.wikisource.org/wiki/Le_Vin_perdu より、原詩を引きました。
Vinと書けば「ワイン」のことですが、liqueur(リキュール)とも書かれているので、この酒は、フランスの酒の王:シャルトリューズ・ヴェールのことかも知れないと思います。この酒は、フランスの山岳地帯、グルノーブルのシャルトリューズ修道院で500年に渡って製造されてきた銘酒で、ブランデーに130種に及ぶ高山性ハーブを漬けこみ蒸留して、再びヒソップ(ハーブ)などをつけ込み、完成される手の込んだ酒です。薬草系リキュールで、コレラの流行を抑えた実績があります。(ちなみに、この修道院は、「シャルトリュー」という猫を作出したことでも有名です。)山の産物を海に投じる、カッコイイですね。ヴェールとは「緑」のことで、シャルトリューズにはヴェールとジョーヌ(黄)の2種類があるのです。
@「テスト氏」は、ランボーの「地獄の季節」に匹敵する散文詩集です。
今日の一品
@豚ソテー肉のレホールの葉包み蒸し
蒸し後
葉を開く
いつもソテーをフライパンで焼くのもつまらないので、庭にある比較的大きな葉を物色し、レホール(ホースラディッシュ)の葉を一枚の肉につき2枚巻いて20分蒸しました。味付けは塩麹と豚肉に相性の良いセージ。(ソーセージは、もともと塩とセージで味付けする食品です。)調味料を掛けて半日おいて蒸しました。未体験の味だったので美味しいかどうかは微妙ですが、食べました。
(2021.09.06)
@!来年のブログ休眠に向けて、「今日の一品」コーナーは、今回の「蒸し豚」料理をもって終了します。調理工程の写真やら、完成した料理の姿の写真やらを、撮るのは案外手間と時間が掛かり、疲れるし、これから取り掛かる本の執筆の時間確保に向けて、まずは廃止すべきコーナーなんです。このコーナーがお気に入りだった読者の方には、すいませんです。(なお、以前は「完全休眠だ」と私は発言しましたが、「詩歌(詩、バンクシー小劇場、短歌、俳句、今日の謎かけ、など)」コーナーは間違いなく継続するつもりです。本文はたまには載せるでしょう。もっとも散文詩で長めの文を書けば、それは本文の代わりになるだろうと考えています。 !@
(2021.09.10)
今日の詩(2編)
@雨中除草の苦闘
我が家の庭は、野菜と野草が区別なく生えている。
夏になると始末に困る野草が3種類ある:
ヤブガラシ、クサギ、コウゾなどがそれだ。
どれも生活力が旺盛で、ほっといておくと
どんどん伸びて猖獗する。(でもそれぞれ使い道はある。)
そこで除草になるのだが、2日に一辺、
フード付きの服を着込み、暑さに耐えながら行うのだ。
なぜ暑いのに、そんなカッコをするかと言えば、
マダニに宿るSFTSの病原体が怖いのだ。噛まれて感染し、
致死率は30%くらいで新型コロナウイルスより怖い。
そこで大体4時すぎに庭に出るのだ。
今日は雨の中、黒ずくめの服装をした。
黒を狙うスズメバチももう来なくなり、
しかも雨の中の作業だったので案外快適だった。
ついでに、ミョウガ一個収穫し、晩の冷奴に乗せた。
(2021.09.08)
@習近平とは
人を陥れることに長けた
「宦官:かんがん」たる宮廷政治家。
いずれ自滅する、
それが歴史の必然だと
司馬遷(歴史家)は言うだろう。
宦官:去勢されて役人をやっている者。司馬遷は刑として宮刑(去勢、避妊の処置を受ける刑)を受けたが、自分から宦官になるべく、去勢した者も多い。権力者と密接に接し、重要情報を握り、また自分に都合が良いように、情報を壟断(握り潰す)することが多い。秦を滅亡に導いた趙高などが代表的。
(2021.09.10)
今日の七句
ムラサキシキブの実は、食べられるのです。
(2021.09.06)
純白の
生まれたてなり
白い花
これは、アオイ科の植物でしょう。
(2021.09.07)
わんさかと
ヘリの飛ぶなり
公園で
ヘリとは、ヘリコプターの原理で飛ぶ昆虫、とくにトンボが思い浮かびますが、黄土色の者たちでした。
(2021.09.07)
既にもう
芽生えたりけり
春の花
(2021.09.08)
刈られても
青花咲かす
グローリー
朝顔です。モーニング・グローリー(Morning Glory)と英語で。
(2021,09,10)
白花の
蕎麦を育てる
酔狂さ
(2021,09,10)
(2021.09.13)
今日の写真
謎の物体 庭の蛇口の受け皿のコンクリートに、ぶら下がる。(2021.09.08)
☆☆過去ログから厳選し、英語版のブログをやっています。☆☆
“Diamond cut Diamond--Ultra-Vival”
https://iirei.hatenadiary.com/
ダイアモンドのほうは、週一回、水曜日か木曜日に更新します。
英語版ブログには、末尾に日本語ブログ文も付記します。記事は
虚虚実実――ウルトラバイバルとはダブりませんので、こぞって
お越しを。