虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

ランボーの詩:「大洪水の後」(詩の価値を自ら落とす?)

ランボーの詩:「大洪水の後」(詩の価値を自ら落とす?)

象徴主義の詩人だったアルチュール・ランボー(Arthur Rimbaud)は15歳で天才の名をほしいままにし、わずか20歳で詩を捨てましたが、彼の残した詩たちは、奇跡の作品群として、今日でも読まれています。


ところで、そのなかの一つで「大洪水の後」という詩はユニークです。私の見解では、一編の詩が、韻文詩と散文詩を組み合わせて出来たような構成を持っているのでは?と考えています。


この詩の出だし部を、まずフランス語で書き、ついで日本語で書いてみましょう。

Après le Déluge


Aussitôt que l'idée du Déluge se fut rassise,
Un lièvre s'arrêta dans les sainfoins et les clochettes mouvantes et dit sa prière à l'arc-en-ciel à travers la toile de l'araignée.
Oh ! les pierres précieuses qui se cachaient, − les fleurs qui regardaient déjà.

http://abardel.free.fr/petite_anthologie/deluge.htm より



大洪水の観念が腰を据えるとすぐに、
一匹の野兎が、いわおうぎと揺れる釣鐘草のなかで立ちどまり、
蜘蛛の巣ごしに虹に向かって祈りを捧げた。
 おお!身をひそめていた宝石たち、――早くも眼を凝ら
していた花々。

ランボー全詩集』(宇佐美 斉:ちくま文庫)より


この部分には嘆息しました。この大洪水は聖書の「ノアの方舟」がテーマだと思いますが、この冒頭の原初的・秘教的さはどうでしょう。神の業の霊験あらたかさに、一羽の野兎が身を正し、真摯な祈りを捧げるのです。これほどの韻文詩はマレです。ところがその後・・・


Dans la grande rue sale les étals se dressèrent, et l'on tira les barques vers la mer étagée là-haut comme sur les gravures.

(同上)


きたない大通りには、物売りの台が立ち並び、版画で見るような、あの上部に向かって段々に重ねて広げられた海の方へと、小舟が幾席か曳かれていった。

(同上)


冒頭部は4行として、詩の全体は30行程度。私の印象では冒頭部は韻文詩、後半の26行は散文詩であろうと思われるのです。今回私が使った本と違うもう一冊の本では、物売りとは「肉屋」と訳されています(『ランボー詩集』:堀口大學新潮文庫)。


汚いやら、3K職の肉屋といったように、散文的な部分が強調され、これは前半書いた韻文的で敬虔な野兎を、たとえば肉屋が捌く、といったようなアンティ・クライマックスを描く勢いです。この詩を作者本人の意志で、貶めるような意図を持っていたのか、とも思わされます。「世俗の人は、すぐ神の猛威を忘れてしまうものである」、という言葉を伝えるために。



今日のひと言:多分、ランボーはひねくれ者だったのでしょう。煌めく詩にもできた「大洪水の後」という詩を、敢えて意識的に、全体としては凡庸な詩にしてしまったと思われるのです。人間の犯罪的な意識・行為を戯画化したかったとすれば、それはそれで説得力もあるのでしょうね。



ランボー全詩集 (ちくま文庫)

ランボー全詩集 (ちくま文庫)

地獄の季節 (岩波文庫)

地獄の季節 (岩波文庫)

太陽と月に背いて [DVD]

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(「太陽と月に背いて」は、ランボーをディカプリオが演じた映画です。また、中原中也ランボーを目標にしていました。)





今日の一品


シャルトリューズの青汁割り


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フランスが誇るリキュールの王様、シャルトリューズ(ヴェール:緑)。これを青汁で割りました。強い風味のシャルトリューズがちょっとマイルドになりました。

 (2018.11.27)



サトイモ・ニンジン・干しシイタケのコンソメ


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サトイモは一度茹でこぼします。鍋にオリーブオイルを熱し、ニンジン、干しシイタケを炒め、水を張り、コンソメ一個、塩一掴み。ローリエを入れ、サトイモ投入。仕上げにナツメグ、ブラックペッパー(砕いたもの)を加え、ちょっと火を通し完成。サトイモを使って欧風料理を作りたかったのです。

 (2018.11.28)



@ユーリンチー(油淋鶏)


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ハウス食品株式会社のセット商品。鶏モモ肉の皮を特に味わう料理。皮に「パリパリさせる粉」をかなりの分量振り、フライパンに油を敷き、皮の面を中火で8分ほどフタして焼き、表裏ひっくり返して3分。皿に移して切り分け、さきほど使ったフライパンでとろみ調味料をとろみが出るまで加熱し、肉に掛けます。主に2種類の粉を使うので、小麦粉、片栗粉などを上手に使えば、再現出来そうです。

 (2018.11.29)



@牛薄切り肉とゴボウ、ネギの炒め物


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弟作。ゴボウと牛肉を合わせたのがミソです。案外合います。調味料は醤油、とうきび糖。

 (2018.11.30)



@真鱈(マダラ)のすり身のスープ


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弟が買ってきたすり身をコンソメ+塩の煮汁で茹で、火が通ったらハーブのタラゴンで香りつけしました。まあ、カマボコとハンペンの中間の味です。(タラゴンは、独特な風味を持ちます。フレンチタラゴンとロシアンタラゴンがありますが、香りがするのはフレンチの方です。)

 (2018.12.01)





今日の詩(3編)


@料理と化学分析


私は幼い頃から料理といえる料理を
作ったことがなく、
大学時代もそんな感じが続いた。
料理は、他人が作ってくれる物だった。


でも、環境問題との兼ね合いで
某農家に援農に行った際、
ニンジンの葉を見てコスモスだと思ったくらい
植物には無知だった。


そこでは、一度夕食の料理を任された。
私が作ったのは野草のハコベ料理。
御世辞にも美味しくはなかったが
これが私と料理との出合いだった。


折しも私は専門技術として
環境化学分析を心得ていたので
対象を煮たり焼いたりする点で
料理と化学分析の共通点を見つけた。


以後は、曲がりなりにも
ちゃんと料理を作って食べている。
「実験的」にね。
その感覚は創造的な料理に繋がるかも。

 (2018.11.27)





@桜の紅葉


いつもは通らぬ川際に、
桜葉の紅葉が落ちかける。


これは案外美しい。
それに気づかず、


観られる時期の
終りごろ


眼にした僥倖。
俺は運が良いナ。


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(僥倖:ぎょうこう・幸せ。)

 (2018.11.28)




@枯れない雲南百薬


雲南百薬(うんなんひゃくやく)は
我が家の定番野菜だが、
通常11月中には地上部が枯れる。


今年は12月に入っても
葉がやや黄色くなっただけで、
枯れる気配がない。


まだ葉 が食べられそうだが
これも温暖化の影響?
ある意味怖い。


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 (2018.12.01)