虚虚実実――ウルトラバイバル

森下礼:環境問題研究家、詩人、エッセイスト。森羅万象、色々な事物を取り上げます。元元は災害に関するブログで、たとえば恋愛なども、広く言えば各人の存続問題であるという点から、災害の一種とも言える、と拡大解釈をする、と言った具合です。

古賀春江:日本におけるシュルレアリスムの魁(さきがけ)

ブログ友のid:SPYBOYさんが言及されていた日本のシュルレアリスムの魁(さきがけ:先駆者)、古賀春江(こが・はるえ)さんに興味が湧いたので、図書館から画集『日本の水彩画5 古賀春江』(監修:匠秀夫、編著:古川智次/第一法規株式会社)を借りてきて紐解き、3点ほど注目すべき水彩画を選びました。まず、wikiによる古賀の概説を。なお、引用はすべてwikiから。

古賀 春江(こが はるえ、1895年6月18日―1933年9月10日)は大正から昭和初期に活躍した日本の男性洋画家である。日本の初期のシュルレアリスムの代表的な画家として知られる。本名は亀雄(よしお)。後に僧籍に入り「古賀良昌(りょうしょう)」と改名した。「春江」はあくまでも通称である。

(中略)

古賀は西洋の多くの美術動向や画家の影響を受け、短期間のうちにその作風を変転させている。若い頃の古賀は竹久夢二の絵にあこがれていて、1919年に松田諦晶宛ての葉書でも竹久夢二を賞賛しており、その影響はかなり長かったと見られる。その後もセザンヌから影響を受けたり、未来派ピカソローランサンにも関心を持っていたことが残されたスケッチブックの模写からうかがえる。特にパウル・クレーからの影響は大きく、1926年から1927年にかけてクレー風の作品が描かれた。その後「海」や「鳥籠」によって再び作風を転換させた。発表当時、「海」はシュルレアリスムの日本絵画への初めての表れだとみなされた。油彩・水彩画の他に、自作の絵に付けた詩も多く残している。


ここでまず「婦人像(好江夫人)」(1919年頃)。この絵は精神が不安定だった春江を物心両面から支えた好江夫人の肖像画です。きっちり水彩で描かれたこの絵は夫人の芯の強さを物語るようです。



つぎにパウル・クレーの影響が顕著な「公園のエピソード」(1933年)



実際に古賀は一目でクレーの影響が顕著な絵を何枚も描いています。クレーの絵を知っている人には一目瞭然です。ちなみにクレーの絵「赤い風船」を挙げておきます。クレーもグワッシュを使った水彩画の名手です。



http://art.pro.tok2.com/K/Klee/Klee.htm


参考過去ログ

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20090426#1240723255

 :パウル・クレー〜描線と色彩の魔術師


そしてシュルレアリスムの絵である「鳩の唄」(1933)。これは多分ふたりの人物が抱擁しあっている絵のようにも見えますが、それはあくまで一つの見解で、そこから遥かな高みに飛翔する意図を持った絵なのかも知れません。ただ具象的な面、ヤモリとか4本指の手先(?)も残しています。



このような絵について古賀はどう言っているかと言うに、

この場合の対象は何処まで精神を通して計算されるものであって現実的意味を持たなくなる。現実的形式ではなくして芸術的形式である。例へば描かれたる机は机自身の形ではない。具象的現実の机ではなくなるのである。斯く対象としての現実的表象がその意味を持たなくなった所から芸術は始まる。作者の影も同様に薄くなる。こゝに作者が居ると思はせる作品はまだ純粋ではないのである。純粋の境地―情熱もなく感傷もない。一切が無表情に居る真空の世界。発展もなければ重量もない。全然運動のない永遠の静寂の世界!

超現実主義は斯くの如き方向に向つていくものであると思ふ。


そして、古賀は梅毒(性病の一種)を病んでおり、それが死因になると思われます。ただその救いがたき身体には、いろいろな発想が浮かび、一種の躁状態で、絵を描くにあたっての燃料になったとも思われます。

だらしなく胸をはだけ、愛犬(白茶けたオークル色と黒褐色の霜降りまだら毛の中形ブルドッグ名はチェロ)を 曳連れではなく、引きずられて踉蹌(ルビ・よろ)け乍ら来る足取り。 来る度毎に何時も餡パンや果物を懐中しており、談話最中如何かしたはずみにそれが懐から転び出る、 周章狼狽懐え掻込む、『サーこれから白山町(赤線娼窟)え行くのだ』と言ってはフラフラと帰り行く有様、 焦点(ルビ・ピント)のぼやけた様な瞳差(ルビ・ざ)し。安定なく物怖する如く右顧左顧(ママ)しながら語る所作。 彼方此方と飛躍また飛躍して取止めなき話題、支離滅裂で意味をなさず判断に苦しむ言葉。 夢遊病者さながらに。
— 松田実


最後に、コラージュの手法を使って描いた「海」(1929年)。この作品が古賀の到達点とも言えるでしょう。この絵はwikiから。



今日のひと言:でも、日本人の画家は、近代以来、日本独自の絵画を生み出すことには失敗していると思います。やれセザンヌだ、やれクレーだ、ダリだ、と西欧の有名画家の後追いをしてきた感があります。古賀春江もその一人だったような。日本発の絵画・浮世絵のような絵画ジャンルを、これからの日本は世界に発信できるのでしょうか?


・・・そう書きつつ、思い出したことがあります。

http://cenecio.hatenablog.com/

 の記事で知ったのですが、フランスでは、宮崎駿のアニメ作品が極めて高く評価されており、フランス人は日本人に、「君たちが母語(母国語:日本語)で宮崎の作品を観賞できることが羨ましい」と語ることがあるのだそうです。さすれば、同じくフランスをはじめとしてヨーロッパ各国に受け入れられているマンガも、アニメと同様、むかしの日本絵画:浮世絵のようにヨーロッパで受容されているわけで、浮世絵に続く新しい波は、日本発のマンガ・アニメであると言っても良いでしょう。



古賀春江 (日本の水彩画)

古賀春江 (日本の水彩画)

シュルレアリスム絵画と日本 イメージの受容と創造 (NHKブックス)

シュルレアリスム絵画と日本 イメージの受容と創造 (NHKブックス)

写実と空想 (1984年)

写実と空想 (1984年)

パウル・クレー―絵画と音楽 (岩波アート・ライブラリー)

パウル・クレー―絵画と音楽 (岩波アート・ライブラリー)




今日の一品


@かに玉



弟作。グリコの商品を使用。タレと具はあらかじめ付いていて、こちらはレシピに従って作るのみ。フワフワして、なかなか美味しかったです。

 (2018.03.08)



@春菊のシーチキン和え



弟作。我が家の定番料理。茹でた春菊を切りそろえ、シーチキン、マヨネーズと和えます。これが美味しい。春菊のように香り高い野菜なら、グッドコンビネーションでしょう。さほど香りのないホウレンソウで試したことがありますが、今一つでした。

 (2018.03.08)



@黒黄赤煮(ドイツ国旗煮)



以前取り上げた「黒白赤煮」とほぼ同じ。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20180206#1517845732

白菜、キクラゲ、クコの実を使うのは同じです。白菜の色が黄色いので、こう呼びました。その色の組合せから、ドイツ国旗の三色と言っても良いかも。

 (2018.03.09)



@カキナの洋風和え物



弟作。カキナは北関東の栃木・群馬で作つけられるアブラナ科野菜。今回は茹でた後、マヨネーズ、塩、クルトン、フライド・オニオンを合わせました。


カキナについては、以下の過去ログを参照されたし。

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20140315#1394828574

 (2018.03.10)



フキノトウの味噌和え


収穫

完成


庭で採れたフキノトウ40個くらいを、草木灰の上澄み汁で煮て冷まし、洗って、味噌・砂糖を混ぜた調味料と合わせて混ぜ、最後に殺菌のためレンジでチンしました。苦さが味。

 (2018.03.10)





今日の二句


浅間山
姿を汚す
送電線



雄大な山も、この人工物に係ると、たいそう俗化してしまうようです。

 (2018.03.10)



猪(しし)の罠
仕掛けられたる
河原かな



この区域は、猟銃による狩猟は禁じられているため、市役所が罠猟をしているのです。長年現在地に住んで初めて見ました。

 (2018.03.11)